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» 2017年09月21日 11時00分 公開

DC-DCコンバーター活用講座(6) 電力安定化(6):プッシュプルコンバーターで電力安定化するには (3/3)

[Steve Roberts(RECOM),EDN Japan]
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非安定化プッシュプルコンバーター

 プッシュプルトポロジーは、非安定化の絶縁型DC-DCコンバーターでも広く使用されています。入力電圧が安定化されている場合は、出力電圧との関係がトランスの巻数比によってのみ決まるので、プッシュプルトポロジーはより高いボード電圧、より低いボード電圧、反転されたボード電圧、またはバイポーラのボード電圧を低コストで生成することができる方法です。図4に、誘導帰還を使って自走発振器(Royerトポロジー)を構成する、非安定化プッシュプルコンバーターの回路を示します。

図4:非安定化プッシュプルコンバーター 出典:RECOM(クリックで拡大)

 上の図から分かるように、この回路は全体として対称になっています。電力を印加すると、両方のトランジスタのベースが電流制限抵抗RF1およびRF2を介してVIN+に接続されますが、VBE値が小さい方のトランジスタが最初にオンします。

 例えば、TR1とTR2は同じタイプのトランジスタではありますが、製造許容誤差によりTR1の方が少し速く反応すると仮定しましょう。T1,apを電流が流れて、トランスを励起し、T1,asとT1,bfに正電流、T1,bsとT1,afに負電流が発生します。T1,afに発生する負電流によってTR1がオフし、T1,ap内の電流が遮断される一方で、T1,bf内の正電流によってTR2がオンします。TR2がオンすると、T1,bpを電流が流れ、トランスを再び励起しますが、今度はT1,bsとT1,afに正電流が発生し、T1,asとT1,bfに負電流が発生します。

 T1,bに発生する負電流によってTR2がオフし、T1,bp内の電流が遮断されます。一方、T1,af内の正電流によってTR1が再びオンします。従って、このコンバーターはトランス結合の自走発振器であり、すぐに最も効率的な動作をする50%のデューティ比になります。

 上の回路図はほぼ完全なものですが、十分に機能するDC-DCコンバーターを構成するには数個のパッシブバイアス部品が必要です。このように、このタイプのコンバーターは10個ほどの部品で構築できるので、コストを最小限に抑えることができます。また、サイズも非常に小さくすることができます。RECOMはわずか8.3×8.3×6.8mmのケースサイズのRNMコンバーターを提供しています。これは超小型サイズでありながら、1Wの出力電力を供給し、入力と出力間に2000Vdcの絶縁を確保しています。

 この設計では出力から入力への帰還経路がないので、コンバーターは出力負荷があってもなくても50%のデューティサイクルで発振し、出力は安定化されません。負荷のかかった状態では、寄生効果によって出力に発生するスイッチングスパイクが大きく減衰し、出力電圧にそれほど影響しません。しかし、無負荷状態では、スパイクは出力ダイオードによって整流され、トランスの巻数比の計算から予測されるよりもかなり高い出力電圧を発生します。負荷に対する標準的な出力電圧偏差のグラフを図5に示します。

図5:非安定化コンバーターの標準的な出力電圧偏差のグラフ 出典:RECOM(クリックで拡大)

 偏差のグラフから分かるように、非安定化コンバーターでは10%未満の負荷は避けなければなりません。無負荷動作が設計要件である場合は、アプリケーションがスタンバイモードのときにダミーの負荷抵抗を出力の両端に配置して出力電圧を低く抑えるか、あるいは、ツェナーダイオードを使って出力電圧を安全値内にクランプすることができます。

 10%未満の負荷範囲を除くと、出力電圧偏差は驚くほどへいたんです。上の例では、10%〜100%の負荷では負荷レギュレーションは±2%以内です。これは安定化コンバーターと同程度の非常に優れた値です。入力電圧と負荷が比較的一定な多くのコスト重視のアプリケーションでは、非安定化コンバーターは非常に経済的なソリューションであり、同等の安定化型の代替ソリューションよりも標準で30%安くなっています。

 他の非安定化コンバーターの短所は、トランスの構造が複雑である(巻線が4本ではなく6本)ことと、自走発振器を簡単にディスエーブルする方法がないということです。これは、このトポロジーでは過熱、過負荷、あるいは短絡に対する標準的な保護機能が通常存在しないということを意味します。

 図4に示す回路図はシングル出力ですが、D2を反転させて出力コンデンサーをもう1個追加することでバイポーラ出力DC-DCコンバーターを容易に構成できます。このようなコンバーターは、いくつかのアナログ回路で必要とされるバイポーラ電源レールを供給するのに非常に有効です。

 例えば、+5V入力、±12V出力のコンバーターがあれば、標準的な5Vレールからオペアンプ回路で必要とされる、正のレール電圧と負のレール電圧を供給することができます。多くのオペアンプは電源電圧範囲が広い(例えば、標準的な741オペアンプは±5V〜±18Vの広い電源範囲で動作)ので、出力が安定化されず、負荷によって変動するという事実は重要ではありません。ガルバニック絶縁は、5Vレールのデジタルノイズがアナログ電源レールに転送されないということを意味します。

 2本の2次巻線の巻数比を異なる値にすることで、非対称のバイポーラ電圧を生成できます。例えばRECOM RH-121509DHコンバーターは4kVdcの絶縁で公称12Vの入力電圧から+15、-9Vの出力電圧を生成します。このようなコンバーターは、ドライバーICが絶縁型の非対称バイポーラ電源を必要とするIGBTアプリケーションに有用です。

 IGBTドライバーは高電圧IGBT電源に直接接続されるため、DC-DCコンバーターは絶縁バリアにかかる連続的な高電圧に耐える必要があります。下記のブロック図は、このようなコンバーターの標準的なアプリケーションを示します。各IGBTの電圧が異なるので、ドライバーごとに個別の絶縁電源が必要です。

図6:12個の絶縁型非対称 DC-DCコンバーターを使ったIGBT 3レベルインバータの例 出典:RECOM(クリックで拡大)

⇒「DC-DCコンバーター活用講座」連載バックナンバーはこちら


執筆者プロフィール

Steve Roberts

英国生まれ。ロンドンのブルネル大学(現在はウエスト・ロンドン大学)で物理・電子工学の学士(理学)号を取得後、University College Hospitalに勤務。その後、科学博物館で12年間インタラクティブ部門担当主任として勤務する間に、University College Londonで修士(理学)号を取得。オーストリアに渡って、RECOMのテクニカル・サポート・チームに加わり、カスタム・コンバータの開発とお客様対応を担当。その後、オーストリア、グムンデンの新本社で、RECOM Groupのテクニカル・ディレクタに就任。



※本連載は、RECOMが発行した「DC/DC知識の本 ユーザーのための実用的ヒント」(2014年)を転載しています。

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