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CR発振回路の歪を抑える非線形増幅回路Design Ideas アナログ機能回路

非線形増幅機能の実現手段の1つとして、振幅リミッター回路を用意し、その閾値まで発振信号の振幅を増大させるという方法がある。その場合、リミッター回路が動作することで出力振幅が一定になるわけだが、非線形歪と出力クリッピングを最小にするには工夫が必要となる。そこで本稿では、そうした工夫を盛り込んだCR発振回路を紹介する。

» 2018年01月29日 11時00分 公開

非線形歪と出力クリッピングを最小にする工夫

 発振回路の多くは、振幅を所定の値に維持し、歪を最小に抑えるための非線形増幅機能を備えている。その実現手段の1つに、発振回路からの正弦波出力を用いてフィードバック回路の抵抗値を制御するというものがある。それには、例えばJFETを3極管領域で動作させてソース―ドレイン間抵抗をゲート電圧で制御するといった手法が用いられる。

 非線形増幅機能のほかの実現手段としては、振幅リミッター回路を用意し、その閾(しきい)値まで発振信号の振幅を増大させるという方法がある。その場合、リミッター回路が動作することで出力振幅が一定になるわけだが、非線形歪と出力クリッピングを最小にするには工夫が必要となる。

 図1に示す回路は、そうした工夫を盛り込んだCR発振回路の例である。コンデンサー、抵抗ラダーによる位相シフト回路と非線形な増幅特性を持つ振幅リミッターなどから構成されている。

図1:非線形増幅回路を備えたCR発振回路 (クリックで拡大)

 抵抗R1、R2、R3の値はいずれも10kΩで、コンデンサーC1、C2、C3の値はいずれも1nFである。このことから、出力電圧VOUTの周波数fOは次式により求められる。

 図1においてトランジスタQ1、Q2の差動ペアからなる回路は非線形増幅特性を持ち、オペアンプIC1も含めて反転増幅回路を実現している。発振条件を満たすには、この非線形増幅回路のゲインが29以上でなければならない。トランジスタペアのエミッタ側に接続する抵抗RE1、RE2、RE3の値を適切に選択し、バイアス電流IEEを適切に設定することによって、この増幅回路の伝達特性(VIN対VOUTの特性)を非線形にすることができる。図2に示したように、入力電圧が小さい場合には、応答はほぼ線形になる。それに対し、入力電圧が大きくなると、Q1、Q2が非線形領域で動作することになり、ゲインが低下して伝達関数に飽和傾向が現われる。

図2:非線形増幅回路の伝達特性 (クリックで拡大)
入力電圧VINに対する出力電圧VOUTの応答を表す。入力電圧が小さい場合、応答はほぼ線形だが、約±100mVを超える辺りからゲインに飽和傾向が現われる。

 トランジスタQ3、Q4からなるカレントミラーにより、波形整形部の出力をシングルエンドの電流として取り出すことができる。オペアンプIC1により、この電流が電圧に変換される。なお、図1の回路はプロトタイプだが、ここでは校正用の可変抵抗RE3の値を約33kΩに設定したものとする。

 図3は、図1の回路による発振出力の時間軸波形を表したものである。一方、図4は発振出力の周波数特性を表している。

図3:発振出力の時間軸波形 (クリックで拡大)
動作開始から約400ms(15サイクル)後に、発振振幅が安定レベルに達する。
図4:発振出力の周波数特性 (クリックで拡大)
発振出力の周波数スペクトラムには、3次高調波がわずかに見られるだけである。

 図1の非線形増幅回路では、波形整形動作が周波数に依存しない。そのため、この回路は可変周波数の発振回路にも簡便に適用できる。ただし、オペアンプIC1の利得帯域幅積(GB積)が回路動作の限界を決めることには注意を要する。なお、ウィーンブリッジ発振回路のように非反転増幅器をリミッターとして使用する場合には、Q2のベースに正弦波出力を入力し、Q1のベースをグラウンドに接続すればよい。

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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事から200本を厳選し、5つのカテゴリーに分けて収録した。

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