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モーターのブレーキ回路設計の盲点Wired, Weird(2/2 ページ)

» 2013年02月04日 07時30分 公開
[山平 豊内外テック]
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内蔵のブレーキは安全/制動用にあらず

 2つ目の事例は、今から5年ほど前に設計された基板で、不具合の内容は3相ステッピングモーター用の駆動ICの破損だった。現場の報告からするとモーターに供給される電源の電圧が下がっており、モーター作動中にブレーキがかかった可能性があった。さて、モーター作動中のブレーキ動作は許可されているのだろうか? 図1で紹介したACサーボモーターのメーカーのWebサイトに、気になる記述があった。こうだ。

<注意>サーボモーターに内蔵のブレーキはあくまで停止状態を維持する目的の「保持用」です。動いている負荷を停止させる「制動用」としての使用はしないでください。

 モーターが作動中はモーター単体の力に、ワークを動かしている力が重畳されており、モーターに流れる電流が大きくなっている。従って、モーターが作動中にブレーキをかけるとモーターの電源に大きな電流が流れ、電源が過負荷状態になる危険性がある。

 破損した3相ステッピングモーター用の駆動ICについても、取扱説明書で詳細を確認してみた。するとその資料にも同様の注意書きがあった。

電磁ブレーキ付きモーターのブレーキ機構は、可動部およびモーターの位置保持用です。安全ブレーキとして使用しないでください。装置破損の恐れがあります。

 果たして、装置のハードウェアとソフトウェアの設計者たちはこの注意書きを読み、内容を把握して適切な設計を行っていたのだろうか?

 以下、この不具合事例を詳細に説明する。顧客から報告を受けた不具合の内容は以下の通りだ。

  1. 電源を投入したが、エラー表示が消えず動作しなかった。エラー表示を解除しようとしたが、できなかった。
  2. 通電表示のLEDが通常より暗く点灯している。モーターのコネクタを抜くとエラー解除ができ、LEDが通常と同じ明るさになる。
  3. 目視確認の結果では、外観上、傷などは見つからなかった。

 これらから、以下のことが推定される。

  • モーターがつながっていなければ、供給された電源の電圧は正常であり、通電表示のLEDが明るく点灯する。
  • モーターを接続すると、供給された電源電圧が低下し、通電表示のLEDが暗くなる。

 つまり、モーター駆動ICの出力がオン状態のままで破損し、電源を接続するとモーターの直流電流で電源の電流リミットがかかって電源電圧が低下し、通電表示が暗く、モーター駆動ICの出力デバイスが短絡破損していることが推定できる。

 不良基板の現物を入手してモーターを接続し、24Vで5Aの電流リミットで通電したが、正常に通電されLEDが暗くなる現象は再現できなかった。そこでこの基板にモーターの回転パルスを与えたら現象が再現し、通電表示が暗くなった。上アームもしくは下アームのトランジスタの短絡破損が予想された。モーター駆動ICを交換して動作確認したらモーターは正常に回転動作したので、修理完了と判断して基板は顧客へ返却した。また、不良のモーター駆動ICをメーカーに送って、不具合解析を依頼した。その結果、以下の回答があった。

  • モーター駆動の下アームのFETのうち、2個が短絡破損しており、それぞれのゲート抵抗も破損していた。
  • 何らかの原因で出力に過度の電流または電圧がかかり、駆動ICの不具合になった。

 このメーカーから得た解析結果と破損箇所を示したのが図4である。

図4 モーター駆動ICのメーカーが示した解析結果 図4 モーター駆動ICのメーカーが示した解析結果 (クリックで画像を拡大)

 この図にある6個のFETのうち、F1、F2、F3が上アーム、F4、F5、F6が下アームになる。図中、右側中央にあるU、V、Wの端子にはモーターのコイルが接続される。前述の通り、下アーム側の2個のFET(矢印で指し示したF4とF6)が短絡破損していた。この破損状況からすると、やはりモーターが作動中にブレーキがかかって、過電力でFETが破損した可能性が高い。破損した時の状況を推定してみた。

 モーターの回転中は下アームと上アームのFETを交互にオン・オフさせ、モーターコイルに回転磁界を発生させて、モーターの軸を回している。モーター回転中で下アームのF4とF6および上アームのF2のFETがオンしている瞬間にブレーキが作動した。その瞬間にモーターがロックし、モーターの電流が増大したため電源の電流リミットが作動して、電源電圧が低下した。

 その後、下アームのF4とF6および上アームのFETはオンしたままになってしまった。電源電圧が下がっても、モーターのコイル抵抗は数Ωであり、この状態で停止したため電源から電流が流れ続けた。その後、モーターを通して流れる電流でFETが過熱し、F4とF6が短絡破損して各々のゲート抵抗も焼損した。

 また、電源電圧が低下しているので、通電表示のLEDが暗くなった。供給電源の電流リミットがかからなければ電源電圧は低下せず、駆動ICの過電流検知回路が作動して、駆動ICは破損しなかったかもしれない。

 電源の選択の問題もあるが、一番の問題はモーターが作動中にブレーキがかかった可能性があることだ。本来は非常停止などの信号を受けたら、まず駆動ICにモーターを停止する信号を送り、その後ブレーキをかけるような動作を行うべきである。果たしてソフトウェアはそのように設計されているのだろうか? ソフトウェアの担当者もハード仕様をしっかり読んで設計する必要がある。これを怠れば、先に示したメーカーの注意事項にあるように「装置破損」が起きてしまう。機器の開発時のブレーキ動作の評価も、ブレーキが確実に無理なくかかることを確認するように心がけてほしい。

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