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» 2017年11月07日 10時00分 公開

Wired, Weird 特別編:キーサイトの3出力電源『E36312A』を使って電源や温調器を修理してみた

電子機器の修理業務のさまざまなエピソードを紹介しているEDN Japan連載「Wired, Weird」。今回は“特別編”として計測機器メーカーであるキーサイト・テクノロジー製の最新の試験用電源『E36312A』とオシロスコープを使用した修理作業の模様を報告する。修理や機器開発には、やはり良い道具が必要だと思い知らされた――。

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もう少し高性能な試験用電源さえあれば……

 筆者はEDN Japanの連載「Wired, Weird」で報告している通り、日頃、さまざまな電子機器の修理業務を行っている。修理業務に計測機器は欠かせない存在だ。しかし、半ば個人で修理業務を請け負っているため、自宅にある計測機器は、かなり心もとない陣容になっている。マルチメーターに、単チャンネルの5V DC電源、±15Vのスイッチング電源、それに部品販売サイトで買った3万円程度のオシロスコープしか手元にはない。当然、いろいろと不便で、智恵や工夫でしのいだり、高機能な計測機器を借りたり、時には十分な計測機器がないために修理依頼を断るということさえある。つい最近も「もう少し高性能な試験用電源さえあれば、もっと修理精度を上げられたのに……」というモヤモヤを抱えつつ修理を済ませて、顧客に納品したところだ。

 そうした中で、今回、キーサイト・テクノロジーの80W 3出力試験用DC電源『E36312A』(6V/25V/25V)を試用する機会を得た。今回は、Wired, Weird特別編として、キーサイト・テクノロジーの3出力電源「E36312A」を使った作業の模様を報告する。

 先に結論を言っておくが、修理や機器開発は「弘法、筆を選ばず」ではなく「皆、良い道具を選べ!」だ。

80W 3出力電源「E36312A」とは

 さて、修理に入る前に、今回の主役でもあるキーサイトの3出力電源「E36312A」を簡単に紹介しておこう。

キーサイトの80W 3出力電源「E36312A」

 E36312Aは、キーサイトが2017年6月に発売した新製品「E36300Aシリーズ 3出力DC電源」の1つで、価格は17万8102円。個人事業主でもなんとか手に入れることのできる価格設定だ。しかしながら、機能は本格的だ。

 黒い筐体に、大型のカラーディスプレイを搭載し、見た目からして高機能、高性能の試験用DC電源に仕上がっている。そして、0.01%の優れた電源変動/負荷変動、50マイクロ秒未満の高速トランジェント応答時間、1μA分解能の低レンジ電流測定といった性能、精度を備えるという。過電圧/過電流/過熱保護機能も装備している点も、修理業務を行う上で、何とも頼もしい。大電流を流してしまって修理品を壊してしまっては、元も子もない。電源などの修理では、いつも必要以上の電流が流れてしまわないかと、神経をすり減らしているので、こうした保護機能は基本なのかもしれないが、かなりありがたい機能だ。

 E36312Aの出力は、6V/5A(CH1)、25V/1A(CH2)、25V/1A(CH3)の合計80Wの3出力を備える。しかも3つの出力は個別にオンオフでき、シーケンス制御も行える。また、25V/1AのCH2とCH3を直列に接続し最大50Vを、並列接続して2Aを出力するといった使い方もできる。この機能も便利そうだ。ちなみに6V/10A、25V/2A、25V/2Aの合計160W出力品(型番:E36313A)もあるという。

 それでは、修理の報告に入ろう。

出力電圧が安定しないDC48V電源を修理する

 まず、修理するのは、出力電圧が安定しないというDC48V電源だ(図1-1)。出力電圧が安定しないのであれば、おそらくサブ電源の電解コンデンサーの劣化が原因に違いない。

図1-1:今回、修理するDC48V電源

 早速、修理品にAC100Vを通電し不具合を確認してみると、電源表示のLEDが瞬灯して消え、不安定どころか電圧が出力されない。あれ? 依頼主から聞いた「出力電圧が不安定」という不具合内容と一致しないぞ!

 ともかく、修理対象のDC48V電源を観察していこう。端子は、入力がAC電源とFGで、出力がDC48Vとセンス端子だ。端子台には、出力電圧調整用のボリュームと、電源状態表示用の緑色LEDが備わっている。

 LEDが瞬時に消える現象から、過電圧検知回路が作動していると推測されるので、出力電圧をオシロスコープで確認することにした。なお、オシロスコープもキーサイト製の「InfiniiVision 1000Xシリーズ/EDUX1002G」を取り寄せ、使用した。

 ちなみに、このInfiniiVision 1000Xシリーズの製品紹介サイトを見ると「“高値”の花じゃない 本格派オシロスコープ」というキャッチコピーで紹介されている。EDUX1002Gは、そのキャッチコピー通り、8万6392円という価格にもかかわらず、オシロスコープ、波形発生器、プロトコルアナライザ、周波数応答アナライザ、デジタル電圧計、周波数カウンタと1台で6つの計測器の機能を持つという優れものだ。

 少し話がそれたが、図1-2に、EDUX1002Gで取得した出力波形を示す。

図1-2:EDUX1002Gで取得したDC48電源の出力波形。高速、高精度の電圧確認が行え、低価格オシロスコープとは思えない波形が表示された

 図1-2の通り、電源を投入した途端に56.4Vが出力され、過電圧検知回路が作動しシャットダウンしている。出力の不安定さに悩む依頼主が、ボリュームを操作し設定電圧を上げたことが原因かもしれない。

ボリューム調整のため出力にE36312Aを接続し電圧を印加

 出力を48Vになるようボリュームを調整する必要がある。ここで、ようやく、主役のE36312Aの出番だ。前述の通り、E36312Aには各出力を直列接続し、高い電圧の電源を供給できる。3つのチャンネル全てを直列接続すれば最大56Vの電源が供給可能だ。この直列接続機能を設定し、修理品の出力側からさまざまな電圧を印加し、ボリュームを調整してみる(図1-3)。

図1-3:修理品の出力にE36312Aを接続しさまざまな電圧を印加してみる。E36312A上に置いたマルチメーターで電圧フィードバック用フォトカプラのトランジスタ側抵抗値を表示させている
左=合計50Vを印加した様子
右=合計49.7Vを印加した様子

 まず48V電源の電圧設定のボリュームを中央に戻した。そして、CH1を2V、CH2とCH3を24Vに設定し直列に接続して合計50Vを印加した(図1-3左)。出力電流は0.1Aだ。

 E36312Aの上に置いたマルチメーターでは、電圧フィードバック用フォトカプラのトランジスタ側抵抗値を計測、表示させている。計50Vを印加した際、約200Ωの抵抗値でオンすることが分かった。

 次に、CH1の出力電圧だけを徐々に下げてフォトカプラがオフする電圧値を探していく。E36312Aは、出力しながら出力電圧を微調整できるのでかなり便利だ。CH1の出力電圧を1.7Vに下げたところ(=合計電圧49.7V)でフォトカプラは約2kΩでオフした(図1-3右)。E36312Aの消費電流の表示を見ればよく分かるが、図1-3の左側は52mAでフィードバックがオンし、右側は38mAでオフしている。このように操作すれば主電源を印加しないでもボリュームを調整することが可能だ。

やはり故障原因は……

 さて、ボリュームの調整が終わったので、AC100Vを通電すると無事に動作状態を示す緑色のLEDが点灯した。ただ、マルチメーターで出力電圧を測定すると、出力電圧が48Vの上下1V程度ではあるが揺れていた。そして出力端子に220Ωの負荷抵抗をつないでみると、出力電圧は数ボルトも低下した。修理依頼主から当初、告げられていた「出力電圧が安定しない」という症状がようやく再現された。不具合原因はおそらく、サブ電源の電解コンデンサーなので探していこう。

図1-4:サブ電源部分
赤矢印で示した部品が問題の電解コンデンサーC9だ

 図1-4で示した通り、サブ電源の制御IC「AN8090」の左上にある小さなコンデンサーC9がサブ電源の電解コンデンサーだ。コンデンサーのスペック表示は、50V、4.7μFとなっている。だが測定すると、案の上、容量は0.44μFまで抜け、ESRも2.1Ωに劣化していた。この電解コンデンサーを取り換えれば、出力電圧は安定するはずだ。

 電解コンデンサーを交換し、E36312Aを使って、出力と消費電力を確認してみた。

負荷 出力電圧 消費電力
無負荷 48.0V 4.8W
220Ω負荷 48.2V 19.6W

 220Ωと軽負荷でのテストだったが、一応、正常に動作している。AC100Vを通電しても無事に、DC48Vを安定して出力した。これで修理は完了だ。

 E36312Aを使って電源修理に挑んだが、電圧が簡単に微調整できるだけでなく、電圧出力中にも設定値を変更できるのは電圧監視回路の動作確認などでかなり重宝する。電流制限もしっかり行えるので、安心して動作確認に没頭できるので、とてもうれしい。

高性能電源を使ってやりたかったことに挑戦!

 さて、E36312Aの有用性が一通り確認できたので、E36312Aを使って、ぜひやりたいと思っていた作業に取り掛かるとしよう。やりたかった作業とは、ある温度調節器(温調器)の動作確認だ。

 この温調器、25年前に製造されたものだが、10年ほど前にメーカーサポートが終了してしまっている。しかし、まだ半導体製造現場で現役として活躍している。さすがに、製造から四半世紀が経つため、故障が相次ぎ、修理依頼が増えているのだ。単に修理依頼が増えているだけであれば良いのだが、実はこの温調器の回路図が開示されていないため、毎回、修理に苦戦する。そこで、一度、詳細にこの温調器の動作を詳細に確認せねばと思っていた。ただ動作確認には、高精度の電源、高速かつ高精度なオシロスコープが必要で、確認できずじまいだった。今回、その両方の計測器を使う機会を得た。まさに渡りに船だ。顧客から正常に動作する温調器を取り寄せ、入念に調べていくことにした。

図2-1:写真右が調査対象の温調器。写真左下が今回の主役「E36312A」。その上がオシロスコープ「EDUX1002G」だ
ちなみに温調器の後ろにいる“眠っているくまもん”は、筆者が技術顧問を務めるNSS九州のマスコットだ……。

 図2-1の右側にある白い筐体の機器が、調査対象の温調器だ。中央の端子にDC+5Vのデジタル電源とDC±15Vのアナログ電源を接続する。その他3本の測温抵抗体(PT-100)や温度表示パネルのケーブルと駆動用の電源やヒーターとクーラーも接続される。

 では、動作確認のために行ったテスト環境を紹介していく。

図2-2:温調器を計測した様子。正常品の消費電流を詳細に把握した

 温調器には、温度センサーの代わりに110Ωの抵抗を3個接続した。なお、110Ωは23℃相当の抵抗値だ。さらに、フラットケーブルで操作表示パネルに接続しパネルには温度と制御状態が表示されるようにした。

 そして電源としてE36312Aを接続した。E36312Aの設定は、CH1は5V/0.5A、CH2は15V/0.1A、CH3は15V/0.1Aとし、CH1のGNDと、CH2のGNDと、CH3のOutを接続し、CH3を−15Vとして使った。温調器にはE36312Aの3つの電源出力を5本の配線で中央の端子に接続した。

 ちなみにE36312Aの電圧と電流の設定は、テンキーと矢印キー、リターンキーの操作だけで、至って簡単に設定できる。また電圧は小数第3位まで設定できる精度を備え、いろいろな評価が可能だ。また3つのチャンネルを同時に出力できるスイッチも非常に使い勝手が良い。出力された3つのチャンネルの電流もそれぞれパネルに詳細に表示されるのでかなり楽に測定できるのも便利だ。

 なお、消費電流の測定結果だが、+15Vは24mAで、−15Vの8.4mAより多めだということが判明した。

電源電圧を変えて温調器の動作をEDUX1002Gで確認してみる

 次に温調器の動作をオシロスコープEDUX1002Gで電源の変動状態を確認してみた。図2-3に示したEDUX1002Gの表示を見てほしい。CH1がデジタル電源(5V系)の変動波形で、CH2がアナログ電源(−15V系)の変動波形だ。なお、CH1、CH2ともACレンジ10mVで測定している。

図2-3:温調器の電源変動をオシロスコープEDUX1002Gで確認した様子
CH1がデジタル電源(5V系)の変動波形で、CH2がアナログ電源(−15V系)の変動波形。CH1、CH2ともACレンジは10mV。

 見ての通り、CH1(5V系)では同一の電圧変動が7回ほど繰り返されており、CPUの動作が読み取れるようだ。この波形から、PT-100で測定されたアナログの電圧を読み込んでA-D変換する時に消費電流が増えていると分かる。−15V系電源の変動波形も同様の動きだった。

 次にE36312AのCH1から供給している5V電源の電圧が下がっていった場合に、どのように振る舞うのかを確認するため、取りあえずCH1の出力電圧を4.7Vに下げてみた。CPUはやはり正常には動作できなかった。図2-4にその様子を示す。

図2-4:CH1の出力電圧を5Vから4.7Vに下げたところ

 図2-4の通り、CH1の消費電流が144mAまで増加し変動しなくなった。オシロスコープの電圧波形も変動していない。おそらく、基板内の5V系の電圧低下検知回路でCPUがリセットされているのだろう。

 そこで、CHを4.7Vから4.75Vに上げてみた。図2-5にその結果を示す。

図2-5:CH1の出力電圧を4.7Vから4.75Vに上げた様子

 4.75VではCPUは正常に動作し、温度が正常に表示された。消費電流は92mAとなっていた。E36312Aではこのような細かな電圧設定ができるので、基板内部の動作の確認もかなり楽に行えた。

 さらに、温度センサー(PT-100)を接続していない時の電流や電圧変動の波形も確認してみた。図2-6に結果を示す。

図2-6:温度センサーを接続しなかった場合の電流、電圧変動波形を確認した

 PT-100の接続を外すと−15V系の消費電流が増加し、5V系の電圧変動波形が大きく変わった。PT-100の端子電圧はPT-100代わりの110Ω抵抗を接続すると0.2V程度になり、オープンにすると8.7Vに高くなる。オペアンプの反転回路が動作するので−15V系の消費電流が増加するようだ。電圧変動波形が大きく変わっており、図2-3と図2-6の波形をA-Dコンバータの端子の信号でトリガーを掛けることでCPUの動作が把握できた。

 このように3出力電源のE36312AやオシロスコープのEDUX1002Gを使って、回路図などの資料がなく、よく分からなかった温調器の動作を把握することに成功した。「これで、もうこの温調器の修理依頼が来ても、ある程度、楽に作業ができるぞ!」と喜んでいたら、タイミングよく、この温調器の温度補正依頼が舞い込んできた!!

温調器に異常がないかどうかE36312Aでチェック!

 補正に取り掛かる前に、補正依頼品の内部に劣化した部品がないか、チェックしなければならない。確認は簡単だ。E36312Aを使って補正対象品の消費電流を測定し、ちょうど測り終えたばかり正常品の消費電流値と同じであれば、内部部品に「異常なし」と判断できるからだ。正常品の消費電流は、図2-2で示した通り、5V系が100mA、+15V系が24mA、−15V系が8.4mAだった。補正対象品を測定すると……

図3-1:補正対象の温調器の消費電流をチェック

 5V系は96mA、+15V系が24mA、−15V系が8.98mAだった。正常品とほぼ同じ値であり、劣化している部品はないと断言してよいだろう。

 こんなに簡単な作業だけで、内部部品の劣化を疑わなくて済むのはとてもありがたい。心置きなく、温度補正作業に集中できる。

 温度補正だけなら、簡単だ。温調器が正常に立ち上がればINT端子に接続されたPT-100の代用である抵抗に応じた温度がディスプレーに表示されるので、抵抗値とA-D変換の入力電圧と表示温度の関係を確認すれば良い。作業詳細は割愛するが、無事に温度補正を終えることができた。

 キーサイト・テクノロジーの80W 3出力電源『E36312A』とオシロスコープ『EDUX1002G』はともに、とても高機能だが、使い方で迷う、困るといったことがなく、簡単に使いこなせた。そして、E36312Aは出力を手軽に微調整できる上、高精度で消費電流を測定できる点は、非常に役立つ機能だった。今回は、E36312Aを中心に使用したため、EDUX1002Gについては、使い込めなかったが、測定波形を記録し電圧や時間を詳細に分析できる機能などは非常に使えそうだ。とても低価格オシロとは思えなかった。

結論。良い道具を選べ!

 さて、E36312Aを使用して印象に残ったことは「これほどまでに機器の内部を見通すことができるのか!」ということだ。これまで機器の内部部品に不具合が潜んでいるかどうかは外側からは観察できず、経験と勘を元に探り探り機器と向かい合ってきた。高精度に消費電流が測定できるE36312Aを使えば、ハッキリと内部の様子を把握できる。しかも、手軽に。これは画期的なことだといえる。

 E36312AとEDUX1002Gのような高性能な計測機器があれば、修理や機器開発のスキルを高めやすいことは明白だ。筆者自身も、E36312AとEDUX1002Gを手元に置いて、仕事の精度をアップしたいと素直に感じている。

 修理や機器開発は「弘法、筆を選ばず」ではなく「皆、良い道具を選べ!」だ。

*)本文中の製品価格情報は2017年11月現在の希望小売価格で、消費税は含まれていません。
【著:山平豊/NSS九州】

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提供:キーサイト・テクノロジー合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年12月6日

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