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» 2006年06月01日 00時00分 公開

ISM帯のワイヤレスセンサー・ネットワーク構築法周波数帯、プロトコル、対応ハードウエアの選択が決め手に

[Margery Conner,EDN]

 低電力、短距離、低データレートのワイヤレスネットワークには免許の要らない周波数帯域を使う。これらのワイヤレスネットワークは、1つのバッテリだけで動作する、周囲のエネルギーを利用するなど、厳しいエネルギー条件で動作しなくてはならない。加えて、Bluetoothヘッドセットや電子レンジなどの干渉を受ける。またワイヤレスネットワークではネットワークプロトコルを使う。このプロトコルによりネットワークの効率や、頑強性、セキュリティが決まる。こうしたことから、ネットワークの設計者はまず、900MHz帯か2.4GHz帯のいずれの帯域が目的とする応用に適しているのかを決めなければならない。さらに、ハードウエアのトランシーバを専用チップかSoC(system on chip)のいずれで作るのか、どのネットワークプロトコルを使うのかということも決めなくてはならない。

 900MHzと2.4GHzのいずれの周波数帯にも利点はある。共にISM(産業、科学、医療用)帯域内にある。ISM帯とは、902MHz〜928MHz帯、2.4GHz〜2.483GHz帯、5.725GHz〜5.875GHz帯を指す。いずれも免許の要らない周波数帯だ。ワイヤレスセンサー・ネットワーク向けのトランシーバとSoC製品はほとんど、900MHz〜928MHz帯と2.4GHz〜2.483GHz帯を使っている。900MHz帯が波長は長いためバッテリ寿命も長くできることから、長距離通信に向いているといわれる。しかし周波数が低いために2.4GHzシステムよりも大きなアンテナを必要とする。また、システムを世界市場に売り込もうとすれば、900MHz帯に関する標準化が進んでいないという問題にすぐ直面しよう。例えば欧州では、携帯電話通信用のGSM(Global System for Mobile communications)ネットワークの一部に900〜928MHz帯が使用されているため、この目的には利用できない。

 米国のAerocomm社やDust Networks社、Crossbow Technologies社などのワイヤレスセンサー・ネットワークシステムの先駆者は、こうした制約に対してそれぞれ違うアプローチで取り組んでいる。例えば、Aerocomm社はワイヤレスネットワークシステムを世界市場に向けて販売しているが、地域ごとに無線周波数を変えている。同社インターナショナルマーケティングマネジャーのRandy Macke氏は、「通常、短距離の高データレートの用途には2.4GHzを使う。900MHz製品ファミリの方が距離性能は高いが、データレートが低い。これらが基本的なトレードオフだ」と説明する。

 Randy氏によれば、Aerocomm社は自社の無線機器を、独自のプロトコルとあらゆる無線に対応するインターフェースを使い、世界中で使える製品を提供しようとしている。顧客はAerocomm社の900MHz製品をベースにして自社製品を組み込むことができる。900MHz帯の利用を許可していない国々に対してもピンを交換するだけで製品を販売できる。

 米Analog Devices社マーケティングマネジャーのDavid Boylan氏もこの方法を勧めている。Boylan氏は900MHzと2.4GHzの技術的な利害得失を考えるといずれかをベンダーは採用すると見ており、さらに独自のネットワークか標準ネットワークかのいずれを採用するかを決めるだろうという。同氏によれば、ベンダーや顧客は標準セキュリティを好むことからも2.4GHz帯域を選択することが多いという。しかしすべてのベンダーがそうだというわけではない。付加価値とセキュリティの観点から独自ネットワークを構築することを選ぶ企業もある。「独自ネットワークがあれば、標準ネットワークにはないセキュリティ機能を提供できる」と同氏はいう。それらのベンダーは900MHzなど1GHz未満の周波数を使うことが多い(表1)。

表1 低データレートネットワーク向けのトランシーバICとSoC 表1 低データレートネットワーク向けのトランシーバICとSoC *全て米国内での価格。日本では日本語化などのサービスが加わるため、必ずしもこの価格にはならない。※クリックすると拡大します。
図1 Microchip社の低価格エントリ向けキット 図1 Microchip社の低価格エントリ向けキット 低消費電力で低データレートのワイヤレスネットワークを開発するのに向ける。Zigbeeプロトコルスタックを搭載しているが、ソフトウエアはZigbee中心ではない。このキットには2つのPICdemZボードを含み、それぞれRFドーターボードやZigbeeスタックも搭載できる。

 Boylan氏は900MHz帯の応用例として自動検針器をあげる。「複数のユニットに問い合わせする携帯型検針器をもった電力会社の従業員が一つのセンサーノードとなる。900MHz帯がよく使われる理由は、距離とバッテリ電源が重要な要件だからだ」と同氏はいう。小さなセンサーノードで形成されるネットワークでは、おそらく約8cmの900MHz用アンテナでは大きすぎるだろう。この場合、ターゲット市場が900MHzに適した北米であっても、小さいアンテナで済む2.4GHzを検討する必要があるかもしれない(別掲記事「アンテナは小さくしたい」)。送信時も消費電力に影響を及ぼす。ワイヤレスセンサー・ネットワークは時間の99.99%をスリープ状態で費やすことにより電力を保存し、自らのネットワークに接続して短時間で情報を転送するためにだけ起動する。このようにして、目標の消費電流は平均1μA未満に抑えている*1)。したがって、データ転送速度が速いほど、送信時間は短くてすむ。この点では2.4GHz帯を使う方が有利だ。

 Dust Networks社は、ワイヤレスセンサー・ネットワークを必要としている企業向けにハードウエアとソフトウエアの両方を開発している。同社では2.4GHz帯域と独自ネットワークの900 MHz帯域用に802.15.4準拠製品を製造している。ビルオートメーション用に900MHzネットワークデバイスを使うユーザーは多い。この用途では、到達距離がより長く、ビルの中を通過しやすいために消費電力を低減できる900MHz帯の方が技術面では有利だと、Dust Networks社マーケティング・事業開発部門バイスプレジデントのRob Conant氏は語る*2)。しかしマーケティング面では2.4GHz帯域に軍配が上がると同氏は考えている。「世界中に製品を送り出したい企業にとっては2.4GHzのISM帯が唯一の道だ。2.4GHz製品は900MHzと同じ距離を通信するなら消費電力の点で劣るが、2.4GHz帯は標準的な周波数であり、数年のうちには2.4GHz帯が普及することを顧客は知っている」(Conant氏)。

図2 Freescale社のMC1320XZigbeeIC 図2 Freescale社のMC1320XZigbeeIC 64リードのQFNパッケージにSIP技術で収容している。この中にHCS08マイクロコントローラと2.4GHz帯のトランシーバを内蔵する。さらに10ビットのA-Dコンバータと組み込みフラッシュメモリーも搭載している。

 ノルウェーChipcon社*3)戦略製品マーケティングマネジャーのKarl Torvmark氏も同意見だ。Chipcon社の2.4GHz Zigbee規格対応デバイスは何の問題もなく100mの通信距離を実現できると同氏はいう。100mを超すには出力パワーを1mW以上に上げなければならないが、そうすると消費電力が飛躍的に増える。同じ出力パワーで1GHz未満の帯域を使えば到達距離は数100mに及ぶが、そうすると今度はアンテナの問題が生じる。「数100MHzの帯域ならば外付けのホイップアンテナがいいだろう。ただし使っている製品との互換性があればだが。1GHz未満で動作するプリント基板アンテナを使うこともできるが、これらは大きすぎて実用的ではない」とTorvmark氏は語る。

 ADI社のBoylan氏が語ったように、Torvmark氏も、900MHzを使用するカスタムプロトコルに顧客が傾きつつあるとみている。Chipcon社の顧客は自らのネットワークをカスタマイズしたいと考えている。自分らの利点を使えると同時に消費電力も最適化できるからだ。例えば、Chipcon社の900MHz帯域向け製品であるCC1100と、その上位モデルのCC1020には、2.4GHz Zigbee対応製品にあるネットワークスタックがない。

 Dust Networks社のConant氏は802.15.4規格を断固として支持しているが、Zigbeeプロトコルに対しては慎重な姿勢を見せている。超低電力ワイヤレスセンサーネットワークではZigbeeには厳しい制約があるという。その一例として同氏は、802.15.4準拠ネットワークである、Dust Networks社のSmartMeshよりもZigbee規格を用いた手法の方が信頼性に劣っていることを挙げる。

 「802.15.4準拠の無線機器は16チャンネルを持つ。これらのチャンネルのうち、Zigbeeでは一度に1チャンネルしか使えない。使いたいチャンネルを設定することはできるが、一度設定したら、それらのチャンネルのうち1つしか使えない」とConant氏はいう。そして、近くにあるBluetoothハンドセットや電子レンジなどのデバイスの干渉をそのチャンネルが受ける可能性はある。Dust Networks社は、外部に干渉があると16チャンネルすべてをホップするため、同社のネットワークは99.99%の信頼性を実現していると主張する。

 802.15.4準拠ネットワークのプロトコルを利用する上でさまざまな意見がある(別掲「802.15.4とネットワークプロトコルの概要」参照)。規格準拠技術であることや、世界中で利用できること、そして2.4GHz帯を使うことの利点を考えると、Zigbeeに勝算があるように思われる。ICベンダーの米Freescale社、米Ember社、Chipcon社の3社は、Zigbee準拠のSoCまたはSIP(system in package)製品を提供している。

 Freescale社は早くから802.15.4とZigbeeを支持し、IEEEが仕様を認可した翌日には802.15.4準拠のトランシーバチップを発売していた。しかしFreescale社のRF戦略部門ディレクターを務めるJon Adams氏は、システム設計者はネットワークプロトコルやアプリケーションプロトコルをどのように設計するのかを知りたいわけではなく、単に基本的なデジタル無線機能を必要としているだけだと語る。そのため同社は、802.15.4スタックを使ってアプリケーションを開発できるソフトウエアベースのコンフィギュレーションツールを発売した。そして2005年にZigbeeが登場するやいなやZigbeeスタックを使うための機能も追加し、それによって設計者は700ページにも及ぶ仕様書を読むことなくすぐZigbeeプロセスを構築できるようになった。「当社はワンストップショップで提供できることを狙っている」とAdams氏はいう。Ember社とChipcon社も同じ手法をとっている。

 Ember社はZigbeeが登場する前から、EmberNetなどの独自のワイヤレスセンサー・ネットワークシステムの開発に着手していた。同社はZigbee Allianceの設立当初からのメンバーでもある。エンジニアリング部門バイスプレジデントのSkip Ashton氏は、複雑なメッシュのネットワークを開発するには複数の企業が協力してシナジー効果を生み出すことが重要だと語る。「Zigbeeに対応するには、自社ネットワークだけでなく周りとも手を結ぶ必要がある」と同氏はいう。一企業がネットワークスタックを提供することはできても、多くの企業は標準的な環境でツールやサービスを開発している。Zigbeeの利点として他には、相互運用性テストやマルチベンダーテストが行われていること、複数企業から製品を入手できることなどが挙げられる。Ember社のEM250 SoCは、英Cambridge Consultants社が開発し、英Cambridge Silicon Radio社が自社のBluetoothチップに使っている16ビットXAPコアと2.4GHz RFレシーバを組み合わせたものだ。EM250には他に2個のタイマー、ΔΣ方式のA-Dコンバータ、USART、I2Cポート、そしてZigbeeセキュリティアルゴリズム対応の暗号コアが組み込まれている。またEmber社では、設計者がプロセッサと周辺コントローラを自由に選択できるように、プロセッサコアを搭載していないEM260も提供している。Ashton氏は、Zigbeeにはまださまざまな問題があることを認めてはいるものの、それらの問題もいずれ解決されると確信している。「新しい技術への移行と下位互換性の問題は常に存在する」と同氏はいう。Zigbee規格が進化するにつれ、ユーザーはソフトウエアアップデートでフィールドアップグレードを行えるようになるだろう。

アンテナは小さくしたい

 ワイヤレス設計ではアンテナのコストとサイズを考慮しておかねばならない。選択肢としては、ホイップアンテナ、プリント基板アンテナ、チップアンテナがある。ホイップアンテナは、携帯電話機やトランシーバをはじめとする携帯無線機器でお馴染みの付属品だ。低電力システム用の1/4波長ホイップアンテナに適しただいたいの長さはL=7500/周波数(MHz)で求められ、900 MHzシステムでは8.33cmということになるA)。

 アンテナはプリント基板上の配線でも実現でき、この場合はほとんどコストがかからないという利点がある。しかし、米Atmel社シニアアプリケーションエンジニアのGeorge Rueter氏によれば、プリント基板アンテナを使用するときは注意が必要だという。設計者はアンテナの選択に無頓着なことが多いと同氏は指摘する。正しいアンテナを選択することは、送信と受信の両方にメリットがある。「正しいアンテナを選択すれば、数dBのゲインを得られる」とRueter氏はいう。

 チップアンテナは送受信機能が非常に優れているが、約1米ドル高くなる。チップアンテナのベンダーには、スペインのFractus社、スウェーデンのgigaAnt社、村田製作所などがある。

A)参考文献

Smith, Kent, "Antennas for low power-applications," www.web-ee.com/primers/filters/antenna.pdf

802.15.4とネットワークプロトコルの概要

 IEEE 802.15.4では、ワイヤレスセンサー・ネットワークや双方向の玩具、ホームオートメーションなどの低電力、低周波数帯の応用として、免許の要らない無線周波数帯で短距離無線PAN(personal area network)に使われる下位層を規定している。「下位」とは、OSI(Open Systems Interconnection)ネットワーク参照モデルの最下位にある2つのレベル、すなわちMAC(media access control)層とPHY(physical)層を指す。802.15.4規格ではこの通信方式として、帯域ごとのデータ転送速度を250/40/20kビット/秒、チャンネル数16/10/1本と規定しているほか、ハンドシェイクプロトコルを定義している。これらの仕様は、2つの準拠デバイス間で効率よく通信できるように考慮されている。しかし、デバイスのネットワークにはそれらより上位のネットワーキング・プロトコルが必要となる。2.4GHz帯域のほぼすべてのRFトランシーバと、900MHz帯の多くのRFトランシーバは802.15.4準拠を謳っているが、独自プロトコルやZigbee、オープンソースのTinyOSなどの上位プロトコルについての議論もある。

 ネットワークシステム開発企業には、付加価値を高めるための拡張機能として、あるいは周波数ホッピングなどのユニークな機能を提供する目的で独自プロトコルを開発しているところが多い。Dust Networks社CEOのRob Conant氏は、同社のSmart Mesh-Xプラットフォームはその周波数ホッピング機能により99.99%の信頼性を実現していると主張する。「1つの周波数しか使えなくて、もし隣のコンビニがWi-Fiアクセスポイントになったら、自分のシステムは壊れてしまう。当社では周波数ホッピングによって信号を帯域全体に拡散させている」と同氏は語る。

 802.15.4ネットワーク用のネットワーク層、セキュリティ層、アプリケーション-ソフトウエア層の定義作業に参加している企業で構成されるZigbee AllianceではZigbeeプロトコルを策定した。この仕様は誰でも入手できるが、商用目的で提供できるのはZigbee Allianceのメンバー企業だけだ。

 カリフォルニア大学バークレー校が主導するコンソーシアムは、ワイヤレスセンサー・ネットワーク向けのイベントベースのオペレーティングシステムとしてTinyOSを開発した。Zigbeeではネットワーク層までしか仕様が定義されていないため、TinyOSとZigbeeを組み合わせることもできる。例えば、Zigbeeのネットワーク層をTinyOSのMAC層の上にもってくることもできる。ワイヤレスネットワークシステムのベンダーであるCrossbow Technology社など、いくつかの企業ではTinyOSをオペレーティングシステムとネットワークプロトコルの両方に使用している。TinyOSはオープンソースであることも利点の1つだ。

 表Aは、免許の要らない周波数帯のIEEE無線通信規格に関連した上位プロトコルをまとめたものである。

表A 高位のIEEEプロトコル 表A 高位のIEEEプロトコル


脚注

※1…Conner, Margery, "Run for your life: Ultralow-power systems designed for the long haul," EDN, May 26, 2005, pg 46, www.edn.com/article/CA601827

※2…Wright, Maury, "MIMO delivers range, beam forming delivers video," EDN, Jan 19, 2006, pg 35, www.edn.com/article/CA6296066

※3…現在、Chipcon社は2006年1月に米Texas Instruments社に買収され、傘下に収まっている。TIノルウェー社が一般的な呼び名といえる。


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