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過電圧監視がない電源の末路Wired, Weird(1/3 ページ)

今回は、高価な電気メッキ装置用電源機器の修理エピソードを紹介する。故障原因は、しばしば見受けられる“配線切れ”だったが、事もあろうに過電圧監視が施されていなかったが故に、悲惨な末路を迎えてしまった。

» 2016年08月04日 11時30分 公開

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電源が入らない電気メッキ装置用電源機器

 電気メッキ装置に使用される大電力の電源機器の修理を依頼された。この電源は最大30Vで100A出力の電源だった。修理品を受け取ったらケースの外側が水のような液体で少しぬれていた。ケースを開けるとケースの内側もぬれており内部に少しサビもあった。機器を分解して実装された電源基板の不具合原因を詳細に確認したら回路上に大きな落とし穴が見つかった。今回は電気メッキ装置の電源修理を報告する。

 修理依頼書には『電源が入らない』と記載されていた。このメッキ装置用電源機器の修理は初めてだったが幸いなことに取り扱い説明書と内部接続図が入手できた。これなら何とか修理できるだろう。しかし、電源基板をよく見ると表面と背面が樹脂でコーティングされており、不良箇所の調査や修理がかなり難しい基板だった。この機器は大手の電源メーカーで製造されていた。電源基板の制御電源部の写真を図1に示す。型名やメーカー名が出ないように配慮している。

図1:電源基板の制御電源部

 図1の基板の表面はコーティングされておりシルク印刷が少しぼけて見える。この電源基板にはAC200Vを全波整流したDC280Vの電源が印加されるが、図1の左側の茶色の配線に+電圧、黒色配線に−電圧が印加され、基板の内部で二次電源が生成されていた。図1の基板中央下の赤丸で囲んだ部品が電源制御ICのFA5511Pだ。この電源基板で制御ICの電源とDC5V、DC12V、DC24Vの4電圧が生成されていた。この制御電源の構成はFA5511Pのデータシートにある参考回路図に酷似していた。図2に参考回路図を示す。

図2:FA5511Pのデータシートにある参考回路図。赤色で記したツェナーダイオードは筆者が書き加えた (クリックで拡大) 出典:富士電機

ツェナーダイオードが短絡

 試しに電源基板にAC100Vを全波整流したDC140Vの電圧をコネクターに印加した。しかし制御ICの電源端子の電圧は0Vだった。印加電源を外してテスターでICの電源端子の抵抗を測定したら0Ωが表示された。パターンを追ってICの電源を確認したら図2の赤表記のツェナーダイオードが電源端子に接続されていた。基板からツェナーダイオードを外して単体で確認したら短絡していた。ツェナーダイオードの抵抗を測定した写真を図3に示す。

図3:ツェナーダイオードの抵抗を測定したところ

 このダイオードは図1の赤丸の左下に実装されていた。ダイオードに20と記載されており20Vのツェナーダイオードと思われる。これで制御ICに電源が入らない理由は分かった。しかし、なぜ20Vのツェナーダイオードが短絡破損したのだろうか? 制御ICのFA5511Pの起動電圧はデータシートに16.5Vと記載されていた。20Vのツェナーダイオードが破損するには20Vを超えた電圧がかかったことになる。恐らく、二次電源生成の動作中に何らかの理由でフィードバックがかからなくなり、制御ICの電圧が高くなり過ぎて過電流がツェナーダイオードに流れ、過熱して短絡破損したと考えられた。

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