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» 2006年02月01日 00時00分 公開

データが正弦波に乗る:米国で始まった電力線ブロードバンド・サービス (1/4)

[Maury Wright,EDN]

 BPL(broadband over power line)技術の支持者たちは、家庭には昔から最適なワイヤーが引き込まれているではないかと主張する。しかしBPLは依然として技術的な問題を抱えており、さらには今後予想される激しい規格競争をくぐりぬけ、アマチュア無線(ハム)愛好家からの反対にも対処していかねばならない。

 DSL対ケーブルの争いを見てきた多くの人にとって、ブロードバンド競争はもはや過去のことに思える。しかし、WiMaxなどの新しい方式が出現しているように、新しいブロードバンド技術が登場する余地はまだある。BPLの支持者は「電力網」がベストオプションだと主張する。BPL技術ならば、家庭や会社のどの壁にもある電気コンセントを利用して、どこからでもブロードバンドに接続できるメリットがあるというのだ。さらには、電力網を利用したスマートグリッドによって、電力メーターの自動読み取りやロードバランシング、エアコンなど消費電力の大きい家電製品の遠隔制御といったことが可能となり、インターネットサービスとして利用できるようになるという。そのほか、動画配信やVoIP(voice over IP)でさえ可能だと支持者たちは語る。しかし、BLPが導入されている例はまだ少ない。BPLを普及させていくにあたって解決しなければばならない問題を、ここでじっくり見ていくことにしよう。

 誰の話を聞くかによって、BPLは万能薬にも伝染病にもなる。2005年10月初め、米Communications Technologies社(ComTek)はバージニア州マナサス市と合同でプレスカンファレンスを開き、市全域でBPLネットワークサービスを提供すると発表した。その宣伝は誇大とも取れるものだった。ComTek創設者でCEOのJeseph Fergus氏は、カンファレンスのオープニングで次のように語った。「今日は、この国の歴史に残るこの素晴らしいイベントに皆さんをお迎えし、アメリカの技術史を変える画期的な偉業といえる世界初の市全域商用BPLネットワークサービスを発表することができ、大変喜ばしい。大げさではなく、マナサス市には米国内の他の市とはまったく違う方法でインターネットに接続できるという栄誉が与えられた」。

 一方で、このニュースに否定的な人々もいた。マナサス市民でエンジニア、そしてハム愛好家であるGeorge Tarnovsky氏は、「このBPLシステムは完全に失敗だ」という。Tarnovsky氏は、BPLシステムから放射される電磁波がハムに干渉するだけでなく、ハムや他のソースもBPLシステムに干渉するという。「このシステムには電磁波保護対策がまったくない」(Tarnovsky氏)。

 電力線を利用したデータ伝送は新しいコンセプトではない。HPA(HomePlug Powerline Alliance)は何年にも渡って電力線を利用した家庭内ネットワークを推進してきており、複数のベンダーから提供されているHomePlug 1.0という製品を使用すれば最大14Mビット/秒のデータレートを実現できるとうたっている(実際のデータレートは5M〜6Mビット/秒程度ではあるが)。発売されたばかりのHomePlug 1.0 Turboでは、最大85Mビット/秒にまでデータレートを上げている。その一方で、同グループは家庭向けの動画配信に着目し、データレート200Mビット/秒を実現する新しい仕様「HomePlug AV」にも取り組んでいる。この仕様はすでに完成しており、HomePlug AVをサポートするサンプルチップが2005年度末には登場する。

 しかしBPLでは、ブロードバンドのアクセスに電力網を使用する。家庭に電力を供給する電力線でブロードバンドデータも伝送するのだ。データは光ファイバやその他の高速ネットワークメディアで家庭の近くまで運ばれ、そこから電力網に乗り換えて家庭に到達するため、溝を掘ったり新しいワイヤーを敷設したりする必要がない(別掲記事「インフラに依存するBPLネットワーク」を参照)。おそらく、BPLのユーザーとなるのはDSLもケーブルも利用していない消費者だろう。そしてBPLが既存の通信事業者と競争するようになるかもしれない(別掲記事「BPLの経済性を考える」を参照)。

 データを電力線につなげる方法としては2つの選択肢がある。BPLにLV(Low Voltage:低電圧)電力線のみを使用しているサービスプロバイダもある。通常、LV電力線を使用する場合は、6〜8戸の住宅に割り当てられているトランスでデータが電力網に送られる。このトランスとBPLブリッジまたはルーターは電柱に取り付けられるか、電力線が地中に埋設されている場合は地上のキャビネット内に収納される。LV BPLは一般に110Vまたは220Vのシステムで利用できる。一方で、電力網のMV(Medium Voltage:中電圧)部分からデータ伝送するサービスプロバイダもある。この方法では、必要となる光ファイバや、その他高速メディアの長さが短くてすむ。MVアーキテクチャは電力会社や地域によって大きく異なるが、これらの電力線上の電圧は5k〜30kVである。通常、ブロードバンドストリームは各トランスでMVからLVに連結しなくてはならない。

 BPLと家庭内電力線ネットワークは両方とも、DSLと802.11ワイヤレスLANに使用されているのと同じOFDM(直交波周波数分割多重)技術を使用している。例えば、HomePlug 1.0では、4.5M〜21MHzの帯域内で均等に分割された84のOFDMサブキャリアが使われている。

 残念なことに、競合しているBPL方式に共通しているのはこのOFDMだけだ。現在、IC企業を中心に組織された3つの主なBPL陣営がある。長年にわたって電力線ネットワークを推進してきた米Intellon社は、HPA設立当初から業界をリードしている。Intellon社に続き、米Conexant社もHPAチップ製品を提供しており、米Arkados社もつい最近市場に参入した。Home Plug 1.0は家庭内ネットワーク向けに設計されたものだが、メーカーはHome Plug 1.0のチップをLV BPLシステムに採用しようとしている。

 スペインに拠点を置くDS2(Design of Systems on Silicon)社もHPAに参加していたが、技術ロードマップに関する意見の不一致が原因で脱退した。しかしDS2社には有力な製品がある。同社では、データレート200Mビット/秒の家庭内ネットワークとBPLネットワークの両方に対応したチップを製造している。第三のプレーヤとしてはイスラエルのMain.net Communications社がある。しかし、Main.net社製のチップを採用しているBPLサービスはあるものの、同社は財政難に陥っているようだ。同社の関係者がEDN誌のインタビュー要請に応じることはなかった。

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