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DC-DCコンバーターの性能に影響を与える寄生特性DC-DCコンバーター活用講座(7) 電力安定化(7)(1/3 ページ)

今回の記事では、DC-DCコンバーターの性能に影響を与える部品の寄生特性や、疑似共振(QR)コンバーター、共振モード(RM)コンバーターについて解説します。

» 2017年10月23日 11時00分 公開

寄生素子とその影響

 DC-DCコンバーターに関するこれまでの解説は理想的な部品を前提としており、寄生の影響を無視しています。しかし、インダクターには寄生容量と寄生抵抗が存在するので、コンデンサーや抵抗に寄生インダクタンスが存在することは紛れもない事実です。

 したがって、スイッチングレギュレーターに使用する部品の選択は、性能に大きく影響します。スイッチング素子や整流素子、磁気部品、およびフィルタコンデンサーなどの重要部品は、すべて、スイッチング周波数とコンバーターの全体的効率の両方に影響します。これまでのセクションでは、パワースイッチ、整流ダイオード、トランス、インダクタンス、および容量を、すべて理想的な部品と見なしてきました。しかし、実際の部品は理想的なものではなく、DC-DCコンバーターの全体的性能に影響を与える寄生特性を備えています。

図1:コンバーター部品と標準的な寄生素子 出典:RECOM(クリックで拡大)

 特に、半導体スイッチは多くの非理想的特性を備えています。FETを使用する場合、その駆動回路には高いピーク電流を供給できること、特に、ゲート、ドレイン間にある寄生ミラー容量の充放電に必要な電流を供給できることが求められます。ダイオードには並列等価容量があり、ダイオードのスイッチング速度を低下させ、内部順方向電圧損失を発生させることは言うまでもありません。インダクター損失はコア材料の選択に大きく依存し、巻線のI2R電力損失と巻線間結合容量による動作損失も発生させます。コンデンサーには、等価直列抵抗(ESR)や等価直列インダクタンス(ESL)などの寄生効果があります。これらの効果はすべて周波数に依存し、コンデンサーがインダクターとしての挙動を示すことがあるのと同様に、インダクターは高周波数でコンデンサーとしての挙動を示すことがあります。

図2:トランスの寄生素子 出典:RECOM(クリックで拡大)

 図2は、トランスに関連する寄生素子を示しています。CWAとCWBは巻線間結合容量で、CsとCpは1次巻線と2次巻線の容量(高周波設計の場合を除き、通常はそれほど大きくありません)、LMはコアの磁化インダクタンス、LLPとLLSは洩れインダクタンスです。これらの寄生効果は、コンバーターの性能に大きく影響します。結合容量は同相EMCの問題を発生させ、LMによるコアの飽和はトランスの電流を制限します。また、動作温度と洩れインダクタンスは特に厄介で、効率を低下させる上に放射EMIを発生させます。

 巻線電流が急激に変化すると電圧スパイクが発生しますが、洩れインダクタンスはこの電圧スパイクにも関係しています。1次側スイッチと2次側ダイオードにはこれらの過電圧によるストレスが加わるので、ピーク電圧に耐え得るような寸法のものとするか、並列スナバ回路を使用してスパイクのエネルギーを放出させる必要があります。スパイクに含まれるエネルギーとスナバが吸収しなければならない電力は、次の式で計算できます。

式1:洩れインダクタンスによるスイッチングスパイクのエネルギーと電力損失

 図3は、スイッチングスパイクを吸収するためのスナバ回路を持たないフライバック設計のスイッチングFETにかかる電圧の波形で、上の波形はスイッチングFETにかかる電圧です。この例の電源電圧は160Vdcですが、定格600VのFETが必要です。

 下の波形は出力整流ダイオードに流れる電流です。ダイオードにはさらに大きな電力(ストレス)がかかることが分かります。寄生インダクタンスによるピーク電流は、トランスのインダクタンスによるピークより50%高いため、結果として温度はさらに上がります。

図3:160Vdc入力12Vdc出力のフライバック・コンバーターの実際のスイッチング波形 上:スイッチにかかる電圧。下:整流ダイオードの電流 出典:RECOM(クリックで拡大)

 スナバ回路を追加すればスパイクのエネルギーの一部を吸収できるので、スイッチとダイオードにかかる過電圧ストレスが減り、結果として動作時の温度が低下するだけでなく、伝導性および放射性エミッションが減少します。しかし、スパイクによって生じる電力損失をスナバで無くすことはできません。スナバ回路を使用すると、使用しない場合はスイッチや整流ダイオードで放出される電力が、スナバ回路の抵抗によって消費されます。ただし、抵抗は受動部品で動作温度定格値が高いので、通常はスナバ回路を追加すると費用効果が向上します。図4は、フライバックコンバーターのスイッチングスパイクを吸収するためにスナバ部品を組み込んだ回路です。

図4:フライバックコンバーターのスナバ部品 出典:RECOM

 結合リアクタンスをもつ系では、寄生洩れインダクタンスによって生じるスパイクの他に、共振周波数も問題になります。トランスを基本としたほとんどの設計では、これらの寄生素子を最小限に減らすか、共振が問題とならないような動作周波数域を選ぶことが試みられます。

 しかし、共振コンバーター設計や疑似共振コンバーター設計では、巻線のインダクタンスを大きくしたり、新たなインダクターを追加したりすることによって、故意に共振が発生するようにしています。これは、この共振を制御できる場合は、極めて効率的なコンバーター設計が可能になるからです。

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