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降圧、昇圧、昇降圧コンバーターによる電力安定化DC-DCコンバーター活用講座(3) 電力安定化(3)

今回の記事では、降圧コンバーター、昇圧コンバーター、昇降圧(反転)コンバーターのそれぞれにおける電力安定化について解説します。

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同期式および非同期式変換

 前に示したトポロジーでは、全てのデザインでキャッチ整流器としてダイオードが使われています。代わりの方法として、ダイオードをFETと置き換えることができます。FETはPWM信号に対して逆位相になる信号によってオンし、ダイオードの機能を代行します。FETとダイオードを使用している回路は非同期式と呼ばれ、2個のFETを使用している回路は同期式と呼ばれます。降圧コンバーターの2つの回路方式を図1に示します。


図1:非同期式(a)と同期式(b)の降圧コンバーター 出典:RECOM(クリックで拡大)

 キャッチダイオードをFETと置き換えるといくつかの利点があります。FETのRDS,ONは非常に低く、ダイオードと異なりその両端に順方向の電圧降下がないので、同期式デザインは高入力電流と低出力電圧の両方で効率が高くなります。効率は最大負荷条件で非常に大きく向上する場合があります。一般的な中位の電力の15W同期式コンバーターでは、非同期式のデザインに比べて、キャッチダイオードの消費する電力が4分の1にも減少することがあるからです。

 もう1つの利点として、高電流FETはパワーダイオードより一般に小さいので、PCB上の占有面積を節約することができます。

 非同期式回路に対する同期式回路の短所は、追加のFETとその駆動回路だけでなく、両方のFETが同時にオンするのを阻止するデッドタイムタイミング回路のための部品コストが増加します。もう1つの短所として、非常に小さい負荷では(最大負荷の10%未満)、同期式デザインは非同期式デザインより実際には効率が低くなることがあります。

 1つの要因はローサイドFETスイッチング回路の追加損失で、この回路はローサイドFETのゲートの容量を充放電する電力を消費します。もう1つの理由は、非同期式デザインでは、逆方向インダクター電流はダイオードによって阻止されますが、同期式デザインでは、正負両方のインダクター電流が流れます。この負電流は、非同期回路では見られない追加の電力損失を発生させます。

 同期式動作に必要な全ての信号レベルとタイミングを発生するコントローラーICが市販されています。多くの製品がハイサイドとローサイドの両方のFETまたはローサイドFETをパッケージに収めています。追加のタイミング回路は通常、コントローラーICに内蔵されており、FETをオンする頻度を減らしてスイッチング損失を減らすパルススキッピングによって、または負荷によって動作周波数を減らして、低負荷状態での効率を上げます。

 これらのことから、多くのDC‐DCコンバーター設計では、非同期式より同期式トポロジーが一般的です。

2段の昇降圧(Ćukコンバーター)

 ĆuK(チュックと発音)昇降圧レギュレーターも、入力電圧をデューティサイクルによって、入力電圧よりも高いまたは低い安定化された反転出力電圧に変換します。図2の簡略図は基本回路図と関連した波形を示しています。これは簡単に言えば反転降圧コンバーターに容量結合した昇圧コンバーターです。


図2:Ćukコンバーターの簡略回路図と特性 出典:RECOM(クリックで拡大)

 前に示したトポロジーに比べて、このトポロジーは2個のインダクターを必要とすることは簡単に分かると思いますが、両方のインダクターの電流は同じなのでコアを共有することができます。

 スイッチS1が閉じると、電流IL1がL1を通ってVIN/L1のランプレートで流れます。同時に、C1の正端子は接地されているので、C1はL2を介して負電圧を放電してC2を再充電し、負荷RLに反転電流を供給します。

 電流はL2を通って(VC1 + V OUT)/L2のランプレートで流れます。S1が開くと、L1に保存されているエネルギーがインダクターの電圧を上昇させ、D1を介してC1を再充電するのに使われます。インダクターL1を流れる電流は(VC1 − VIN)/L1の減衰率で減少します。

 同時に、コンデンサーC2はL2とダイオードD1を通して放電するので、VOUT/L2の減衰率でL2の電流が減少します。コンデンサーC1は入力から出力への全エネルギーの流れを負うので、ここでのこのコンデンサーの役目は特別です。定常状態の電圧が必ず一定になるようにC1の値を選択します。

 電流の方向により、出力電圧はグランド電位に対して負になります。従って、このトポロジーは負電圧を発生する場合にだけ使用します。このトポロジーの伝達関数の考察では、両方のインダクターの影響を検討する必要があります。

 L1に関して適用される式は以下の通りです。

 L2に関して適用される式は以下の通りです。

 代入するとコンデンサーC1の電圧に関して2つの式が得られます。

 これらを解くと、1段の昇降圧コンバーターの場合と同じ結果が得られます。

実用的ヒント

 1段の昇降圧コンバーターに対するĆukコンバーターの長所は、L1とL2を流れる電流が同じで連続していることです。入力電流と出力電流は両方とも効果的にLCでフィルターされ、高周波干渉はほとんど生じないのでEMCが非常に簡単になります。また、両方のインダクターの電流が同じなのでコアを共有することができ、そのため構造が簡単になり、リップル電流をさらに減らすのに役立ちます。


 また、インダクターを介して充放電するコンデンサーが、抵抗性損失を伴う高電流スパイクを防ぐので、このデザインは非常に効率がよくなります。さらに、S1スイッチが接地されているので、駆動回路に簡単な低損失FETを使用することができます。

 Ćukコンバーターの最大の短所は、C1に大きく依存することです。入力から出力へ流れる全電流がこのコンデンサーを通る必要があり、コンデンサーの両端の電圧が半サイクル毎に反転するので、このコンデンサーは無極性でなければなりません。高リップル電流が内部で熱を発生し、動作温度を制限します。実際は、大きく高価なポリプロピレンコンデンサーを使用する必要があります。さらに、安定して動作するようにPWM制御ループを注意深く設計する必要があります。4個のリアクティブ部品(2個のインダクターと2個のコンデンサー)については、制御回路に不要な共振が生じないように細心の注意を払う必要があります。

2段の昇降圧SEPICコンバーター

 昇降圧コンバーターの短所の1つは反転出力電圧です。この問題はSingle Ended Primary Inductor Converter (SEPIC)と呼ばれる2段のデザインによって排除することができます。

 このデザインは基本的にはĆuk(2段:昇圧コンバーターの後に降圧コンバーターが続く)に似ていますが、SEPICトポロジーではインダクターL2とダイオードD1が入れ替わっているところが異なります。このため、出力の極性を入力の極性と同じにすることができます。


図3:SEPICトポロジーの簡略回路図 出典:RECOM(クリックで拡大)

 エネルギーの伝達はĆukコンバーターの場合と似ており、次のような伝達関数になります。


図4:SEPICコンバーターの特性 出典:RECOM(クリックで拡大)

 出力電圧の極性が入力電圧と同じなので、SEPIC回路は再充電可能な電池を使うバッテリー駆動アプリケーションに最適です。バッテリーチャージャを使ってバッテリーを再充電し、同時にアプリケーションに給電することができます。なぜなら両方とも同じグランドレールを共有するからです。Ćukコンバーターと同様、SEPICは入力電流波形が連続しているのでEMCフィルタリングが簡単です。

実用的ヒント

 SEPICはよくLED照明のアプリケーションに使用されます。コンデンサーC1は本来出力短絡保護機能があり、帰還ループを容易に定電圧レギュレーションではなく定電流レギュレーションに変更することができ、さらにV-レールが共通なのでEMCフィルタリングが簡単になるからです(LED照明のアプリケーションでは、厳格な入力高調波干渉リミットを満たす必要がある)。

 SEPICコンバーターの短所は、従来の1段の昇降圧コンバーターと同様、出力電流波形がパルス状であり、Ćukコンバーターと同様、共振を起こしやすい複素4ポール帰還関数であることです。


2段の昇降圧ZETAコンバーター

 SEPICトポロジーのもう1つのバリエーションとして、ZETAコンバーター、つまり反転SEPICコンバーターがあります。昇圧段の後ろに降圧レギュレーターが続く代わりに、ZETAコンータでは降圧コンバーターの後に昇圧段が続きます。構成し直したトポロジーは、出力と入力の極性が両方とも正であるという意味で、SEPICデザインの長所を維持しています。


図5:ZETAコンバーターの簡略回路図と特性 出典:RECOM(クリックで拡大)

 エネルギー伝達はSEPICトポロジーに似ているので、同じ伝達関数になります。

 SEPICコンバーターと比較したZETAトポロジーの長所は、帰還ループがより安定しているので、広い入力電圧範囲および高い負荷過渡に対して、共振を生じることなく対処できることです。また、出力リップルが同等のSEPICデザインよりかなり小さくなります。短所としては、ZETAトポロジーは入力リップル電流が大きいので、同じエネルギー伝送により大きなC1コンデンサーが必要であり(中間電圧が低い)、S1スイッチは接地されていないので、PチャンネルFETを駆動するのにレベルシフト回路が必要です。


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執筆者プロフィール

Steve Roberts

英国生まれ。ロンドンのブルネル大学(現在はウエスト・ロンドン大学)で物理・電子工学の学士(理学)号を取得後、University College Hospitalに勤務。その後、科学博物館で12年間インタラクティブ部門担当主任として勤務する間に、University College Londonで修士(理学)号を取得。オーストリアに渡って、RECOMのテクニカル・サポート・チームに加わり、カスタム・コンバータの開発とお客様対応を担当。その後、オーストリア、グムンデンの新本社で、RECOM Groupのテクニカル・ディレクタに就任。



※本連載は、RECOMが発行した「DC/DC知識の本 ユーザーのための実用的ヒント」(2014年)を転載しています。

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