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車載環境におけるEMIの低減策アナログ回路設計講座(5)

ECU(電子制御ユニット)など自動車に搭載するスイッチング電源は、EMI(電磁干渉)に細心の注意を払わなければなりません。シールドボックスで電源を覆ってしまうのも1つの手ですが、サイズやコスト、さらには熱の問題が発生します。スイッチングのエッジを低速化するのも有効ですが、効率などの犠牲を伴います。そこで、今回は、手軽にICだけで、十分なEMI対策を講じた高効率な車載電源を実現する方法を紹介します。

» 2016年07月01日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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背景

 それぞれの電源の良しあしを決めるのは、プリント回路基板(PCB)のレイアウトです。このレイアウトによって、機能上の挙動、電磁干渉(EMI)に対する挙動、熱に対する挙動が決まります。スイッチング電源レイアウトは「黒魔術」的なものではありませんが、設計プロセスの初期段階で見落とされることが少なくありません。機能要件とEMI要件の両方を満たす必要があるとはいえ、電源の機能的な安定性にとって良いことは、EMIエミッションにとっても効果的であるのが一般的です。重要なことは、最初から優れたレイアウトを設計しておけば、追加コストが発生しないだけでなく、EMIフィルタ、機械的シールディング、EMI試験時間、PCBの見直しといった必要性がなくなり、コストの削減も実現できるということです。

 また、複数のDC-DCスイッチモード・レギュレータを並列接続して電流分担を行う場合や、より大きな出力電力を得ようとする場合には、干渉とノイズに関する潜在的な問題が悪化する可能性があります。全てのレギュレータが同じような周波数で動作(スイッチング)した場合、回路内の複数のレギュレータが生成するエネルギーが結合され、1つの周波数に集中します。こうしたエネルギーは、特に基板上でICが互いに近接しているときに懸念事項となる可能性があります。密度が高く、オーディオやRF、CANバス、各種レーダー・システムに近接することの多い車載システムでは、この点はとりわけ大きな問題となります。

スイッチング・レギュレータのノイズ・エミッションへの対応

 車載環境において、少ない熱放射と低い熱効率が重要となるエリアでは、通常スイッチング・レギュレータの代わりにリニア・レギュレータが使用されます。また、スイッチング・レギュレータは、一般に入力電源バス・ライン上で最初にアクティブになる部品であるため、コンバータ回路全体のEMIパフォーマンスに大きな影響を与えます。

 EMIエミッションには、伝導性エミッションと放射性エミッションという2つの種類があります。伝導性エミッションは、製品に接続されている配線やトレースを通じて伝わります。ノイズは設計中の特定の端末やコネクタに局在するため、上述のような優れたレイアウトやフィルタ設計があれば、多くの場合は開発プロセスの比較的早い段階で、伝導性エミッションに関する要件の順守を確保することができます。

 一方、放射性エミッションは話が違います。基板上では電流が流れるところ全てに電磁場が発生します。基板上のあらゆるトレースはアンテナとなり、あらゆる銅面は共振器になります。純粋な正弦波やDC電圧以外の全てのものが、シグナル・スペクトラムの全体にノイズを発生させます。設計者は、慎重に設計したとしても、そのシステムを試験してみるまで、どの程度の放射エミッションが発生するのか全く分かりません。また、設計が実質的に完成していなければ、放射性エミッション試験を正式に実施することはできません。

 EMIの低減にしばしば用いられるフィルタは、特定の周波数や周波数範囲での強度を弱めます。金属および電磁シールドを追加することで、空間を移動する(放射される)エネルギーの一部が弱められます。PCBトレースにより伝わる(伝導される)部分については、フェライト・ビーズなどのフィルタを追加して軽減します。EMIを排除することはできませんが、他の通信およびデジタル部品で許容できるレベルにまで緩和することは可能です。また複数の規制機関により、順守を確実にするための規格が施行されています。

 表面実装技術における最先端の入力フィルタ部品は、スルーホール部品よりも性能が優れています。しかし、この性能向上を上回るペースで、スイッチング・レギュレータのスイッチング周波数の動作が増加しています。効率が向上し、最小オン/オフ時間が小さくなると、スイッチの切り替えが高速化され、高調波含有率が高くなります。スイッチング周波数が2倍になると、EMIは6dB悪化しますが、スイッチ容量や切り替え時間などその他のパラメータは変化しません。スイッチング周波数が10倍になった場合、エミッションは20dB増加し、広域帯EMIは1次ハイパスのように挙動します。

 経験豊かなPCB設計者なら、ホット・ループを小さくし、できる限りアクティブ層に近いシールディング・グラウンド層を使用するでしょう。しかし、ホット・ループの最小サイズは、デバイスのピン配列、パッケージ構造、熱的設計要件、デカップリング部品にエネルギーを適度に蓄積するために必要なパッケージ・サイズによって左右されます。通常の平面状プリント回路基板では、問題が更に複雑になります。高調波周波数が高くなると不要な電磁結合の影響が大きくなるため、30MHzを超えるトレース間の電磁結合または変圧器結合を使用すると、あらゆるフィルタの効果が弱められてしまいます。

EMI問題に対する新たな解決策

 EMIに対する実証済みの確実な解決策は、回路全体にシールドボックスを用いることです。もちろん、これにはコストが掛かり、必要な基板スペースが大きくなる他、熱管理や試験が難しくなり、組み立てコストも増加します。その他によく用いられている手法が、スイッチング・エッジを低速化することです。この手法には、効率の低下、最小オン/オフ時間の延長、それに関連するデッドタイムといった望ましくない影響が伴い、電流制御ループの潜在的なスピードにも悪影響が出ます。

 リニアテクノロジーが最近発表したLT8614 Silent Switcherレギュレータは、シールドボックスを使わずにそれと同じ効果を実現するため、上述のような欠点を排除することができます。図1を参照してください。LT8614は、動作電流がわずか2.5µAという世界でトップクラスの低IQも備えています。この数値は、負荷のないレギュレーション状態においてデバイスが消費する総電流です。

図1 LT8614 Silent SwitcherはEMI/EMCエミッションを最小限に抑えつつ、最大3MHzの周波数で高い効率を実現します (クリックで拡大)
図2 Ch1:LT8610、Ch2:LT8614スイッチ・ノードのドロップアウト挙動 (クリックで拡大)

 このレギュレータの非常に低いドロップアウト電圧の制限要因は、内部トップ・スイッチだけです。他のソリューションとは異なり、LT8614のRDSONは、最大デューティ・サイクルおよび最小オフ時間には制限されません。図2に示すように、デバイスはドロップアウトでスイッチオフ・サイクルをスキップし、必要最低限のオフサイクルのみを実行し、内部トップ・スイッチのブースト・ステージ電圧を維持します。

 同時に、最小動作入力電圧は通常わずか2.9V(最大3.4V)であるため、ドロップアウト状態においてこの部品を使用して3.3Vレールに電力を供給することができます。LT8614はLT8610/11よりもスイッチ抵抗の合計値が小さいため、高電流の場合に高い効率を実現します。また、200KHz〜3MHzで動作する外部周波数と同期させることもできます。

 ACスイッチ損失が小さいため、効率の損失を最小限に抑えながら、高スイッチング周波数で動作することが可能です。LT8614は、多くの車載環境でよく見られるような、EMIの影響を受けやすいアプリケーションで優れたバランスを保つことができ、またAM帯域以下で動作して更にEMIを低減することも、AM帯域より高い帯域で動作することもできます。動作スイッチング周波数が700kHzの構成では、標準的なLT8614デモ基板は、CISPR25、クラス5測定のノイズ・フロアを超えることはありません。

図3 無響チャンバー内でのCISPR25放射測定結果。青線はノイズ・フロア、赤線はLT8614基板 (クリックで拡大)

 図3の測定は、次の条件を用いて無響チャンバー内で実施したものです(入力12V、出力3.3V、2A、固定スイッチング周波数700kHz)。

 LT8614 Silent Switcher技術を他の最新式スイッチング・レギュレータと比較するために、LT8610を比較対象として測定しました。試験はGTEMセル内で実施し、どちらの部品についても、標準的なデモ基板上で同じ負荷および入力電圧、同じインダクタを使用しました。

 LT8614 Silent Switcher技術を用いた場合には、既に非常に良好なEMI性能が得られるLT8610と比べて、最高20dBの性能向上が達成できることが分かります。特に、制御の難しい高周波数帯での向上は顕著です。これにより、全体的な設計として、LT8614スイッチング電源では他の影響を受けやすいシステムよりも必要なフィルタが少なくなるため、よりシンプルでコンパクトな設計が実現します。

左=図4 Ch1:LT8610、Ch2:LT8614スイッチ・ノードの立ち上がりエッジ。いずれも8.4Vin、3.3Vout、2.2A / 右=図5 青線はLT8614、紫線はLT8610。いずれも13.5Vin、3.3Vout、負荷2.2A (クリックで拡大)

 時間領域では、図4からも分かるように、LT8614はスイッチ・ノード・エッジで非常に良好な挙動を示しています。4ns/divでも、LT8614 Silent Switcherレギュレータではリンギングが非常に小さくなっています(図5のCh2参照)。LT8610はリンギングの減衰については良好ですが(図5、Ch1)、ホット・ループに蓄積されるエネルギーはLT8614よりも大きくなっています(Ch2)。

図6 Ch1:LT8610、Ch2:LT8614、いずれも13.2Vin、3.3Vout、2.2A (クリックで拡大)

 図6は、入力13.2Vにおけるスイッチ・ノードを示しています。Ch2で示されているように、LT8614では理想的な方形波からのずれが非常に小さいことが分かります。図4、5、6の全ての時間領域測定は500MHz Tektronix P6139Aプローブにより実施したもので、プローブ・チップのシールド接続をPCBのGND面近くで行いました。いずれも標準的なデモ基板を使用しています。

 車載環境においては、42Vという入力電圧の絶対最大定格に加え、ドロップアウト挙動も非常に重要となります。多くの場合は、コールドクランク状態の間、必要不可欠な3.3Vのロジック電源電圧を維持する必要があります。このケースでは、LT8614 Silent Switcherレギュレータは、LT861xファミリの理想的な挙動に近い動作を維持します。低電圧ロックアウト電圧が高く、最大デューティ・サイクルが制限される他の部品とは異なり、LT8610/11/14デバイスは、図2に示すように、3.4Vまでで動作し、必要に応じてサイクルのスキップを開始します。これにより、図7に示すように、理想的なドロップアウト挙動が得られます。

左=図2(再掲) Ch1:LT8610、Ch2:LT8614スイッチ・ノードのドロップアウト挙動 / 右=図7 LT8614のドロップアウト挙動 (クリックで拡大)

 LT8614は最小オン時間が30nsと短いため、高スイッチング周波数でも降圧比を大きくすること可能です。そのため、最大42Vの入力から1回の降圧でロジック・コア電圧を供給できます。

まとめ

 システムの完成後、EMI試験に確実に合格するためには、設計プロセスの初期段階で、車載環境におけるEMIに関する懸念事項に細心の注意を払う必要があることはよく知られています。これまでは、最適な電源ICを選択しながら、そのような取り組みを簡単に実現させる確実な方法はありませんでした。しかし、LT8614の登場により、状況は変わりました。LT8614 Silent Switcherレギュレータは、現時点での最新式スイッチング・レギュレータに比べて20dB以上もEMIを低減する一方で、欠点なく変換効率を向上させます。30MHzを上回る周波数域では、同じ基板エリアの最小オン/オフ時間や効率を損なわずに、EMIを10倍向上させることができます。こうした利点は、画期的なスイッチング・レギュレータ設計により実現したもので、特別な部品やシールディングは必要としません。このまさに画期的なレギュレータを使えば、車載システム設計者は、製品のノイズ・パフォーマンスを次のレベルに引き上げることが可能です。

【著:Tony Armstrong、Christian Kück/リニアテクノロジー】

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提供:リニアテクノロジー株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年7月31日














































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