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» 2006年03月01日 00時00分 公開

汎用電源にデジタル化の波(1/4 ページ)

汎用の電源モジュールの制御方法に、デジタル方式が使われる可能性が出てきた。この方式は、出力電圧の安定化をデジタルで制御するもの。米国を中心に普及の兆しが見えつつある。日本ではどうか。利点は何か。デジタル電源の動向を検証する。

[川村 祥子,EDN Japan]

 スイッチング電源の制御をデジタル化する動きが出てきた(図1〜4)。アナログ方式で使われているエラーアンプをA-DコンバータとDSPに置き換えて、PWM(pulse width modulation)をデジタル制御する動きだ。

 デジタル化により、ユーザーが電源を使う場合の自由度がぐんと増す。起動のタイミングや出力をリアルタイムに高い精度で設定できる上、動作状態を細かくモニタリングできる。

 ソフトウエアで特性の変更が可能なことも大きな特徴だ。モジュール設計の終盤になって顧客から仕様変更を求められた際にも、使っている部品を変更することなく柔軟に対応できる。

 デジタル電源のメリットは、上に述べた機能に限らない。PI(proportional integral)制御や位相進み/遅れ補償といった古典制御理論ではなく、ロバスト制御などの高度な現代制御理論を使える。

 ロバスト制御は、外乱が出力に与える影響を小さくする制御方法である*1)。外乱とは、抵抗や容量といった負荷条件の変化や、入力条件の変化などを指す。ロバスト制御を採用すれば出力フィルタを非常に小型化し、負荷変動時の出力電圧のピーク値を小さく制御できる上、常に一定で高速な起動時間を実現できる。

 プロセス技術の進化がデジタル制御化を後押しすることも考えられる。POL(point of load)コンバータの負荷にあたるFPGA(field programmable gate array)やマイクロプロセッサの微細化が進めば動作電圧が下がり、要求される電圧の許容公差が小さくなる上、数10A〜100Aという大電流化が予想される。出力電圧の高精度化、過渡負荷に対する出力電圧の変動を抑える必要がある。

 高度な制御をアナログ方式、つまりハードワイヤードで実現するのは、回路が複雑になりすぎるためほぼ不可能に近いという。

 主なアナログ方式の制御理論で使われている一次の積分制御では負荷条件を加味しない。このため、セットメーカーが入出力に想定外のフィルタを入れると出力が振動してしまうことがあった。また、アナログ制御の回路では起動時間を短縮するのが難しい。入出力条件による動作のバラツキ、温度条件の変化などを想定してマージンを考慮し、シーケンスを調整しようとすると、1つのモジュールあたりの起動時間は数10msになってしまうという。シーケンスの制御が必要な出力電圧の数だけ、システムの起動時間は数10ms単位で遅れることになる。ロバスト制御を適用すれば、数10μsに抑えられる。

図1 Power-One社のデジタル電源マネジメント・アーキテクチャ「Z-OneDigitalIBA」のDC-DCコンバータ「Z-7000」(左)と「Z-1000」(右)。Z-1000は“No-Bus”コンバータ。共に入力電圧は3V〜13.2Vで出力電圧は0.5V〜5.5V、出力電流は20A。 図1 Power-One社のデジタル電源マネジメント・アーキテクチャ「Z-One Digital IBA」のDC-DCコンバータ「Z-7000」(左)と「Z-1000」(右)。Z-1000は“No-Bus”コンバータ。共に入力電圧は3V〜13.2Vで出力電圧は0.5V〜5.5V、出力電流は20A。 
図2 ArtesynTechnologies社のDC-DCコンバータ「VRM10-85-12-U」(左)と「VRM10-105-12-E」(右)。Intel社のVRMの仕様に対応する。共に入力電圧は11V〜12.6V。出力電圧は0.8375V〜1.6V。出力電流はVRM10-85-12-Uが85Aで「VRM10.0/10.1」用。VRM10-105-12-Eが105Aで「VRM10.1/10.2」用。 図2 Artesyn Technologies社のDC-DCコンバータ「VRM10-85-12-U」(左)と「VRM10-105-12-E」(右)。Intel社のVRMの仕様に対応する。共に入力電圧は11V〜12.6V。出力電圧は0.8375V〜1.6V。出力電流はVRM10-85-12-Uが85Aで「VRM10.0/10.1」用。VRM10-105-12-Eが105Aで「VRM10.1/10.2」用。 

まずは米国から

 上記に述べたデジタル電源のメリットを生かした汎用の電源は、既に米国で販売され始めている。

 米Power-One社は2004年2月に「Z-One Digital IBA」というデジタル制御の電源システムを世に送り出した。また、米Artesyn Technologies社は2000年8月に米Intel社のノート型パソコン用プロセッサ「モバイルPentium III」に使うVRM(voltage regulator module)にデジタル制御方式のDC-DCコンバータを発売し、2004年8月にはIntel社のプロセッサ「Xeon」向けの「VRM10.0/10.1」仕様に対応するDC-DCコンバータ(図2)を発売している。

そして国内でも

図3 デンセイ・ラムダが「TECHNO-FRONTIER 2005」で展示したクオーターブリック形状の絶縁型DC-DCコンバータ試作機。 図3 デンセイ・ラムダが「TECHNO-FRONTIER 2005」で展示したクオーターブリック形状の絶縁型DC-DCコンバータ試作機。 
図4 TDKが「スイッチング電源システム展2002」で公表した、フルデジタルICを搭載したPOLコンバータ。ICはオリジナルのカスタム品。 図4 TDKが「スイッチング電源システム展2002」で公表した、フルデジタルICを搭載したPOLコンバータ。ICはオリジナルのカスタム品。 

 国内でも、デンセイ・ラムダが、2005年4月に開催された「TECHNO-FRONTIER 2005」で電気通信大学樋口研究室と共同開発したフル-デジタル制御の絶縁型DC-DCコンバータ(クオーターブリック形状:36.8mm×11.0mm×57.9mm)を出展している(図3)。

 2005年7月に同社の親会社となったTDKも、「スイッチング電源システム展2002」で、デジタル制御のPOLコンバータを開発中であることを公表した(図4)。その後具体的な発表はしていないが、現在も開発中で、ビジネスチャンスを伺っている状況である。この成果の一つとして、2005年10月の「CEATEC Japan」でデジタル制御のFPDバックライト用インバータのデモを行った。

 まだ公式発表はしていないものの、村田製作所もデジタル制御の電源を開発している模様である。「デジタル化への技術の流れは必然性がある」と同社電源モジュール商品部部長の森島靖之氏は語る。応答性が高い制御技術をアナログ回路で実現し、デジタル制御への移行に備えているという。

 ベルニクスも「電圧精度や費用対効果などにおいて、アナログは限界まで到達しているのではないか」としてデジタル化の流れを示唆する。高い精度を要求されれば、アナログ方式では対応できなくなる日が来るかもしれない。「具体的な要求があれば対応できる状態である」(同社マーケティング室室長、鈴木健一郎氏)と準備はほぼ整っている模様だ。

脚注

※1…竹上 栄治、樋口 幸治、中野 和司、富岡 聡、渡辺 和史、「二次モデル実現近似的2自由度ディジタル積分形制御器によるDC-DCコンバータのロバスト制御」、電子情報通信学会論文誌Vol.J88-C No.9, 2005年, pp.724-736


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