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多数の信号線に対するコモンモード電圧対策Design Ideas アナログ機能回路

コモンモード電圧(CMV)に起因する誤動作や性能劣化を防ぐため、信号の入出力に差動型の計装アンプを使用する手法が用いられる場合が多い。しかし、この方法には信号線ごとに専用のアンプ回路を要するという欠点がある。今回は、この欠点を改善しようと考案した回路を紹介する。

» 2018年08月13日 11時00分 公開
[Santosh BhandarkarEDN Japan]

コモンモード電圧の問題に対処する回路

 コモンモード電圧(CMV:Common Mode Voltage)に起因する誤動作や性能劣化は、アナログ回路の設計において昔から最も悩ましい問題の1つだった。これを正体の知れないものと感じる設計者も多いが、CMVの問題の原理は単純である。

 例えば、それぞれ別の筐体に配置されたセンサーとA-Dコンバーターがあったとする。これらに共通の基準電圧レベルを厳密に与えるのは難しいことだ。言い換えれば、回路の各所で同一のグラウンドレベルを保持するのは容易なことではない。グラウンドレベルに差異が生じてしまうことで、CMVに起因するノイズやオフセットが信号線に加わって特性が劣化するのだ。

 CMVの問題への対策にはいくつかのアプローチがある。例えば、グラウンド線として太い銅線を使用する“力ずく”な手法、信号の入出力に差動型の計装アンプを使用する手法などである。これらの手法にはそれぞれに適した使用条件があり、CMVの問題の重要性や対策すべき信号線の数などについて考慮した上で選択しなければならない。こうした対策の中で最も多く利用され、また最も効果的なのは差動アンプを用いる手法である。

 この方法では、信号に含まれるCMVの成分がアナログ的な減算によって除去される。しかし、この方法には信号線ごとに専用のアンプ回路を要するという欠点がある。この欠点を改善しようと考案したのが図1に示す回路だ。

図1:多数の信号線に対するCMV除去回路 (クリックで拡大)

 この回路は8チャンネルのアナログ信号線に対するCMV除去回路だが、2個のオペアンプと1個のマルチプレクサー、少数の抵抗とコンデンサーだけを用いて構成されている。その動作は以下の通りである。まずオペアンプA1は、電圧源からのCMVに相当する電圧(グラウンドレベル)を−10倍のゲインで反転増幅する。増幅後の電圧は、入力信号線のそれぞれに構成された抵抗網加算回路に入力される。各抵抗網は抵抗比が10:1であり、これにより入力電圧(VI+VCM)と−10倍されたCMV(−10×VCM)が加算される。従って、加算回路出力点の電圧Vは以下のようになる。

 ここで、VIは各チャンネルの入力電圧、VCMはCMV相当の電圧、Vは各チャンネルの加算回路出力電圧(マルチプレクサーへの入力)である。CMV相当の電圧VCMは、抵抗網の2kΩと20kΩの抵抗の比精度に依存して減衰される。比精度が1%の場合、CMRR(Common Mode Rejection Ratio:同相信号除去比)はおおむね100:1、すなわち40dBとなり、比精度が0.1%の場合のCMRRは1000:1、すなわち60dBとなる。

 加算回路出力は、アナログマルチプレクサーによって選択されてオペアンプA2を用いたゲイン11/10の回路で補正されて出力される。なお、加算回路で使われている0.1μFのコンデンサーはノイズフィルター用のオプションである。各定数の値は用途に応じた調整を要する。

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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事から200本を厳選し、5つのカテゴリーに分けて収録した。

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