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漏れインダクタンスを使用したフライバックコンバーター(2) 平均モデル化電源設計(1/4 ページ)

本連載の第1回では、漏れインダクタンスによってもたらされるスイッチング効果について説明しました。実効デューティ比の低下により、2次側ダイオードの導通時間が長くなり、メインスイッチがターンオフした後、2次側電流が変化するまでの遅延が発生します。その結果、元の式による予測値よりも出力電圧が低くなり、RCDクランピングネットワークでの消費電力が増加します。動作波形において漏れに関連する項が及ぼす影響を考慮した場合、フライバックコンバーターの小信号応答に与える漏れの影響を検討するのは興味深いことです。ただし、小信号分析を実行する前に、適切な平均モデルが必要になります。

» 2017年01月30日 12時30分 公開

負荷ステップに対する応答

 第1回で使用したサイクル単位のモデルを図1に示します。今回は可変負荷を使用しています。このシミュレーションでは、出力を記録している間に負荷は10マイクロ秒のスパンで8Ωから6Ωに変化します。コンバーターは開ループ構成で動作します。漏れインダクタンスを1μHから50μHに増やし、他の動作パラメーターは一定のままにしておきます(40%デューティ比)。

図1:開ループを簡略化したこのフライバックコンバーターを使用して、漏れインダクタンスが及ぼす影響を検討する (クリックで拡大)

 図2に示すさまざまな漏れインダクタンス値に対する出力電圧を収集しました。垂直スケールは1目盛り当たり620mVで、各波形に共通するスケールですが、全ての波形が画像内に収まるようオフセットは変更されています。最初のコメントはリンギングに関するものです。漏れインダクタンスがほとんどない(1μH)場合、応答のリンギングとダンピングがある程度発生しています。ただし、負荷電流に見られるステップは出力電圧に影響しません。漏れインダクタンスが大きくなるとリンギングの減衰が始まり、lleak=50μHの場合は発振が停止しています。ただし、漏れインダクタンスが大きいほど、出力電圧は低下し(ほぼ20Vから17.6Vに)、静的電圧降下が大きくなります。

 静的電圧降下は、漏れなしの場合はほぼゼロV、漏れインダクタンスが最大の場合は400mVに達しています。このクイックシミュレーションから、漏れインダクタンスは過渡応答を減衰させ(第1回で予測した通り)安定状態の出力電圧に影響するだけでなく、出力インピーダンスも劣化させることが分かります。漏れインダクタンスが周波数応答に及ぼす影響を検討するには、大信号モデルを用意し、後でこのモデルを線形化する方法で、検討中のコンバーターの小信号表現を求める必要があります。この小信号モデルから、漏れインダクタンスの影響を受けたフライバックコンバーターの制御側から出力側への伝達関数を解析的手法で表現できるようになります。

図2:漏れインダクタンスを変化させると開ループ・フライバックコンバーターのいくつかのパラメーターに影響する (クリックで拡大)

大信号モデル

 PWMスイッチはフライバックコンバーターのモデル化に非常に役立ちます。CCMと固定スイッチング周波数で動作する、2つのスイッチ電圧モードを使用するDC-DCコンバーターをモデル化するための最も簡潔なバージョンは、1990年代にバッシェ・ボルペリアン博士(Dr. Vatche Vorperian)によって紹介されました[1]。図3にこのスイッチを示します。原理は複数の接続端子である「a」(アクティブ)、「p」(パッシブ)、「c」(コモン)の間にある波形を平均化し、一連の連続時間式を使用して電流/電圧を記述する方法で形成されています。Vorperianは、図3に示すように電流源と電圧源を構成する方法は、理想的なdcトランスをa-c-pの各端子に接続し、そのトランスが巻線比d、つまりデューティ比の影響を受けるという考え方に似ていると説明しました。

図3:PWMスイッチモデルよりもシンプル (クリックで拡大)

 このモデルには一様な意味があります。つまり、他のDC-DCコンバーターにも流用可能であり、その場合でもPWMスイッチを記述する式は全て同じままです。

 図3に示したモデルは大信号バージョンです。SPICEがこのモデルから小信号応答を導くことができる場合、SPICEは線形ソルバーなので、シミュレーションを実行する前にこのモデルを線形化します。ただし、制御側から出力側への伝達関数を決定する際にモデルをそのまま使用することはできません。PWMスイッチの線形化バージョンまたは小信号バージョンが必要です。これを図4に示します。

 ここでは、一般的なアーキテクチャとこのバージョンを実際に動作するSPICEモデルに変換する方法を確認できます。PWMスイッチの詳細に関心がある場合は、実際に動作する多数の実用例を伴うトピックを掲載している参考資料2を参照してください。

図4:元のモデルより多少複雑なPWMスイッチモデルの小信号バージョン (クリックで拡大)

 複数の項で形成される信号源が、DC値とAC値の積に関連付けられることに注意してください。例えば、直列信号源B3は{Vap}のうち{D}に起因する成分にV(d)を乗算した値です。{Vap}は、端子「a」と「p」の間の安定状態での電圧を表し、{D}は安定状態でのデューティ比です。これらは固定パラメーターであり、1つの動作ポイントに対応します。例えば、図3に示すバックコンバーターの{Vap}はVin. d、デューティ比は0〜1V(0〜100%)間の任意の値をとることができます。V(d)はモデルをドライブするAC変調です。

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