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RoHSに準拠『グリーン』宣言は容易でない(2/2 ページ)

» 2006年05月01日 00時00分 公開
[Richard A Quinnell,EDN]
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温度の問題

 鉛フリー部品の電気的性能は鉛部品の性能と変わりないが、設計者がRoHS準拠の代替品を探すときに注意しなくてはならない問題があるとOlund氏はいう。設計者は製造プロセスの変更も考慮する必要がある。最大の問題は、鉛フリーはんだの溶融温度が高いということだ。

 鉛フリーはんだの典型的な温度プロファイル(図2)は、鉛はんだより20〜40℃も高い。製造中のこの熱が、高密度で集積された部品を破損する可能性がある。また、場合によってはパッケージのMLS(moisture level sensitivity:水分感度)が高温になるほど高くなるため、はんだ付け段階での破損原因となりかねない水分の吸収を防ぐためには、倉庫内の部品やあるいは製造中の部品の取り扱いに関して特別な対策を講じる必要がある。通常、製造条件を指定する責任は設計者にあるため、部品を評価するときはこうした細々としたことも調査する必要がある。

図2 鉛フリー材料ではんだ付けされるパッケージの表面温度は、有鉛はんだを使用するパッケージより最大40℃も高くなることがある。この温度差が基板レイアウトと材料の取り扱いに影響を及ぼす。(提供:ToshibaAmericaElectronicComponents社) 図2 鉛フリー材料ではんだ付けされるパッケージの表面温度は、有鉛はんだを使用するパッケージより最大40℃も高くなることがある。この温度差が基板レイアウトと材料の取り扱いに影響を及ぼす。(提供:Toshiba America Electronic Components社) 

 さらに微細な設計変更もある。鉛フリーはんだは鉛はんだよりも硬いため、設計者はRoHS準拠設計を作成するときに振動耐性と衝撃耐性を再評価しなくてはならない。プリント基板メーカーが表面実装部品のセルフアライメント形成に利用するはんだの吸い上げ効果も、鉛フリー代替品では低くなる。そのため、機械的干渉と短絡を防ぐには、部品を配置するときの許容誤差を大きく見積もっておく必要がある。プリント基板の材料を見直す必要すらある。鉛フリー代替品のはんだ付け温度が高いために、有鉛はんだ付け用に設計された基板に剥離が生じる可能性があるからだ。

 最初のうちは、RoHS準拠のための設計変更は短期間で済むという印象を抱くかもしれない。設計ルールと認定部品の変更に取りかかってみると、新しいガイドラインにもすぐに慣れて、永久に苦労が続くことはないように思えるだろう。しかし問題は、環境保護に関する規制の範囲が広がりつつあることだ。

 RoHS指令は始まりにすぎない。中国や日本をはじめとする国々では、RoHSを見本とした独自の環境法案の策定が進められている。これらの法案は規制内容も異なり、RoHS指令よりも厳しいものもある。また、RoHSの免除措置も規格団体によって最終的に廃止される可能性がある。現在の免除措置のいくつかには期限が設定されている。そのため部品の準拠問題は絶えず発生し、設計者はそれに追いつくために設計ルールと認定ベンダーを常に再評価しなくてはならない。

 製造受託会社の米Celestica社でグローバルデザインサービス部門ディレクターを務めるBlair Davies氏は、今後設計エンジニアは認定部品リストを常に更新する作業に追われるだろうという。「設計者は以前よりも多くのことを知っておかねばならない。部品の選定にも注意を払う必要がある。設計だけして、あとは製造サイドに任せるということはもうできない。規制も、入手可能な部品も変わっていく中でそのようなことをしていれば、使いものにならない製品を設計するリスクを背負うことになる」(Davies氏)。

図3 製品ライフサイクル管理ツールを使用して関連文書を格納し、サプライヤのデータベースをエンジニアリングツールにリンクさせることで、設計者は部品の準拠問題に対応することができる。(提供:OminifySoftware社) 図3 製品ライフサイクル管理ツールを使用して関連文書を格納し、サプライヤのデータベースをエンジニアリングツールにリンクさせることで、設計者は部品の準拠問題に対応することができる。(提供:Ominify Software社) 

 この変化に対応する1つの方法は、規制が変更されるたびに部品の準拠性を追跡するPLM(product life cycle management:製品ライフサイクル管理)(図3)ツールを使用することだ。米Omnify Software社のPLMツールは、必要に応じて部品を再検証するためのドキュメントとデータを格納するリポジトリ(格納庫)を提供する。OmnifyのChuck Cimalore最高技術責任者は次のように語る。「設計者は次々と出てくる新しい規制をすべて把握しておかなくてはならない。そして、部品リストを最新の状態に保つための製品データとそれを処理するツールが必要だ」

 残念ながら、情報設計者はルールの変更が分かる前に準拠を決定しなくてはならない場合がある。Cimalore氏によれば、Omnifyのツールは準拠レポートや他のドキュメントを格納できるほか、規制が変更されたときに部品データと設計ガイドラインを自動的に比較することもできるが、ベンダーから提供される情報の種類とフォーマットにはばらつきがある。材料仕様ではなく準拠認定書だけを送ってくるベンダーもあれば、部分的な情報しか提供しないベンダーもあるという。「設計チームは必要な情報をベンダーに提供させる必要がある」とCimalore氏は語る。

 時が経てば、エレクトロニクス業界内にも環境問題に対応するための慣例と標準が確立されるだろう。しかし、ほとんどの設計チームは、そこに行き着くまでにあと数年はかかると見ている。それまで設計者は、部品の検証とプロセス変更の影響評価に注力することで適応していくしかない。なぜなら、好むと好まざるとに関わらず、グリーン設計がエレクトロニクス業界に残された唯一の道だからだ。

グリーン電池

図A バッテリパック内の電池にRoHS指令は適用されないが、パック内の充電回路やその他の構成要素には適用される。(提供:MicroPower社) 図A バッテリパック内の電池にRoHS指令は適用されないが、パック内の充電回路やその他の構成要素には適用される。(提供:MicroPower社) 

 電池と蓄電池にはRoHS(特定有害物質の使用制限)指令は適用されない(図A)。これらのデバイスにはEU電池指令91/157/EECが適用される。この指令は、鉛、水銀、カドミウムのいずれかを含んだ電池の回収・再利用を規定したもので、機器に内蔵されている電池は再利用のために取り外しが可能でなくてはならないとしている。

 しかし、電池パックはRoHSによる規制の完全な除外項目ではない。ブラジルMicroPower社のエンジニアリングマネジャー、Todd Sweetland氏によれば、電池パック内のプリント基板と充電回路はRoHSガイドラインに準拠している必要がある。電池指令が適用されるのは電池そのものだけだ。

 電池指令も変更されつつある。EU技術委員会はこの指令を更新して、規制をさらに厳しくしようとしている。新たな指令では、医療・軍事・航空機器を除き、ほとんどの製品で水銀とカドミウムを含む電池の使用が禁止されると見られている。緊急・警報システムのほか、動力工具は4年間の期限付きでカドミウムの使用が許されている。

 まだ討議中の議案には、ユーザーが機器から電池を簡単に取り外せることや、リサイクルを促すための啓発キャンペーンにメーカーが出資することを要件とする案がある。リサイクルに関するガイドラインもまだ決定されていない。電池重量の25〜45%をリサイクルすることを目標とした提案もある。

 EU技術委員会は、新しい指令の最終結論を2006年6月までに提出し、加盟国で2年以内に実施されることを予定している。


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RoHS指令 | はんだ | PLM | 有害物質 | 環境保護


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