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車載システム向けのUSB Power Deliverについて電源設計のヒント

USBの電力供給に関する仕様「USB Power Delivery」(USB PD)に対応した機器は今後、増加する見込みで、その利用シーンも拡大します。当然、自動車内でUSB PDを仕様するケースも生じてきます。そこで、車載システムにおけるUSB PD対応について考察していきます。

» 2017年07月25日 11時00分 公開

車載システムでのUSB PDには車載特有の要件

 新しいUSB規格「USB Type-C」の優れた特長の1つに、Power Delivery(電力供給)があります。USBの電力供給に関する仕様「USB Power Delivery」(以下、USB PD)を使うことで、ケーブルに接続された各デバイスがより多くの電力を求めるネゴシエーション(=機器間での調整)を行うことができ、これまで不可能だった新しい機能が実現できます。携帯電話機、タブレットやノートPCなどのポータブル機器の充電を短時間で完了できます。モニターのような、より消費電力の大きい機器への電力とデータも、1本のケーブルで供給できます。

 USB Type-Cに対応するデバイスとホストの数は現状、まだ他のUSBに比べ少ないですが、採用の動きは拡大しています。対応デバイスの数が増加するにつれて、消費者は宅内や外出先、特に車内で使いたいと考えるようになるでしょう。

 車載システムでのUSB PDには車載特有の要件があり、その要件を満たすための設計には困難が伴います。表1に車載システムで発生する代表的な電圧を示します。

表1:車載システムで発生する代表的な電圧
動作条件 電圧 継続時間
非走行時(定格値) 12V 連続
走行時(定格値) 13〜14.5V 連続
トレーラートラック非走行時(定格値) 24V 連続
トレーラートラック走行時(定格値) 26〜29V 連続
12V コールドクランク時 3〜6V 15ms
12V ロードダンプ過渡波形 87V 400ms
24V ロードダンプ過渡波形 174V 350ms

 車載システムでは、保護、安定化またはその両方の機能を使って、負荷に印加される電圧を制限します。通常、この電圧はトラック用電圧または12Vバッテリー電圧の2倍の、40V以下に制限されます。こうして、3〜40Vの電圧は、入力保護回路を通過することになります。

 USB Type-Aデバイスの動作電圧は5Vのみであり、1個の降圧型コンバーターで充電または通信ポートを構成できますが、入力電圧が3〜6Vとなるクランク状態の間は動作しません。以前は、運転者は単独のクランク動作を1度だけ行い、その動作も短い時間で済んでいたことから、それほど大きな問題とはなりませんでした。しかし、アイドリングストップ・スタート機能が搭載されると、このクランク動作による中断は大きな問題になってきました。例えば、携帯端末から音楽のストリーミングを楽しんでいる時、エンジンが停止、始動するたびに、音楽が中断してしまいます。USB PDを使うことで、5Vから最大20Vまでの電圧に対応しますが、負荷に正しい電圧を供給するためには、大きな問題が伴います。

動作条件に応じて降圧動作と昇圧動作を実行できるコンバーター

 簡単な降圧型コンバーターでは、正しい電力変換を行えません。簡単な昇圧型コンバーターも、上に示したような入出力電圧範囲には適合しないでしょう。車載システムの設計者に必要なのは、動作条件に応じて降圧動作と昇圧動作を実行できるコンバーターです。

 この条件に適合するトポロジには、SEPIC(シングルエンド・プライマリ・インダクター)型コンバーター、フライバック型や非反転昇降圧型コンバーターなどがあります。非反転昇降圧型コンバーターには、2スイッチと4スイッチ構成の選択肢があります。図1に、各トポロジの簡素化された回路図を示します。

図1:非反転昇降圧型トポロジの簡素化した回路図(クリックで拡大)

 表2に示すように、それぞれのトポロジには、利点と欠点があります。

表2:非反転昇降圧型の各トポロジの利点と欠点
トポロジ 利点 欠点
SEPIC型 2本の半導体で構成、低い入力ノイズ、コントローラの品種が豊富 2本のインダクター、右半平面ゼロ、スイッチ電圧とスイッチ電流が高い
フライバック型 2本の半導体で構成、コントローラの品種が豊富 カスタムトランスが必要、高い入出力ノイズ、高い周波数のリンギング、高電力で効率低下
2スイッチ昇降圧型 1本のインダクターのみで簡素な設計 ダイオードによって電力範囲が制限、出力ダイオードは常に導通、降圧モードと昇圧モードを1つのループで制御するため補償が困難、コントローラの品種が少ない
4スイッチ昇降圧型 1本のインダクター、高い電力密度、同期整流 4本の半導体が必要、コントローラの品種が少ない、降圧モードと昇圧モードを1つのループで制御するため補償が困難、最も高価なソリューション

 SEPIC型とフライバック型のコンバーターはほとんど同じ性能ですが、SEPIC型コンバーターでは、クランプされた入力電圧と、市販の規格品のインダクターを使用可能なことから、車載アプリケーションにはやや魅力的です。2スイッチ昇降圧型コンバーターの電力範囲はSEPICと同様も制限されていますが、2スイッチ昇降圧型コンバーターに使用可能なコントローラー製品の選択肢はわずかです。これらから、SEPIC型は5〜50Wの低電力アプリケーションに、4スイッチ昇降圧型は30〜100Wの、やや高電力のアプリケーションに適しています。

 車載環境内の数多くのアプリケーションが、USB PDの利点を活用できます。これらのアプリケーションには次のようなものが含まれます。

  • 最大100Wの車内充電ポート(電圧は5V、9V、15V、20V)
  • ポータブル・デバイスを充電しながらデータを受け取るインフォテインメントポート
  • 例えば、リアシートに設置されたモニターなどのデバイスに接続し、同一ケーブルで電力とデータを提供するインフォテインメント出力ポート
  • クルマからの電力とデータを提供する診断ポート

 USB Type-Cの車載への対応はこれからですが、まもなく対応することでしょう。トラブルのないユーザー体験を確実に提供するためには、解決すべき多くの電源の困難があります。変化する入出力電圧には、非反転昇降圧型電源が最適です。低価格、低電力のソリューション向けにはSEPIC型が適合します。高電力で、より高効率の回路向けには4スイッチ昇降圧型ソリューションが魅力的です。車載環境でのUSB Power Delivery向けアプリケーションへの需要は増加の一途であり、電源設計には数多くの市場機会が生まれることになります。

【著者:ロバート・テイラー(Robert Taylor)/テキサス・インスツルメンツ 電源設計サービスグループ アプリケーション・マネージャ フロリダ大学卒業(学士号・修士号)】


参考資料:
ブログ:Power Tips blog series
アプリケーション・レポート:車載バックライト用LED電源向けのロードダンプおよびクランク保護
プロダクトページ:『LM5175』・『LM5118』

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