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複数電源の立ち上がり特性を制御する回路Design Ideas パワー関連と電源(2/2 ページ)

» 2018年09月18日 11時00分 公開
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2つの出力電圧が同一の立ち上がり波形を描くためには

 図1の回路で実現できる電源供給方法のうち、第2の方法は、2つの出力電圧が同一の立ち上がり波形を描く方法である。この動作を実現するためには、図1の回路に青い破線で囲んだ部品を取り付ければよい。青色の抵抗R3も接続しておく。図3に出力電圧の測定波形を示した。IC1とIC2の出力電圧は途中まで同一の立ち上がり波形で高まり続ける。そしてIC2の出力電圧が設定値(1.5V)に達するとほぼ同時に、IC1の出力電圧も設定値(3.3V)に達する。

図3:2 つの出力電圧が同一の立ち上がり波形を描く
IC1の出力電圧(上側の波形)とIC2の出力電圧(下側の波形)は途中まで同一の立ち上がり波形で高まり続ける。そしてIC2の出力電圧が1.5Vに達すると、ほぼ同時にIC1の出力電圧が3.3Vに達する。

 この動作では、IC2がマスター側コンバーターとなる。IC2の出力電圧はR14とR12によって1.5Vに設定されている。一方IC1は、IC2によって制御されるスレーブ側コンバーターとして機能する。IC1の出力電圧はR8とR3によって1.5Vに定められる。レシオメトリック動作の場合と同様に、2つの出力電圧は同じ立ち上がり速度で高まり始め、設定値である1.5Vに同時に到達する。

 ここからの動作はレシオメトリック動作の場合と異なる。2つの出力電圧が1.5Vに達するとすぐに、IC1の出力電圧を最終的な値である3.3Vまで高める必要がある。このためQ1を導通させて、R6がR3と並列になるように接地電位に接続する。出力電圧の設定値を3.3Vに変更するわけだ。R6の値は次のような手順で求めればよい。まず、次式を用いる。

 ここでコア電圧(VOUTCORE)=1.5V、R8=27.4kΩ、IC1の内部バンドギャップ基準電圧(VREF)=0.891VであることからR3=40.2kΩになる。このときR3とR6を並列接続した抵抗値をRXとすれば、I/O電圧(VOUTI/O)はR8とRXによって設定できる。

 この式でVOUTI/O=3.3Vとすれば、RX=10.22kΩと計算できる。

 ここにR3=40.2kΩを代入すると、R6=13.7kΩと求められる。

 図1の回路に5Vの入力電圧を印加すると、2つのコンバーターICが同時に起動して、同時に出力電圧を生成し始める。マスター側コンバーターであるIC2の出力電圧が初期設定値(1.5V)の90%に達すると、オープンドレイン出力のパワーグッド出力ピン(PWRGDピン)がオープンになる。するとPWRGDピンの電位は直ちに入力電圧と同じ電位まで立ち上がる。R4を介して入力電圧にプルアップされているからだ。この立ち上がり信号がQ1に達し、Q1を導通させる仕組みである。

 ここでR5とC11は遅延回路として機能する。この遅延回路の時定数によって、パワーグッド信号が立ち上がってからQ1がオンするまでの時間が決まる。Q1のしきい値電圧VGSTHは1.6Vである。ゲート電極の電圧がしきい値電圧VGSTHを超えるとQ1がオンして、R3と並列になるようにR6を接地電位に接続する。この動作によってIC1の出力電圧設定値が変化して、I/O電圧(3.3V)まで立ち上がる。なお、MOSFETであるQ1のオン抵抗は10Ω程度である。このオン抵抗が回路の特性に影響を与えることはない。IC1の出力電圧を設定する抵抗値がオン抵抗に比べて十分に大きいからだ。

 図1の回路では、2つのコンバーターICが同じスイッチング周波数で動作する。IC2はマスター側コンバーターで、スイッチング周波数を700kHzに設定してある。IC1に入力電圧を与えると、まずIC2のスイッチング周波数より約10%低い、630kHz程度のスイッチング周波数で動作を開始する。IC2が動作し始めると、IC1はSYNCピンを介してIC2と同期をとる。ダイオードD1はSYNCピンを負の電圧スパイクから保護するために取り付けた。

 なお、2つの電圧出力間にショットキーダイオードを挿入すれば、入力電圧を印加していないときにも出力間の電位差を400mV〜600mVに保つことが可能である。陰極(カソード)をI/O電圧に、陽極(アノード)をコア電圧に接続する。


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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事から200本を厳選し、5つのカテゴリーに分けて収録した。

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