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» 2017年06月29日 12時30分 UPDATE

中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(9):ヒューズ(3) ―― I^2t-T特性の使い方 (2/2)

[加藤博二(Sifoen),EDN Japan]
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溶断特性の検証

 このようにして得られたI2t-T特性ですが、この溶断特性はUL形なのか、IEC形なのかを検証します。比較のために同じ1A定格でも溶断特性が異なるヒューズ(B)についても取り上げます。
 なお、図2には1.35倍定格、2倍定格、2.75倍定格、4倍定格、10倍定格のI2t-T値を重ねてあります。

左=図2(a):ヒューズ(A)のI2t-T曲線 / 右=図2(b):ヒューズ(B)のI2t-T曲線

 本連載ヒューズ編第1回に『表2』として取り上げた安全規格別の『通電特性例』図2(a),(b)の溶断時間の比較は表1のようになります。

表1:溶断特性の検証
過電流比 準拠規格 溶断時間(S) ヒューズ(A) ヒューズ(B)
溶断時間(S) 判定 溶断時間(S) 判定
1.35倍定格 UL形 〜1時間 曲線と交差しない × 2.5
2倍定格 〜120 × 0.3
2.75倍定格 IEC形 0.75〜80 0.9 0.12 ×
4倍定格 0.095〜5 0.32 0.055 ×
10倍定格 0.01〜0.15 0.045 0.01

 表1の結果から今回取り上げた1Aヒューズは
  ヒューズ(A)はIEC形
  ヒューズ(B)はUL形   であると考えられます。

 また図2(a)(b)を比較すると同じ1A定格でもヒューズエレメント部のI2t値および、曲線の折れ曲がり点の差(各部熱容量)、などが大きく異なることが分かります。
 これらから表2の溶断特性を全て満足するUL形、IEC形共用の溶断特性は実現が困難であることが分かります。市販のUL、IEC共用ヒューズがULレゴクナイズド品になっているのはこのような背景も一因です*)

*)UL向け専用のヒューズでもULレゴクナイズド品は存在します。

波形の判定

 次に判定すべき実動作の電流波形を入手します。ここでは再現性を考えて図3(a)に示すSW電源を模擬した突入電流のSPICEシミュレーション波形とします。

図3:突入電流の測定回路と電流波形
左=(a):シミュレーション回路、右=(b):各部波形

 AC電圧の投入はピーク時とし、AC投入後40mS(ミリ秒)でコンバーターが起動します。平滑キャパシターC1への充電は完了していませんので図3(b)に示すように2次突入電流が発生します。なお、この2次突入電流はヒューズやトライアック、整流ダイオードなどを流れますのでこれらの素子の許容値の確認が必要です。
 (2次突入電流はACスイッチが閉じた後に流れますので接点にダメージは発生しません)

 電流計H1はヒューズの電流値を電圧値に変換して出力します(カレントプローブ)。実測時にはこの信号をデジタルオシロスコープからCSVとして出力し、表計算ソフトで換算することになります。
 (SPICEではこの信号を2乗して積分器を通して直接I2t-T値を得ています)

図4:I2t-T特性の判定

 このようにして得られた電流のI2t-Tと図1(b)で得られたヒューズの溶断曲線を図4のように重ね合わせます。なお、図4ではディレーティングの確認のために電力を150Wと60Wに切り替えています。
 同図の曲線の交差の様子から、150W時の曲線では0.45S程度で溶断することが予測でき、60W時ではI2t-T値に余裕(実機10A2S/ヒューズ20A2S、T=4S時)がありますので起動時に溶断はしないと言えます。

 ただし、ヒューズの信頼性を確保するためにはそれぞれのヒューズ溶断特性に合わせて定常時の電流ディレーティングを取る必要があります。

 また、図4の150Wの事例では定常電流で溶断していますがモーターの起動などでは比較的時間の長い起動電流で溶断する事もありますのでデータ採取の時間やタイミングは負荷に応じて考慮する必要があります。

 加えて、ヒューズ・エレメントのI2t値と上記半導体類のI2t値を比較して電源平滑キャパシターの短絡などの異常時にもヒューズが先に溶断するように配慮することも重要です。

 なお、ここで取り上げた定電力型の負荷の場合、「電流=電力/電圧」の関係から85V入力時の方が突入電流は低下しますが起動後の連続入力電流は増加します。このように指定された入出力条件の中で最悪条件になる組み合わせを確認することはヒューズを使う上で重要です。


 次回はスペースの都合で説明を後回しにしたヒューズの実装上の注意事項など、使う際のポイントについて説明します。

・参考資料:JEITA RCR-4800

執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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