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安全なデジタル無線通信を支えるスペクトラム拡散技術無線通信技術 スペクトラム拡散(2/4 ページ)

» 2013年04月22日 09時00分 公開
[Rahul Garg and Prakhar Goya,Cypress Semiconductor]

周波数ホッピング方式の動作

 周波数ホッピング方式のスペクトラム拡散技術(FHSS)では、伝搬周波数が異なる複数のサブチャンネルで通信帯域が構成されてあり、送信周波数を1つのサブチャンネルから他のサブチャンネルへと一定の時間間隔で順次、切り替えていく(図2)。FHSSは時間平均の点からみると非常に広い帯域が必要だが、瞬時の帯域幅は元の情報信号の帯域幅と等しい。


図2 FHSSにおける周波数ホッピングの様子。送信周波数が一つのサブチャンネルから次のサブチャンネルに、一定周期で変化する (クリックで拡大)

 サブチャンネル間の周波数ホッピング(周波数の切り替え)は、あらかじめ設定されたシーケンスの通りに進む。各無線受信器は同期を維持するために、対応する無線送信器の周波数ホッピング・シーケンスを知っていなければならない。言い換えると周波数ホッピング・シーケンスが、無関係な無線受信器による通信傍受の対策になっている。

 FHSSには無線通信における「遠近問題」の対策という効果もある。無線送信器と無線受信器があまりに近いと、干渉によって遠くに在る無線受信器では信号を認識できなくなってしまう。FHSSを利用すると複数のサブチャンネルで受信することになるので、干渉によってブロックされるサブチャンネルは一部にとどまる。

直接拡散方式の動作

 直接拡散方式のスペクトラム拡散技術(DSSS)では、信号を送信する前に、信号の各ビットと特定のビット列を乗算しておく。乗算結果を変調してから無線信号として送信する。

図3 PN(擬似雑音)符号を使ったスペクトラム拡散。ここで使用される乗算はXOR(排他的論理和)演算であり、各ビットをk個のチップに分割する。kはPN符号の長さ (クリックで拡大)

 乗算に使用するビット列は「拡散符号」と呼ばれる。拡散符号にはいくつかの方式が存在するが、よく使われるのは「擬似雑音(PN:Pseudo-Noise)符号」である。拡散符号は広い周波数帯域を有する信号である。このため、乗算結果も広い周波数帯域を備えることになる。ここで乗算とは論理演算では排他的論理和(XOR)であり、PN符号の長さをkとすると信号ビットはk個の「チップ」に分割される(図3)。

 直接拡散では、信号の実効的な転送速度が低下する。PN符号の乗算によって信号が冗長性を備えることになるからだ。物理特性から決まる転送速度RPと実効的な転送速度REの関係は次に示す(3)式で与えられる。

 データ転送速度は低下するものの、伝送路における干渉の影響は受けにくくなる。伝送信号ビット・パターンの中で1個あるいは2個のビットが壊れても、適切な誤り訂正手法を導入することで、元の信号データを復元できるからだ。

 DSSSでは、PN符号を使用することで受信器が対応する送信器に同調し、ノイズのような他の信号には同調外れとなる。このような選択動作の結果、信号の耐干渉性が強化され、必要な信号対雑音比が低くて済む。

 DSSSとFHSSでは、周波数特性が大きく異なる。FHSSは、ごく短い時間で見ると送信エネルギーが1個のサブバンドに集中する。DSSSでは、広い周波数範囲に均一に送信エネルギーが分布する。送信エネルギーの周波数帯域が広いため、DSSSでは遠近問題が深刻化しやすい。

 DSSSでPN符号は、FHSSの周波数ホッピングと同様に、通信傍受への対策となる。ただしビット・シーケンスはPN符号となる条件を満足していなければならない。

図4 DSSS受信器の動作概念図 (クリックで拡大)

 DSSSベースの無線通信システムでは、情報を担う狭帯域信号がPN符号シーケンスと乗算され、より広帯域の信号に拡散されてから、無線送信される。空中を伝搬する無線信号には、様々な雑音や干渉などが加わる。このため無線受信器は、元の符号情報だけを復元し、不要な信号は取り除かなければならない。この処理のために、無線受信器は「相関器(Correlator)」を備える(図4)。相関器は、特定のPN符号によってエンコード(符号化)された信号だけを通過する特殊な整合フィルタである。

誤り訂正とPN符号

 誤り訂正に対するPN符号の働きを理解するため、入力シーケンス(入力信号)とPN符号が1チップだけ違う場合を考えてみよう。この場合はミスマッチの程度が小さいことから、相関器出力は最大値にならず、最小値にもならない。

 適切に設定したしきい値によって相関器出力を判別すると、ミスマッチの大きさについておおよその測定値が得られる。無線受信器では、このような測定を基に入力シーケンスが所定のPN符号に対応するかどうかがインテリジェントに判定される。このようにして、PN符号はチップの破損(潰れ)による誤りを訂正するよう働く。

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