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少ない部品点数で実現する絶縁型フォワードDC/DCコンバータアナログ回路設計講座(1)

ここ数年でDC/DCコンバータICは、大きく進化し、少ない部品点数、短い時間で絶縁型高密度DC/DCコンバータ回路を設計できるようになりました。今回は、そうした最新ICを使用した絶縁型高密度DC/DCコンバータ回路をいくつかご紹介しましょう。

» 2016年03月04日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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 この25年間で、高密度絶縁型DC/DCパワー・コンバータは大きく変化しました。

 フルブリックおよびハーフブリック・サイズのDC/DCコンバータが初めて登場したときは、ユーザーにも電源メーカーにも大きな興奮が巻き起こりました。これらのブリックは数百個の部品を内蔵しており、各部品を個別に設計するのに比べて、はるかに簡単に使用できました。これらのコンバータは、バス電圧から大きな電力を得られるため入力と出力間で−48Vの入力絶縁を要する電気通信アプリケーションで使用されます。また、コンバータの登場によって、データ通信および産業用システムにおける分散型電力アーキテクチャの採用も促進されました。

 同じ頃、この市場に新規参入して、業界トップ企業に追い付こうと、急ピッチで開発を進める企業がいくつかありました。多くの電源メーカーが、何年もの苦労の末、独自の磁性部品、トポロジ、制御スキームを開発しながら、製品を市場に投入しました。各社は、常に、自社の旧世代よりも優れ、競合他社よりも優れた製品を開発しようと努力してきました。多くのメーカーの製品の実装面積は同じでしたが、寸法およびピン配列を独自に開発して特許を取得するメーカーもありました。現在、1/4ブリック、1/8ブリック、1/16ブリックが実装面積に加わっています。

 しかし、アプリケーション・トポロジ固有のDC/DCコントローラが登場し、Würth、Pulse Engineering、Coiltronicsなどの企業が量産品のプレーナ型パワー・トランスやインダクタを発表したことで、独自の設計を作成することは以前よりはるかに容易になりました。現実に、絶縁型の設計は、フライバック・コンバータでは15個未満、フォワード・コンバータでは20個未満の部品で可能です。

 このように、アプリケーション固有のコントローラおよびモノリシック・デバイスの新時代に入ったことで、設計者は絶縁型DC/DCコンバータの開発について異なる手法を手に入れました。MOSFETスイッチング、VDS定格および、RDS(ON)の改良により、ディスクリート設計も簡単に行えるようになりました。また、出力電圧のレギュレーションのための帰還ループにオプトカプラを必要としない設計も登場しました。

 絶縁型の出力は、電気通信およびデータ通信で義務付けられている48Vの絶縁要件だけでなく、幅広いDC/DCコンバータ・アプリケーションに必要とされています。絶縁は、車のバッテリー、中間バス、産業用入力などのノイズを伴う入力電圧からのグランド絶縁を要するノイズに敏感なデバイスに必要になることがあります。ディスプレイ、プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)、GPSシステム、一部の医療用モニタリング・デバイスはすべて、ノイズの多いバス電圧によって悪影響を受けます。検査カメラ、歯科用器具、睡眠およびバイタルサイン・モニターはすべて、ノイズの多いソース電圧の悪影響を受ける可能性のあるディスプレイを使用しています。絶縁電源は、ディスプレイの異常の原因となるノイズを削減可能なグランド絶縁を提供します。

新しい方向性

リニアテクノロジーは、フライバック・トポロジ、フォワード・トポロジ、プッシュプル・トポロジ、フルブリッジ・トポロジの絶縁型高密度DC/DCコンバータで使用可能なトポロジ固有コントローラを各種取りそろえています。同期整流あり/なしの製品、オプトカプラ付きの製品、トランスを使用して帰還ループを閉じる製品があります。大きく分けて、産業用市場向け(9〜32V)と、電気通信/データ通信市場向け(36〜75V)の2つの入力電圧範囲があり、一部、18V〜75Vの入力電圧範囲で動作する製品もあります。リニアテクノロジーは、これらのすべてのトポロジおよび入力電圧範囲と、1.2V〜48Vの出力電圧範囲に対応する設計を事前に作成しました。デモ基板、電気回路、部品表(BOM)、PCB設計用のガーバー・ファイルを提供可能です。ロード/ライン・レギュレーション、リップルおよびノイズ、効率、過渡応答を含む性能曲線を記載したクイックスタート・ガイドも提供されます。

 絶縁型高密度DC/DCコンバータで使用される最も一般的なトポロジの1つが、フォワード・コンバータです。リニアテクノロジーは、同期MOSFETの制御、タイミング、駆動のために1次側ICおよび2次側ICで動作する、1スイッチと2スイッチの両方のフォワード・コントローラを提供しています。降圧コンバータの設計者は、長い間、同期整流と多相インターリーブ電力段を備えた最新のコントローラICが実現する簡素性、高効率、過渡応答の高速性のメリットを利用してきました。しかし、現在では、それと同じメリットが、フォワード・コンバータで実現できるようになりました。最近発売された「LT8310」は、部品点数の少ないアプリケーションで使用できるデバイスの良い例です。実際、次の図1に示すLT8310では、20個の外付け部品のみで絶縁型フォワード・コンバータを構成し、最大78Wの出力レベルを実現しています。

図1 「LT8310」とわずか20個の部品で構成された、48V入力12V/6.5A出力の絶縁型フォワード・コンバータ

 図1の回路は、92%もの効率で公称48Vの入力から12Vの出力(最大電流6.5A)を生成します。この共振リセット付き1次側フォワード・コントローラは、6V〜100Vの入力電圧範囲で動作し、最大200Wの電源レベルをターゲットとしています。このデバイスは、同期整流式および非同期整流式の両方のアプリケーションで使用できます。同期整流式の動作では、同期整流のタイミングを取るため、LT8310は制御信号をパルス・トランスを介して2次側MOSFETドライバに送信します。同期整流式の設計は、高電力のアプリケーションや、出力電圧が低いアプリケーションで最も有利です。図2に示すように、オプトカプラを使用することなく、±8%の出力電圧レギュレーションが達成されます。

図2 図1の回路図に示す「LT8310」の出力電圧レギュレーション(VOUT=12V)

 オプトカプラを使用した場合は、±1.5%のレギュレーションを達成できます。プログラム可能なボルト秒クランプは、飽和状態を防ぎ、MOSFETを保護するトランス・リセット防止手段として機能します。この機能を使用してトランスとMOSFETを最適化することで、ソリューションの寸法とコストを削減できます。

 LT8310のボルト秒クランプは、オプトカプラ不要でVOUTを設定するため、設計がシンプルになり、絶縁型アプリケーションのコストが削減されます。出力電圧帰還(光絶縁型または直接配線)があるアプリケーションでは、ボルト秒クランプはコンバータの本来のデューティ・サイクルより高い値に設定され、負荷過渡現象中にトランスの飽和を防ぐデューティ・サイクルの安全柵として機能します。非絶縁型アプリケーションに対しては、LT8310には電圧誤差アンプと正負のリファレンスを持つ帰還ピンが内蔵されているため、正または負の出力電圧を持つ完全にレギュレーションされたシンプルなフォワード・コンバータを実現できます。

 その他の機能として、プログラム可能な過電流保護、調整可能な入力低電圧、過電圧ロックアウトと、組み込みのサーマル・シャットダウンを備えています。LT8310は、プログラム可能な100kHz〜500kHz動作スイッチング周波数を備えているほか、外部クロックにも同期できるため、幅広い出力インダクタ値とトランス・サイズを使用できます。LT8310は、高電圧用のピン間隔にするために一部のピンを省いたTSSOP-20パッケージで提供されます。

フライバック設計

 低電力レベルにおけるさらにシンプルな絶縁型DC/DCコンバータ・ソリューションとして、フライバック・トポロジを使用できます。フライバック・コンバータは、絶縁型DC/DCアプリケーションで長年、幅広く使用されていますが、必ずしも設計者が最初に取る選択肢ではありません。電源設計者は、多くの場合、設計が容易だからではなく、低消費電力の絶縁要件に対応するために、やむを得ずフライバック・コンバータを選択します。フライバック・コンバータの制御ループには、よく知られている右半面(RHP)ゼロによる安定性の問題があるだけでなく、その問題をさらに複雑にするオプトカプラの経年変化と利得変動の問題もあります。

 フライバック・コンバータでは、トランスの設計に非常に多くの時間が割かれますが、標準量産品のトランスの選択肢が限られており、カスタムのトランスが必要になる可能性があることから、作業は一層複雑になります。電力変換テクノロジの最近の進化によって、低電力の絶縁型コンバータの設計は、かなり容易になりました。例えば、リニアテクノロジーが最近発売した絶縁型フライバック・コンバータの「LT8302」を見てみましょう。

 まず、LT8302は、オプトカプラ、2次側リファレンス電圧、パワー・トランスからの追加の3次巻線が不要であるとともに、絶縁境界をまたぐ唯一の部品であるパワー・トランスによって1次側と2次側の絶縁を維持できます。LT8302は、1次側検出スキームを採用しており、フライバックの1次側スイッチング・ノードの波形から出力電圧を検出します。スイッチオフ時間中、出力ダイオードから電流が出力に供給され、その出力電圧がフライバック・トランスの1次側に反映されます。スイッチ・ノード電圧の大きさは、入力電圧と、LT8302が再構成可能な反映された出力電圧の和になります。この出力電圧帰還手法により、ライン、負荷および、温度範囲全体にわたって±5%未満の全レギュレーションが達成されます。LT8302とわずか14個の外付け部品で構成したフライバック・コンバータの回路図を図3に示します。

図3 「LT8302」を使用した1次側出力電圧検出フライバック・コンバータ

 LT8302は、熱特性が改善されたSO-8パッケージで提供され、2.8V〜42Vの入力電圧に対応します。3.6A、65Vの堅牢な内部DMOSパワー・スイッチを内蔵しているため、最大18Wの出力電力を供給可能です。

 さらに、LT8302は、軽負荷時に消費電流をわずか106μAにする低リップルBurst Mode動作を行うことで、出力電圧をレギュレーション状態に保ったまま、スタンバイ・モード中のバッテリー動作時間を延ばすことができます。その他に、内部ソフトスタート、低電圧ロックアウト機能も搭載しています。出力電圧の設定に必要なのは、トランスの巻数比と、1つの外付け抵抗だけです。

1次側出力電圧検出

 絶縁型コンバータの出力電圧検出には、通常、オプトカプラと2次側リファレンス電圧が必要です。オプトカプラが、絶縁境界を維持しながら、光リンクを介して出力電圧帰還信号を伝達します。しかし、オプトカプラの伝達率は温度や時間の経過によって変化するため、その精度は高くありません。また、オプトカプラの非直線性にはユニット間でばらつきがあり、回路ごとに利得/位相特性が変動する要因ともなります。電圧帰還用に追加のトランス巻線を採用して帰還ループを閉じるフライバック設計もあります。しかし、追加のトランス巻線を使用すると、トランスのサイズとコストが増大し、出力電圧のレギュレーションもあまり良くありません。

 LT8302では、トランスの1次側で出力電圧を検出するため、オプトカプラや追加のトランス巻線が不要になります。出力電圧は、パワー・トランジスタのオフ時間中に、1次側のスイッチング・ノード波形から高精度に測定されます(図4を参照)。ここで、Nはトランスの巻数比、VINは入力電圧、VCは最大クランプ電圧です。

図4 「LT8302」の標準的なスイッチ・ノード波形

トランスの選択と設計に関する検討事項

 LT8302を正しく利用するために最も重要なのが、トランスの仕様と設計でしょう。漏れインダクタンスを小さくする、結合度を高める、などの高周波数絶縁型電源トランスの設計にまつわる一般的な注意点に加えて、トランスの巻数比も厳重にコントロールする必要があります。トランスの2次側の電圧は、1次側でサンプリングされる電圧から推定されるため、この巻数比を厳重にコントロールして、出力電圧を安定化する必要があります。

 リニアテクノロジーは、主要な磁性部品メーカー数社と協力し、LT8302と組み合わせて使用するために事前設計されたフライバック・トランスを開発しています。LT8302のデータ・シートに記載されているWürth Electronik製の推奨量産品トランスのリストを表1に示します。これらのトランスは、通常、1次側と2次側の間で1分間、1500VACのブレークダウン電圧に耐えます。これより高いブレークダウン電圧に耐えるトランスや、カスタムのトランスも使用できます。

表1 「LT8302」に対応する量産品トランス
ターゲット・アプリケーション メーカー 部品番号
8V〜32V入力、3.3V/2.1A出力 Würth Electronik 750311625
8V〜32V入力、5V/1.5A出力 Würth Electronik 750311564
8V〜32V入力、8V/0.9A出力 Würth Electronik 750311624
8V〜32V入力、±12V/0.3A出力 Würth Electronik 750311624
8V〜32V入力、24V/0.3A出力 Würth Electronik 750313445
8V〜32V入力、48V/0.15A出力 Würth Electronik 750313457
4V〜18V入力、5V/0.9A出力 Würth Electronik 750313460
4V〜18V入力、12V/0.4A出力 Würth Electronik 750311342
18V〜42V入力、3.3V/2.1A出力 Würth Electronik 750313439
18V〜42V入力、5V/1.6A出力 Würth Electronik 750313442

まとめ

 アプリケーション固有の制御ICの普及により、わずか数年前には当たり前であった長期間の開発サイクルを要することなく、企業が独自の高密度DC/DCコンバータを設計できるようになりました。企業が独自の絶縁型パワー・コンバータを設計することで、設計プロセスと部品選択を完全にコントロールし、標準品では実現できない特殊な機能を追加できるだけでなく、多くの場合、全体的なコスト削減にもつながります。トポロジ固有のコントローラ、量産品のプレーナ型磁性部品、アプリケーション固有の回路、デモ基板、関連するGerberファイルなどが生まれたことで、ユーザーは、電力変換設計に必要なすべてのものを入手し、独自の絶縁型DC/DCコンバータを容易に設計し、開発できるようになりました。

   著:Bruce Haug/リニアテクノロジー シニア製品マーケティング・エンジニア

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提供:リニアテクノロジー株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年3月31日














































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