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車載HUDで拡張現実投影を実現するレーザーダイオードドライバー次世代ヘッドアップディスプレイ(1/2 ページ)

次世代の車載ヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)として注目されるレーザー走査型HUD技術を、現行の液晶ディスプレイ方式やDLP方式のHDUと比較を交えながら紹介する。昨今登場してきているレーザーによるHUDを実現するレーザーダイオードドライバーICにも触れたい。

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 車載ヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)は、現在、多くの高級車で標準装備またはオプション装備となっている。HUDは成長中の先進運転支援システム(ADAS)の重要な要素となっており、運転者はダッシュボードの計器類に視線を向ける必要がなくなり、道路前方に注意を払い続けることが可能になる。運転者の注意力に関する調査研究では、道路から目をそらす時間が2秒を超えると衝突の危険性が2倍になることが明らかになっている。

 車載HUDは走行速度、警告信号、インジケーターの矢印を運転者の視界内にあるフロントガラスに直接表示する。最新型のHUDは、レーザーダイオードドライバーICを使用して高強度のRGB(赤、緑、青)レーザーをパルス照射することにより、高解像度(HD)ビデオ画像をフロントガラスに投影する(図1参照)。このような拡張現実(AR)機能を備えたHUDでは、透明な矢印をクルマの前方の路面に直接カラー表示することにより、右左折標識やナビゲーション方向を簡単に目で追えるようにする。また、事故につながる恐れのある歩行者や他の走行車などの障害物をハイライト表示して、運転者の注意を喚起することもできる。


図1:車載ヘッドアップ・ディスプレイ向けレーザー走査型MEMS投影システムの例 (クリックで拡大)

 本稿では、レーザー走査型MEMS投影システムが、液晶ディスプレイ(LCD)やDigital Light Processing(DLP)によるHUDに比べ、優れたソリューションを提供することを示す。また、次世代HUDに向けた高速レーザーダイオードドライバーICについても詳細な検討を行う。

レーザー走査型MEMS投影システムとLCDおよびDLPとの比較

 LCDパネルは今日の車載HUDシステムで最も普及している技術である。LCDパネルは、光の透過時に画像全体を照らす透過性表示技術とLEDバックライトを採用している。照らされた画像は拡大され、屈折ミラーで反射され、運転者の視界前方にあるフロントガラスに合焦される。

 LCD HUDの暗画素は、バックライトを遮断して、それらの画素に対するLCDの透過性を下げることで作られる。しかし、特に周囲の光が弱い場合には、光を完全に遮ることはできるとは限らない。その結果、フロントガラスにオーバーレイ表示される投影画像は透明なハガキサイズの四角形に見える(図2参照)。この場合、自動車メーカーによると、周囲より明るく写る四角形が運転者の注意をそらす結果となり、安全性が大きく後退する。


図2:LCD HUDの例 (クリックで拡大)

 DLPはLCDに類似しているが、より高い解像度を提供する。DLPは二次元(2D)アレイに配列された数千のマイクロミラーを備えている。2Dアレイの各ミラーが1つの画素として働き、ミラーごとに変調されることで入射光を反射し、所望の画素輝度を作り出す。輝度100%の画素の変調度はゼロとなる一方、暗画素は、ミラーが光を結像路の外側に反射するように設定される。均質な画像を得るため、光源からの入射光は集光されて2Dアレイに合焦され、各画素に等強度で入射する。反射された画像は、前述のLCD HUDと同様のプロセスで、拡大され、屈折ミラーに再合焦するよう投影され、それからフロントガラスに投影される。

 DLPは四角形のパネルであり、情報を投影するフラットな水平面を必要とする。フロントガラスは、垂直方向には比較的フラットであるが、水平方向ではフラットでない。それゆえ、DLPでフロントガラスに情報を表示するためには、フロントガラスの湾曲に沿わせるために球面光学系を使用する必要があり、そのためHUDシステムのサイズが増大する。

 DLPシステムに比べて、レーザー走査型MEMS投影システムは、走査ミラーで画像を合成するため、低コストの光学系の使用を可能にし、システムのオプトメカニカル・コストを低減する。レーザー走査型MEMS投影システムの主な構成要素は、レーザーダイオード、レーザーダイオードドライバーIC、いくつかの小型ビーム・シェーピング/アラインメント光学系、発振MEMSミラーとその電子制御回路である。RGBカラー・レーザーダイオードは、ミラーが表示フィールドの両端にわたって走査されるのに同期してパルス駆動される。すると画像が表示フィールド全体から画素ごとに読み出され、フロントガラスにオーバーレイ表示される。

 レーザー走査型MEMS投影システムでは、各画素を超高速パルス駆動することでフルHD解像度の画像を作り出す。そして、レーザービームが常に合焦状態であるため、再合焦のための光学系を必要とせずにフロントガラス内に画像を投影できる。これにより、光学システム全体の複雑さとサイズが大幅に低減されるとともに、コストの高い光学部品やアセンブリーが不要になる。

 レーザー走査型MEMS投影システムは、LCDやDLPなどのフレームベースの投影システムより優れた電気的効率を提供する。表示面全体に情報が表示されるフロントプロジェクタとは異なり、車載HUDのナビゲーションと計器の情報がHUDのフィールド表示領域全体を占めることがない。HUDはリアルタイム情報のみ、短時間だけフロントガラスに表示する。拡張現実情報は、表示画素の70%以上がオフの場合もある画像で構成される。図3-A図3-Bの赤い枠は一般的なHUD表示領域を示しており、投影システムはこの領域にナビゲーション情報を表示する必要がある。各例におけるON状態の画素数に対するOFF状態の画素数については、情報量によるが、その比率(ON画素:OFF画素)は1:3から1:6の範囲といえる。

左=図3-A:一般的HUD出力の例 / 右=図3-B:HUD情報の例 (クリックで拡大)

 例えばフレームベースのDLP表示技術では、ON画素の数にかかわらず、光源は画素アレイ全体を照明する必要がある。図3-Aでは、赤で囲んだ四角の領域の「暗画素」または「ONでない画素」に向けた光は、発生後に視界外に反射するか遮断することで消去される。これはエネルギーの無駄使いであり、HUDのシステム効率を下げる。さらに悪いことに、このエネルギー損失は、方向換えされた光を吸収することで発生する熱の増加と、最初に光を発生させるための電力コストの増加にもつながる。以上2つの要因が、フレームベースの熱冷却要件と所要電力量を増大する結果になる。

 レーザー走査型MEMS HUDは、該当する投影すべき画素がある時のみ電力を消費する。図3-A図3-Bに示す一般的なナビゲーション情報と計器情報の場合、画素を表示面に投影する必要がある時に電力の大半が消費される。このため、電力需要が著しく低減し、熱プロファイルの低下と熱放射の低減が可能になる。レーザー走査型MEMS HUDはドライバー回路を集積していることもあり、投影システムの大きさはフレームベースのHUDシステムに比べて小さくなる。

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