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グラウンド配線の考え方Wired, Weird

2つの装置(回路)のグラウンドがつながるような場合、原因が分かりにくい不具合が生じることがある。故障や誤動作を防ぐには絶縁(アイソレーション)用のフォトカプラが有用だ。グラウンドパターンに溝を入れるという対策が有効な場合もある。

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絶縁されていない装置のトラブル

 図1の回路をご覧いただきたい。このように、装置Aと装置Bが独立していて、きちんと絶縁されているならば問題はない。しかし、装置Aと装置Bの間が信号線で接続されており、それによってグラウンド同士がつながると問題が生じる。これについては、図2のような極端な例で考えるとわかりやすい。装置Bは故障によってグラウンド側のダイオードが欠損しているので、本来は動作しない状態にある。しかし、両装置が信号線でつながっており、グラウンドラインが確保されるため、装置Bが動作してしまう。また、装置Aのグラウンド側のダイオードに余計な電流が流れてしまうことになる。


図1 絶縁されていれば問題のない回路
図1 絶縁されていれば問題のない回路 
図2 ダイオードの故障により問題が生じる
図2 ダイオードの故障により問題が生じる 

 ここで問題になるのは、装置Bは通常どおりに動作してしまうので、ダイオードが故障しているという異常を検出できないことだ。さらに、装置Aのダイオードに電流が流れ過ぎて故障に至ったとしても、装置Aだけを調べていては真の原因はつかめない。

 また、装置Aと装置Bのグラウンド同士をつなぐと、両者のグラウンド側ダイオードが並列に接続される。すると、装置Aの整流回路の電流が、装置Bを通じて流れる経路ができてしまう。装置Bから見ても状況は同じだ。そのため、図2のような故障が起きていなくても、2つの装置のグラウンドラインに常時電流が流れる恐れがある。

 このような装置間をつなぐ場合、フォトカプラを利用するとよい。または、装置外とやりとりする回路の電源は絶縁型DC-DCコンバータからとって、絶縁を図るべきである。同じ装置をいくつか並列に利用するケースでは、上述したような問題が生じやすい。

 図1、図2は、2つの筐体が存在する場合をイメージして描いた。しかし、これと同じような配線は、同一筐体内、同一基板内でも行われる可能性がある。

理想的な配線


図3 遠回りする電流
図3 遠回りする電流 
図4 グラウンドパターンに溝を入れる
図4 グラウンドパターンに溝を入れる 
図5 面と面との点接触
図5 面と面との点接触 
図6 面と面との線接触
図6 面と面との線接触 

 図3のように、平面に電流が流れる際には、Aの電流以外にBのように遠回りする電流も流れる。このBのような電流がほかの回路に干渉する場合、グラウンドパターンに溝を入れるという対処法がある(図4)。遠回りの経路が存在できないようにするのだ。また、高電圧回路において、もれ電流が問題になる場合に、銅箔ではなく基板に穴を空けて溝を入れることもある。

 図3において、Aの経路を短くすることで、電流の回り込みの影響は小さくなる。また、大電流回路では配線を太く短くするように心掛ける。短くできない場合には、基板の銅箔を使わず、電線やバスバーという金属板を使って直接配線する方法もある。

 A-Dコンバータを1個だけ使う回路で、アナログ部とデジタル部の接触が1カ所しかないのであれば、図5のようなグラウンドパターンが理想的だ。しかし、実際にはD-Aコンバータやコンパレータなど、複数の個所でアナログ部とデジタル部が接触するであろう。その場合、点接触ではなく、図6のような線接触にするのが現実的だ。

 図5のように、アナログ部とデジタル部を混在させずに1カ所だけで接点を持たせるというのは、1点アース法と同じ考え方である。一方、図6のように、グラウンドが最短距離になるよう線で接触させるのはニアバイアース法だ。これら2つの方法のうち、どちらかを採用すればよいというものではなく、それぞれの真の狙いを理解した上で利用する必要がある。

真意を理解する

図7 長いグラウンド経路ができる
図7 長いグラウンド経路ができる 
図8 電源コネクタで2つのグラウンドがつながっている
図8 電源コネクタで2つのグラウンドがつながっている 
図9 レギュレータ部(a)、FG(b)でグラウンドがつながっている
図9 レギュレータ部(a)、FG(b)でグラウンドがつながっている 
図10 オシロスコープでグラウンドがつながる
図10 オシロスコープでグラウンドがつながる 
図11 電源コネクタを通じてグラウンドがループになる
図11 電源コネクタを通じてグラウンドがループになる 

 例えば、アナログ、デジタルの両グラウンドを分けるために、図7のように溝を入れたとしよう。すると、図のように、長いグラウンド経路ができてしまう。デジタルICのグラウンドとA-Dコンバータのデジタルグラウンドとは、最短距離で結ぶのが理想だが、真意を理解せず、形だけまねをするとこのようなことが起きる。また、部品配置だけアナログとデジタルとを分けていても、図8のように電源コネクタのところで2つのグラウンドがつながっているのでは無意味である。図6のように、デジタル用の電源コネクタはデジタル部に配置するのが理想的だ。

 同様に、2つのスイッチングレギュレータのところで、図9(a)のようにアナロググラウンドとデジタルグラウンドをつないではならない。これでは、基板上でアナログ部とデジタル部を分離した意味がない。一方、図9(b)であれば、デジタル、アナログの両グラウンドは分離されているように見える。しかし、通常、FG(フレームグラウンド)はケースに接続されており、FG同士がつながっている。そのため、デジタル、アナログの両グラウンドもFGを介してつながることになる。

 また、基板単体では理想的な配線が行えたとしても、装置全体としては理想的な状態から外れることが多い。例えば、アナログ部とデジタル部を理想的に配線した信号発生器を開発したとする。しかし、図10のような構成で、信号発生器からのアナログ信号とトリガー信号(同期信号)をオシロスコープに入力すれば、オシロスコープでアナログ、デジタルの両グラウンドがつながってしまう。あるいは、理想的に配線を行った同じ基板を、図11のように複数枚使うと、電源コネクタを通じてグラウンドがループになってしまう。これらは避けられないことであり、図10や図11の設計に問題があるわけではない。条件によっては、ノイズなどの問題が生じるケースもあり得るというだけだ。

 真意を理解せず、受け売りの知識で「アナログとデジタルを分離する」と言っている人を見かける。表面的にまねをするのではなく、理論を理解しておくことが肝要である。そうすれば、何らかの問題が生じた場合でも、正しく対処できるであろう。

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