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「センサ新時代」(3) MEMSセンサに不可欠なベアダイ
約10万製品が対象、10個から購入できるサービスが登場
【講座】回路設計の新潮流を基礎から学ぶ

MEMSセンサの普及をきっかけに、センサ素子の複合化とデジタル出力化が急務になっている。いずれも、オペアンプやA/Dコンバータのベアダイが欠かせない。しかし、これまでは、三つの高いハードルが存在していたため、ベアダイの入手は困難だった。この状況を変えたのがTIだ。

» 2013年07月01日 00時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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図1 センサ機器の主な構成
センサ素子のほか、オペアンプとA/Dコンバータが必須になる。これらの三つを一つのパッケージに封止すれば、デジタル出力のセンサ・モジュールが実現できる。実際の電子機器では、これらにマイコンや無線通信機能、4-20mAのトランスミッタを接続して、センサ機器を構成している。

 複合化とデジタル出力化――――。現在、センサ市場に押し寄せている二つの大きな波である。

 複合化とは、異なる物理量を検出するセンサ素子を一つに集積すること。非常に小さな外形寸法の素子で複数の物理量を検出できるため、電子機器の小型化に大きく貢献する。デジタル出力化とは、その名の通り、検出した物理量をデジタル信号として出力することだ(図1)。センサ素子を封止するパッケージの中に、オペアンプやA/Dコンバータなどからなるアナログ・フロントエンド(AFE)を一緒に搭載することで実現する。

 こうした大きな二つの波の源になっているのは、MEMS(Micro-Electro Mechanical Systems)技術である。これは、シリコン基板やガラス基板、水晶基板などの上に機械可動部やセンサ、電子回路などを作り込む製造プロセス技術。従来の製造技術に比べると、大幅な小型化を実現できる。センサ素子自体を小型化できるようになれば、その周辺機能にも当然ながら小型化が迫られる。このため、複合化とデジタル出力化が急ピッチで進行しているわけだ。

ベアダイの注目度が高まる

図2 ベアダイを入手すればさまざまな実装形態に対応できる
マルチチップ・モジュール(MCM)やダイ・スタック、フリップチップ実装などを実現できるようになる。

 こうした二つの波に乗って、現在、注目度が高まっているのが半導体チップのベアダイ供給である。通常、半導体チップは、プラスチック材料やセラミック材料を使ったパッケージに封止されている。パッケージに封止した方がプリント基板に実装しやすかったり、出荷時のテストを実行しやすかったりするメリットがある。しかし、その一方で、外形寸法が大きくなってしまうというデメリットが生じる。ベアダイ自体は、かなり小さい。その周囲をパッケージで覆ってしまうため、どうしても大きくなってしまうのだ。

 オペアンプやA/Dコンバータなどのベアダイが入手できれば、MEMSセンサとともに基板に実装することでMCM(マルチチップ・モジュール)タイプの小型センサ・モジュールを実現したり、デジタル出力化を達成したりすることが可能になる(図2)。さらに、MEMSセンサやオペアンプ、A/Dコンバータなどの各ベアダイを積層(スタック)することで超小型化を狙うことも可能だ。センサ・モジュールを封止するパッケージ材料を自由に選べるため、セラミック材料を採用して高温環境下で使えるようにすることも可能になる。

ベアダイ供給を阻む三つのハードル

 しかし、半導体チップのベアダイを入手することはそんなに簡単ではない。三つの高いハードルが待ち構えているからだ。

 一つめは、半導体メーカーとの間に秘密保持契約(Non-Disclosure Agreement)を結ぶ必要があることだ。通常、この作業は、会社の法務部門などを巻き込むため、大きな労力が掛かるのが一般的だ。

 二つめは、初期開発費用(NRE:Non-Recurring Expense)を納める必要があることだ。通常、半導体メーカーでは、ベアダイ供給に対応するために、テスト装置や検査装置などを新たに導入しなければならない。製造ラインを再構成する必要に迫られる場合もある。こうした作業には、比較的大きな金額が必要になる。その一部をベアダイの購入者が請け追わなければならない。

 三つめは、最小購入単位が決まっていることだ。少なくとも、1枚のシリコン・ウェハー分は購入しなければならない。FPGAやDSPなどの大型ロジック・チップであれば、比較的少量の購入で済む場合があるが、オペアンプなどのアナログ・チップでは、大量の購入が求められるケースが多い。必要な数量が少ない場合は、多くのベアダイがムダになってしまう。

 しかも、こうしたハードルは、開発の評価段階に乗り越えることが求められる。開発が順調に進み、量産にこぎつけることができれば、ハードルを乗り越える労力や支出に見合った報酬を得られるだろう。しかし、開発はうまく行くとは限らない。失敗に終わる場合もある。そのため、喉から手が出るほどベアダイが欲しくても、実際は購入をあきらめる電子機器メーカーも少なくない。

約10万製品が対象、10個から供給

 このように、半導体チップのベアダイ供給はさまざまな問題を抱えている。しかし、超小型のMEMSセンサや高温対応のセンサ・モジュールなどでは、ベアダイ供給は欠かせない。

 そこでテキサス・インスツルメンツ(TI)では、2012年3月に思い切った施策を打った。ベアダイ供給時にNDAを結ぶこととNREを支払うことを免除し、最小10個と少量から購入できるサービスを開始したのだ。これであれば、センサ・モジュール開発の評価段階でも、大きなリスクを冒すことなく、気軽にベアダイを入手できる。

 しかも、ベアダイ供給の対象になる半導体チップは、同社の全製品である。すなわち10万点を超える製品すべてをベアダイで入手できるわけだ。この点は、センサ・モジュールの開発者にとって朗報である。なぜならば、採用するセンサの出力特性によって、最適なオペアンプやA/Dコンバータ、アナログ・フロント・エンド・チップが存在するからだ。製品の点数が少なければ、最適なチップが存在しないかもしれない。

 さらに、同社は半導体チップに関するさまざまな製造プロセス技術を社内に抱えている。具体的には、高速BiCMOS技術、高精度アナログCMOS技術、高耐圧BiCMOS技術、高集積アナログCMOS技術の四つである。このため、高い精度が求められる用途や、高速動作が求められる用途、高耐圧動作が求められる用途などに対応したオペアンプやA/Dコンバータなどを数多く取り揃えている。日本テキサス・インスツルメンツ(TI) 営業・技術本部 マーケティング統括部 フォーカスドEEマーケティングの佐々木幸生主事は、「オペアンプやA/Dコンバータの品ぞろえはかなり幅広い。顧客要求に対して多くの提案ができる」という。

 ただし、まだ品ぞろえが必ずしも十分ではない製品分野もある。複数の物理量を検出できる複合センサに向けた可変利得アンプやアナログ・フロント・エンド・チップなどである。「現在、製品を鋭意取り揃えているところだ」(同氏)。具体的には、センサ素子の特性に合わせて利得を制御できる「PGAシリーズ」や、特定のセンサに合わせて最適化した「AFEシリーズ」などが対象である。

TDとKGDのどちらかを選択できる

図3 入手可能なベアダイの製品
TIのウェブ「Die/Wafer Solutions」に最小10個から購入できる製品一覧表が掲載されている。現時点(2013年6月)では、約数十点の製品が掲載されている。

 それでは、ベアダイの購入方法を紹介しよう。同社のウェブ「Die/Wafer Solutions」に最小10個から購入できる製品一覧表が掲載されている。現時点(2013年6月)では、数十を超える製品が掲載されている(図3)。

 製品は大きく二つに分けられる。一つは「テスト・ダイ(TD)」。もう一つは、「KGD(Known Good Die)」である。テスト・ダイとKGDの違いは、プローブ・テストの工程にある。テスト・ダイでは、25℃の動作温度における直流(DC)テストのみを実行する。さらに、データシートには、ダイの寸法やパッド情報(配置や電極材料)、厚さといった情報しか記載されていない。

 一方のKGDでは、プローブ・テストにおいて全動作温度範囲にわたって、DCテストと交流(AC)テストの両方を実行する。つまり、一般的なICパッケージ封止品と同程度のテスト内容と、その結果に対する保証を実行しているわけだ。従って、データシートには、ダイの寸法やパッド情報(配置や電極材料)、厚さに加えて、DCとACの電気特性も記載されている。テスト・ダイとKGDを比較すると、テスト項目が多い分だけ、KGDの方が高い信頼性が得られる。

 上記のウェブページに掲載されていない製品についても、ユーザーがリクエストを出すことで提供を受けることが可能になる。「リクエストを受けたら約2週間で検討し、供給の可否を決める」(佐々木氏)。供給が可能と判断されれば、テスト・ダイの場合は約3カ月後、KGDの場合は約6カ月後に量産を始められる。

 なお、ベアダイ未対応品を最初に注文したユーザーに限り、最小購入数量(MOQ)が設定される。こうしてベアダイに対応した製品はその後、汎用品としてウェブページに掲載され、最小10個から購入できるようになる。

 ますます市場規模を広げるMEMSセンサ。それとともに半導体チップのベアダイ供給の重要性は高まり、センサ市場におけるTIの存在感も増していくことだろう。



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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年3月31日

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