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ICの電源イミュニティ試験で熱いノイズを作るSignal Integrity

» 2006年02月01日 00時00分 公開
[Howard Johnson,EDN]

 私は毎週金曜日にジャズトリオでベースを弾いている。アコースティックベースの音は小さなクラブによく響きわたるため、いつもノイズの大きさに気を使わなくてはならない。このことが今回のコラムのテーマに結び付いた。

 最近、あるICの電源イミュニティ試験を行った。この試験は、試験装置によってDUT(device under test:被試験装置)の電源端子に直接ノイズを送り込み、DUTが誤動作せずにどこまで耐えられるかを見るものだ。

 DUTの電源端子に大きなノイズを印加するため、通常はインピーダンスを直列に接続する。ノイズ源として注入する電流の電圧降下を起こし、電位の変動を発生させるためだ。しかし今回は、DUTの電源供給系を変えてはいけないという試験を難しくする特別な要件があり、インピーダンスを直列に接続することはできなかった。さらに悪いことに、DUTを実装したプリント基板における電源系とグラウンド間のインピーダンスがやたらと低かった。設計を分析した結果、1GHzまでのすべての周波数で約0.02Ωであった。

 これらの条件の下、DUTに電力を供給する電源プレーンに±200mVのノイズを発生させるには、DUTの電源供給系に少なくとも電流±10Aを注入する必要がある。それだけの電流を出力インピーダンス50Ωのラボ用信号発生器で発生するには、(10A)×(50Ω)= ±500Vの開回路電圧を出力できなくてはならない。しかもその信号源は (50Ω)×((10A)/√2)2=2500Wrmsも消費してしまう。私が知る限り、出力の条件を満たすバスアンプはあるが、消費電力の条件を満たす信号発生器や信号源はないようだ。

 ソースインピーダンス(50Ω)と負荷インピーダンス(0.02Ω)のミスマッチを解消するためにトランスを使用するのはどうだろうか? インピーダンス比が2500:1であるから、巻数比が50:1のトランスを使用すれば、理論上は必要な電流を(±10V)÷(50Ω)=200mAのレベルにまで下げることができる。したがって必要な電源電圧は(200mA)×(50Ω)=±10Vとなり、これならば実現可能だ。ただ残念なことに、これほど低い負荷インピーダンスに適した1GHz用トランスを見つけることができず、作成する方法も分からなかった。そうして金曜の午後が過ぎていき、私はまだノイズを印加する適切な方法を見出せずにいた。

 週末、Bass Playerという雑誌をぱらぱらとめくっていると、バススピーカーのキャビネットでできた壁の前に立っている若い女性の写真が目に飛び込んできた。彼女は32台の10インチスピーカーを並列に並べ、堅固なサウンドの壁を作り出していた。その写真でひらめいた。いくつもの信号源を並列に並べることによって大量のノイズを発生できる。

 今、私の試験基板の片側には、DUTとその電源供給系が載っている。他方には、これとは違う電源システムを使用するが、グラウンドプレーンを共有した400出力ものFPGAを搭載している。各FPGA出力は3.3V印加の50Ω信号源としてプログラムされ、DCカットのコンデンサを介してDUTが使用するVccプレーンにノイズを直接注入する。この回路によって試験に必要な±200mVのノイズをDUT電源プレーンに供給すれば、それぞれのFPGA出力の内部損失は1/400にできる。動作するFPGAの出力数を調整すれば、ノイズレベルも制御できる。

 もし似たような回路をつくるなら、あまり長時間動作させてはいけない。その回路が、素晴らしいジャズのようにものすごく熱くなるから。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタル・エンジニアを対象にしたテクニカル・ワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次の電子メールアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com


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