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年代物のオシロを遅延線でアップグレードDesign Ideas 計測とテスト

年代もののトリガー掃引オシロスコープは多くの用途でいまだに使われている。古いオシロでも、外部遅延線と等化器(イコライザー)を追加すれば、“アップグレード”が可能だ。

» 2013年04月19日 15時18分 公開
[Robert Houtman,米国ワシントン州在住]

 年代もののトリガー掃引オシロスコープは多くの用途でいまだに使われている。しかし、内部に遅延線を持たないので、掃引をトリガーするパルス信号を表示できない。また初期の実験用オシロスコープは遅延線を内蔵しているものの、トリガー・パルスを表示するには遅延が不十分である。このようなオシロスコープでは、パルス信号の本当の形が分からないままになってしまう。

 外部遅延線と等化器(イコライザー)を追加すれば、この問題に対処できる。オシロが正確なトリガー・ポイントの軌跡を表示できるようになり、より使いやすく、より確実になる。等化器付きケーブルで1μsの遅延を追加するごとに、1μsずつ前のトリガー情報を表示できる。

 図1には、オランダのPhilips社の10MHzオシロスコープ「PM3230」にこういった改良を加えるために必要な回路と部品を示した。広帯域アンプ(AD8055)、750nsの遅延ケーブル、2段等化器で構成する。広帯域アンプは信号を原信号のレベルに戻すとともに、トリガーを生成する役目を負う。

図1 750nsの遅延ケーブルを使って年代物のオシロスコープをアップグレードする回路(クリックで拡大)

 RG6UやRG59Uなどのビデオ・ケーブルは不用品セールや中古部品店などで普通に入手できる。この75Ωケーブルに標準のビデオ用コネクターを使って固体あるいは発泡材の誘電体を接続し、750nsの遅延線を製作する。

 低インピーダンス・ドライバーで、遅延線の2極ステップ応答を図2(a)のようにアイ・パターンで表示する。遅延線の抵抗性損失のため、オーディオ周波数帯域の信号透過率は約65%になる。導体の表皮効果のため、損失は高周波無線領域で増えていく。

図2 ケーブルのステップ応答波形の違い
(a)は遅延時間750nsのケーブルだけを経由したステップ応答。(b)はケーブルを含む図1の回路を経由したステップ応答(クリックで拡大)。

 表皮効果損失によるステップ応答の理論的な形を、補誤差関数erfc(kl/√t)で表す(lは遅延線の長さ)。時間tの原点は、長さ160mのケーブルを伝搬してきた後のステップの始点とする。コンピューターによる計算でこの関数を図2(a)のステップ応答に合わせ込む。最も良く一致する場合の定数kはk=2.6×10−7√s/mである。通常のシングル・ブリッジT型フィルターでは、この関数を十分に補正することはできない。そこで、図1に示した極零相殺の2段等化器を得るために、時間ドメイン法を適用する。このダブル・ブリッジT型フィルターは、10MHzの帯域にわたって、ケーブルの位相および振幅の歪(ひずみ)を補正できる。

 これら2個のフィルターは、基本的にはそれぞれ抵抗性減衰器である。高速のステップならば、時定数τの間は減衰せずに通過できる。コンデンサーは高周波では短絡に相当するので、短時間ならば等化器の入力ポートからはコンデンサーを通して75Ωのケーブル負荷しか見えない。インダクターは高周波ではオープン(断線)に相当する。従って抵抗素子は短時間には影響を及ぼさない。結局、時間tがステップ応答の時定数τを過ぎると、コンデンサーおよびインダクターが抵抗性減衰器に変わっていく。

 初段のτが180nsのフィルターだけだと、ステップ応答は丸みのある波形となってしまう。2段目のτが25nsのフィルターでは、ステップ応答は鋭いステップ波形となり、オシロスコープの帯域だけで制限されるようになる。

 それぞれのフィルターは、ケーブル・テレビ用の信号分岐器に格納する。それから、遅延線に沿っていろいろなところに反射が起きないよう75Ω定抵抗フィルターを接続する。こうすると、時間ドメイン反射計を使って反射が起きないように受動部品を微調整できる。

 広帯域アンプ(AD8055)を利用したアンプ回路の帯域幅は100MHzを超える。10MHzのオシロスコープには十分である。オシロスコープの入力および低容量プローブとインピーダンス整合させるため、アンプの入力には30pFのコンデンサーと1MΩの抵抗を並列に接続した。

 図2(b)にはこのアンプと、2段等化器、および750nsの遅延ケーブルを用いた場合の最終的なアイ・パターンを示す。このアイ・パターンは、750nsの時間シフトという点以外は、図1の回路を付けないオシロスコープを用いて得られるはずのアイ・パターンと基本的に同じである。

図3 インパルス応答の違い
軌跡Aは、図1の回路を含まない場合。軌跡Bは、図1の回路を取り付けた場合。きれいなインパルス波形を表示した。

 この回路の利点は図3を見るとわかる。軌跡Aは元のインパルス応答である。図1の回路は付けていない。特徴のない軌跡である。軌跡Bでは、入力パルスがアンプを通過して外部トリガー入力へと進む。次に等化器と遅延ケーブルを通ってオシロスコープの入力に達する。この遅延時間は、オシロスコープが掃引を開始するまでの内部遅延よりも長い。約20nsのきれいなパルス波形がディスプレイに現れる。完成したユニットは、10MHzの実験室用オシロスコープとして利用できる。

 入力のインパルス信号は、位相零の余弦波だけで構成した偶関数である。ただしケーブルのインパルス応答は単純には図2(a)の波形の導関数で、長くゆったりした尾を引く。従ってこのインパルス応答はもはや偶関数ではなく、ケーブルの通過によるさまざまな位相差を持った余弦波の合成になる。図3は、これらの位相シフトや振幅変動を図1の回路が補正することを示している。軌跡Bは尾を引かない短い対称形のパルスである。入力インパルスに可能な限り似た偶関数となっている。


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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。

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