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» 2018年01月31日 11時00分 公開

マイコン講座 ESD対策編(1):ESDによる不具合発生メカニズムと対策のヒント (2/4)

[菅井賢(STマイクロエレクトロニクス),EDN Japan]

ESDの破壊モード(メカニズム)

 ESDとしては「正極の高電圧」と「負極の高電圧」の2通りが考えられるが、実際に返品されてくるマイコンの破壊モードは、ほとんどが正極の高電圧起因の場合であるので、本記事では正極の高電圧サージが印加されたという場合を中心に解説を進める。

 ESDによる破壊箇所は、ほどんどの場合が端子の内部直近にある保護ダイオードだ。電源電圧よりも高いサージ電圧が入るので、端子から電源側につながっているダイオード(カソードが電源、アノードが端子)の経路を破壊する。(図1(a)参照)。

図1:ESD破壊のメカニズム(その1) (クリックで拡大)

 端子に入ったサージ電圧は、保護ダイオードを通過してマイコンの電源に逃げるが、その際に拡散層(ダイオードのPN接合など)や配線のメタル層やポリシリコン(Poly-Si)層、または絶縁層を破壊する。破壊モードは、配線層やダイオードのオープン(開放)か、ダイオードのショート(短絡)、または絶縁層が破壊して電源またはグランドライン(以下、GND)へのショートになるかは、状況により異なる。いずれにしろ、該当する保護ダイオードのダイオード特性をカーブトレーサーで観測すれば、容易に判断できる。ATE(Automated Test Equipment)でもオープンショートテストやリーク電流テストで判別できる。

 しかし、最近のマイコン(例:STマイクロエレクトロニクス製32ビットマイコン「STM32シリーズ」など)には5V耐圧端子があり、電源電圧が3V近辺でも、5Vを印加できる端子がある。この場合の保護ダイオードのカソードはマイコンの電源ではなく5V耐圧端子用過電圧保護回路(以下、過電圧保護回路)につながっている。したがって、5V耐圧端子の場合は、ESDによるサージ電圧が突入すると、この過電圧保護回路が破壊されてしまう。(図1(b)参照)。5V耐圧全端子で共通回路となっている場合が多い過電圧保護回路は、端子のダイオード特性では破壊を確認することができない。そのため、ATEのDC特性チェックやデジタル動作チェックなどで見つけ出す。その後、OBIRCH(光ビーム加熱抵抗変動)観察やEMMI(EMission Microscope)テストなどを行って、破壊箇所を解析し特定する。

 また、過電圧保護回路は、ESDを検知して高電圧ノイズを逃がすまでに、わずかだが時間がかかるため、高電圧サージがマイコンの内部にまで至り、内部回路を破壊してしまうこともある。(図2参照)。この場合も、OBIRCH観察やEMMIテストなどを行って、破壊位置を解析、特定する必要がある。

図2:ESD破壊のメカニズム(その2) (クリックで拡大)

 表1にESDの破壊モードをまとめる。この表では、ESDの高電圧サージでデバイスが直接破壊や損傷する場合と、間接的にマイコンの機能が損傷を受ける場合に大別した。

表1:ESDの破壊モード
種類 破損モード 説明
直接的
不具合
(*1)
MOS構造の破壊・劣化 保護ダイオードのPN接合破壊・劣化 保護ダイオードの拡散層(PN接合部など)が破壊・損傷する
絶縁破壊・劣化 酸化膜部の破壊・劣化 絶縁部が破壊・損傷し、配線層などの導電部分が電源またはGNDと短絡する
導電層の破壊 メタル層、Poly-Si層などの配線層の断線 メタル層、Poly-Si層などの配線層が高電圧の衝撃で破壊、損傷する。破損した破片が周辺に飛び、周辺回路にも損傷を与える場合もある
間接的
不具合
メモリセルのリテンション フラッシュメモリやRAMの値が変わる 高電圧の衝撃で、メモリセル内の電荷が通常状態でなくなり、メモリのデータが変わる(*2)
デジタル回路の誤動作 高電圧の衝撃により、MOSの閾値や抵抗値が変わり、正常なデジタル動作やアナログ動作ができなくなる 例えば、高電圧の影響でホットエレクトロンが発生し、それが酸化膜、絶縁層等にトラップされることにより、MOSの閾値が変化する。また、拡散層に異常なキャリアが発生し、MOSが正常に動作しなくなる(*3)
アナログ回路の誤動作
(*1)デバイスが破壊、損傷するので、消費電流やリーク電流の増大、デジタル・アナログ動作の不具合などとなって現れる。
(*2)メモリセルの電荷が抜かれたり、注入されたりすると、基本的に元に戻らないが、一時的に電荷の変化量が少なかったり、状態が変わった程度であれば、加熱による熱エネルギーで元に戻る(回復する)可能性がある。
(*3)加熱すると、熱エネルギーによりトラップされていたホットエレクトロンが開放されたり、拡散層の状態が元の状態に戻る可能性がある。
(その他の注意事項)直接的不具合は、OBIRCHやEMMIで直接損傷箇所を確認できるが、間接的不具合はマイコンの異常動作によってしか確認できないため原因については、あくまで推測である。

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