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高さ0.33mm! “極薄アナログIC”が誕生した理由折り曲げ、ねじりに耐える頑丈さを達成

電池を内蔵し、ディスプレイや無線通信機能を備えるスマートカードが普及しつつある。その中でトレックス・セミコンダクターは、スマートカード向けに高さがわずか0.33mmのモールドパッケージ採用IC群を製品化した。通常、低背パッケージとしてはCSP(チップサイズパッケージ)が用いられるが、なぜワイヤーボンディングが必要になるため低背化は不利なモールドパッケージ品を開発したのか。製品化の理由とともに、高さ0.33mmのスマートカード向けアナログIC群を紹介していこう。

» 2017年08月24日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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 「CSP(チップサイズパッケージ)ではなく、ワイヤーボンディングの樹脂モールドパッケージで高さ0.33mmを実現する必要があった」

 こう語るのは、アナログ半導体メーカーであるトレックス・セミコンダクターでフィールドアプリケーションエンジニアを務める今井達徳氏だ。通常、半導体製品の低背化を図るには、ボンディングワイヤーなどの内部配線を用いず、ダイの一部を露出させ半導体パッケージサイズを最小化できるフリップチップ技術を用いたCSPなどのパッケージを採用するのが常識だ。なぜ、ワイヤーボンディングを用いる樹脂モールドパッケージで、高さ0.33mmという超低背化を実現しなければならなかったのだろうか――。

 今井氏は「クレジットカードやキャッシュカードなどのカードメーカーから強い要望があったから」とその理由を明かす。

スマートカードのイメージ

 「どうして、クレジットカードやキャッシュカードで半導体が必要なの?」と疑問に思うかもしれないが、実は、海外を中心にクレジットカードなど各種カード類の高機能化が目覚ましく進んでいるのだ。残額表示が行える交通系カードや、指紋認証機能付きキャッシュカード、ボタン1つでカード会社を切り替えられるマルチクレジットカードなどが実用化されつつあるのだ。こうした従来にない機能を備えたカードは、一般に「スマートカード」と呼ばれ、現金よりもカード支払いが浸透しているアジア地域で急速に普及しつつある。「欧米の大手クレジット会社もスマートカード化を検討し、実証実験を行っていると聞く。近いうちに日本でもスマートカードが当たり前の様に使われる時代がくるだろう」(今井氏)と付け加える。

 当然、ディスプレイやセンサーといったデバイスを動作させるには、バッテリーなどとともに電源ICをはじめとした各種半導体デバイスが必要になる。そのため、カードメーカーが、高さ0.33mmという超低背パッケージの半導体デバイスを求めているというわけだ。

スマートカードの内部基板。多数の部品が実装される

 しかし、なぜCSPではダメなのか。そもそも、高さ0.33mmでなければならないのか。疑問は残る。

厳格な仕様、厳しい品質テスト

 トレックス 汎用製品ビジネスユニットビジネス推進グループ副参事を務める山本洋一氏は「クレジットカードなどにはその互換性を保つために、国際規格が定められ、サイズや厚みが厳格に定められている。また、厳しい品質テストも課せられ、高い強度、頑丈さが求められる。そのため、パッケージの高さは0.3〜0.4mm程度に限定される。CSPでは強度に不安があり、品質テストを通らない可能性があるからだ」と応じる。

スマートカードの概要

 国際規格で定められたクレジットカードやキャッシュカードのサイズは、53.98×85.60×0.76mmと0.01mm単位で定められている。0.76mmという限られた厚みで、カードの表面、裏面を覆うプラスチック板の間に半導体デバイスや配線板を挟み込まなければならない。そのため、半導体デバイスに許される高さは「せいぜい0.4mmまで」(山本氏)となっているのだ。

 カードの品質テストはカード会社などによって異なるが、カードの片端を固定し、もう一方の端を折り曲げる動作を数千回繰り返すベンディングテストを課すケースが多いという。「もちろん、半導体デバイスは、最も折り曲げでストレスが掛かるカード中央付近を避けて実装されるのだが、少なからず曲げやねじりといったストレスが半導体デバイスにも掛かる」とする。

 「スマートカード向けの半導体デバイスの提供を開始するに当たって、カードメーカーに小型化しやすいCSP品を提案したところ一様に“CSPは避けてほしい”と返答された。聞けば、CSP品は折り曲げテストでダイが割れるなどの破損が起こり、補強して使わざるを得ない状況で、CSP以外のモールドパッケージでの提供を望まれた」という。「どうも、パッケージ基板に直接ダイが接するCSPでは、折り曲げストレスが直接、ダイに加わって割れなどの破壊につながっているようだ」と分析する。

トレックス独自パッケージ「USP」の存在

 フリップチップ技術が使えない中で、0.4mm以下のデバイス開発を迫られることになったのだが、山本氏らは動じなかった。「CSPとともに、“USP”という選択肢がわれわれにはあったから」と当時を振り返る。USPとは2002年にトレックスが携帯電話機などモバイル機器向けに開発した独自の小型パッケージ「Ultra Small Package」の略称だ。超小型・薄型と高放熱を両立するというコンセプトの下に開発されたパッケージで、ワイヤーボンディングを用いた樹脂モールドパッケージながら「ウエハーレベルパッケージより一回り程度大きいだけのパッケージサイズ」を実現できる。既に携帯電話機、スマートフォンを中心に数十億以上の出荷実績を誇り「USPであれば、0.4mm以下の低背化を実現できる見込みがあった」という。

高さ0.33mmを実現したUSP(写真は、USB-6B06)

 そして、ワイヤー配線の高さを抑える技術やダイを薄化する加工技術を磨き、2015年に高さを0.33mmに抑えた超薄型版USPを開発し、レギュレータIC「XC6216」の発売を開始した。気になる強度だが、「1つの目安だが、パッケージと基板の接合強度を比較した場合、USPタイプはCSPタイプの約6倍の強度を有していることが分かった」(山本氏)とし、スマートカードメーカーが求める強度を満たすことにも成功した。

 そして2017年6月、スマートカードで使用されるさまざまなアナログチップを高さ0.33mmのUSPに封止し製品化。スマートカード向け低背アナログICシリーズラインアップを一気に完成させたのだ。

 スマートカードは大きく3つのタイプに分けられる。一次リチウム電池搭載タイプと、二次リチウムイオン電池搭載タイプ、そしてスーパーキャパシタ搭載タイプの3つで「それぞれで、用いられるICは異なり、いずれのタイプにも対応できる製品ラインアップが整った」という。

スマートカードに必要なICを網羅

 現在、実用化されているスマートカードの多くが採用する一次リチウム電池搭載タイプ向けには、電圧レギュレータICに加えて、固定出力の昇圧チャージポンプICが求められる。今後登場してくる高機能なスマートカードでの搭載が見込まれる二次リチウムイオン電池搭載タイプでは、電圧レギュレータICの他に、チャージャー(リチウム充電)ICが必要となる。スーパーキャパシタ搭載タイプでは、レギュレータやチャージャーICに加え、ワイヤレス給電用ICが必要になる。

 さらに、いずれのタイプでも搭載機能に応じて、ラインスイッチICや電圧検出ICといったアナログICが使用される。トレックスでは、これら全てのICを高さ0.33mmのUSPで製品化したのだ。

スマートカードで要求されるアナログICを網羅するトレックスの製品ラインアップ

 トレックスでは、既に国内外のカードメーカーに対し、高さ0.33mmのUSPに封止した各ICの提案を開始。「先行して発売していた電圧レギュレータICを中心にワールドワイドで15社を上回るメーカーで採用が見込まれており、評判は上々。競争力のある製品に仕上がった」(山本氏)とする。

今井達徳氏

 上々の評価を得ている理由として、今井氏は「小型で丈夫なパッケージであること、そして消費電力が低いということがある。スマートカードが搭載できる電池サイズは、当然ながら小さい。低消費電力ニーズはとても強い」と説明する。

 「幸いにもトレックスは、小型パッケージ技術と同様にスマートフォンなどモバイル機器で培われた低消費電力技術を得意にしている。スマートカードは、トレックスの強みを発揮しやすいうってつけの用途分野だ」と付け加える。

 例えば、電圧レギュレータ XC6215の消費電流はわずか0.8μAで、スタンバイ電流は0.1μA。ロードスイッチである「XC8102」も消費電流は3.6μA、スタンバイ電流は最大0.1μAとなっている。「自己消費を抑えることはもちろん、スタンバイ時間が長いスマートカード用途はゼロアンペアに近いスタンバイ電流が要求される。そうしたニーズを満たせている」(今井氏)とする。

 では、ここで、トレックスがスマートカード向けに展開する低背・低消費電力IC製品シリーズの概要を紹介しよう。

30V耐圧! 中耐圧レギュレータ「XC6216シリーズ」

特長:ワイヤレス給電対応などで要求される耐圧30Vを、高さ0.33mmの低背パッケージで実現。

主な仕様:入力電圧範囲2.0〜28V / 出力電圧設定範囲2.0〜12V(±2.0%、0.1Vステップ) / 最大出力電流150mA / 消費電流5μA / スタンバイ電流0.1μA

パッケージ/サイズ:USP-6B06(1.8×1.5×0.33mm)

0.8μA動作! 超低消費電流レギュレータ「XC6215シリーズ」

特長:消費電流わずか0.8μAを実現し、リチウム電池からの電源供給部に最適なレギュレータ。

主な仕様:入力電圧範囲1.5〜6V / 出力電圧設定範囲0.9〜5.0V(±0.1%、0.1Vステップ) / 最大出力電流200mA / 消費電流0.8μA / スタンバイ電流0.01μA

パッケージ/サイズ:USP-6B06(1.8×1.5×0.33mm)

ロードスイッチIC「XC8102」

特長:低消費電力のロードスイッチ。マルチカードなどの回路切り替えなどに最適。

主な仕様:動作電圧範囲1.2〜6.0V / オン抵抗0.31Ω(4.0V入力時) / 消費電流3.6μA / スタンバイ電流0.1μA

パッケージ/サイズ:USPN-4(1.2x0.9x0.4mm) / USP-6B06(1.8x1.5x0.33mm)

外付けインダクタ不要のチャージポンプIC「XC9801/XC9802シリーズ」

特長:外付けコンデンサだけで昇圧回路が構成できる。一次リチウム電池から3.3V、二次リチウム電池から5Vを安定出力可能。

主な仕様:入力電圧範囲1.8〜5.5V / 出力電圧設定範囲2.5〜6.0V(±2.0%、0.1Vステップ) / 出力電流80mA(3.6V入力、5.0V出力時) / 消費電流3mA / スタンバイ電流2μA

パッケージ/サイズ:USP-8B05(2.4x2.4x0.33mm)

リチウムイオン・ポリマー 1セル充電IC「XC6808シリーズ」

特長:充電電流5mAまで対応可能なリチウムイオンチャージャー。電池から充電ICへの放電電流は0.1μAで、長期間放置での電池消耗を軽減する。

主な仕様:動作電圧範囲4.5〜6.0V / 充電電流5mA〜40mA(外付抵抗により設定可能) / 充電電圧4.2V、4.35V、4.40V(内部固定) / 充電時消費電流100μA / 電池リーク電流0.1μA

パッケージ/サイズ:USP-6B07(1.8×2.0×0.33mm)

電圧検出器「XC6129シリーズ」

特長:外付けコンデンサで遅延時間が設定可能。消費電流はわずか0.42μA。

主な仕様:動作電圧範囲:1.3〜6.0V / 検出電圧範囲1.5〜5.5V(0.1Vステップ) / 精度±0.8%(25℃時) / 検出電圧温度特性±50ppm/℃ / 消費電流0.42μA (検出時、VDF=2.7V)、0.58μA(解除時、VDF=2.7V)

パッケージ/サイズ:USPQ-4B05(1.0×1.0×0.33mm)

ブリッジダイオード内蔵品も開発、今後もラインアップ拡充へ

 トレックス・セミコンダクターでは、これら製品に加え、より高機能な次世代型スマートカード向けの製品開発を実施している。

 その1つが、中耐圧レギュレーターであるXC6216シリーズと、ワイヤレス給電対応で必要になるブリッジ回路を高さ0.33mmのUSPにワンパッケージ化した「XCM414」(開発中)だ。山本氏は「面積の限られるスマートカードでは、集積化ニーズも強く、特に4つのダイオードが必要になるブリッジ回路も集積してほしいという声があり、ワンパッケージ化を実現した」という。

「XCM414」の概要
山本洋一氏

 また「今後、スマートカードが高機能化すれば、大電流を供給できるDC-DCコンバータが必要とされるだろう」とし、フリップチップタイプのLGAパッケージ品ながら高さ0.33mmの1A降圧DC-DCコンバータ「XC9259」を製品化している。高速過渡応答を実現するトレックス独自の制御技術「HiSAT-COT」を用いた製品で、軽負荷時を含めて高効率を実現。6.0MHzという高い発振周波数*)を誇り、小型インダクタ、コンデンサを選択できる。「既にXC9259とともに、スマートカードに搭載できる超薄型のインダクタも存在する。需要が高まれば、USP品として提供したい」(山本氏)とする。

*)発振周波数1.2MHz品もある。

 今井氏は「これからスマートカードは、日本を含めて世界的に普及していくだろう。ワイヤレス給電タイプなど次世代型スマートカードを含め、基本的なICを全てラインアップすることができた。今後は、ニーズを見極めながら、XCM414のようなマルチチップパッケージ品や、さらなる低消費電力化を図った製品を提供していきたい」とする。

 さらに、「高さ0.33mmパッケージの各製品は、そのサイズ、消費電力の低さから、スマートカード以外にも、完全ワイヤレスタイプのイヤフォンやウェアラブル端末でも引き合いがある。広く提案していきたい」としている。

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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年9月27日

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