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» 2006年09月01日 00時00分 公開

ミックスドシグナル技術で大きく進化:静電容量タッチセンサーの「今」をつかむ (1/5)

静電容量方式のタッチセンサーの用途が拡大しつつある。ミックスドシグナル技術の導入により、実用性が格段に高まったからだ。本稿では、いくつかの製品の原理、特徴を概観することで、同方式タッチセンサーの最新動向を明らかにしたい。

[David Marsh,EDN]

 コンスーマ製品の世界は、「会議室で生まれた1つの考え方」に支配されている。それは、「斬新なパッケージングがなされていて使いやすいユーザーインターフェースが備わっていれば、中身のハードウエアとは関係なくその製品は売れる」というものだ。例えば、高度かつ複雑な技術が使われており、最終的な製品自体、非常に高価な自動車の業界でさえも、「見栄えが重要」という考え方が幅を利かせている。

 ここに1つ、見栄えに関する例がある。ドイツOSRAM Opto Semiconductors社は、「カラーオンデマンドのLED」という製品で、2006年のPACE(Premier Automotive Suppliers' Contribution to Excellence)賞を受賞した。このLEDは、顧客が望む色を作り出すことができるというものだ。これを使えば、自動車メーカーは、自社製品に独自の色のLEDを使うことで、競合製品との差異化を図ることができる。

 一方のユーザーインターフェースについてはどうだろうか。現場では、信頼性を保証しつつ、シンプルでありながら可能な限り強力なユーザーインターフェースを提供しようと努力が続けられているはずだ。

 そのようなユーザーインターフェースの実現に欠かせないのがディスプレイとスイッチである。ディスプレイそのもの、あるいはその実現に用いられるOLED(organic LED:有機EL)などに対する注目度は高い。それに対し、スイッチは地味な存在で、ほとんど無視されてきたといってもよいだろう。

 しかし、実際にはこのスイッチの技術も進化しつつある。静電容量方式のタッチセンサー(以下、静電容量タッチセンサー)に、従来とは異なる仕組みが盛り込まれるようになってきた。そうした製品が登場したことで、設計者は、スイッチを利用したディスプレイについて再び検討を始めることになった。従来の静電容量タッチセンサーは、設計が難しく、感度と安定性に問題があった。しかし、今日のタッチセンサーであれば、電気機械式のスイッチよりも安価で信頼性が高い。タッチパネルは“カスタムメイド”でなければ製造できないというのも過去の話だ。静電容量タッチセンサーICの種類が増えてきたことにより、一度限りの設計であってもコスト的に見合うようになってきた。

 こうした進歩は、デザインによって他社製品と差異化できる可能性をもたらした。また、電子機器のエンジニアに対しても、さまざまなメリットをもたらしてくれる。では、そうした新しい静電容量タッチセンサーは、どれほど優れていて、どれほど設計しやすいというのだろうか。

ミックスドシグナル技術が変えた今日の静電容量タッチセンサー

 最新式の静電容量タッチセンサーICは、米Analog Devices社、米Cypress Semiconductor社、米Freescale Semiconductor社、英Quantum Research Group社などから発売されている。ただし、各社のICで用いられている検知方式は、それぞれに異なる。

 これらのベンダーからは製品の評価キットも提供されている。評価キットを用いれば、各製品を使用する場合の設計の容易さ、相対的な複雑さ、頑強さを簡単に比較できる(別掲記事「評価キットの中身」を参照)。

 ここでいう「頑強さ」とは、さまざまなユーザープロファイル/環境の下で、キータッチの情報を正確に取得/確定する能力のことである。細かい点では異なるが、上記ベンダーの製品は、いずれも閾(しきい)値以上のレベルのキータッチイベントによって、静電容量値と信号レベルが決定される。

 このような方式であるため、モバイル機器での利用を考えると、大きな課題に直面することになる。モバイル機器は、ある瞬間に自由空間に存在していても、次の瞬間にはパソコンや携帯電話機、その他の電子機器の近くに移動している可能性がある。そして、そうした機器は、磁界の強さが異なる予測不能な周波数成分を放出するため、常に誤動作の可能性が付きまとうことになるのだ(別掲記事「家庭で試してはならない?」を参照)。

 静電放電は、静電容量タッチセンサーの誤動作の原因になる可能性がある。また、水その他の異物も同様の問題を引き起こしかねない。こうした問題に加え、温度と時間によるドリフトも課題となる。

 これらの問題を回避することを目的とし、タッチセンサーICには、システムを常時校正するためのロジック回路とアナログ回路が組み込まれていることが多い。以下では、各社製品を順に概観することで、具体的にどのような方式が用いられ、どのような特徴が実現されているのかを明らかにしていく。

家庭で試してはならない?

 本稿で紹介した各社のタッチセンサー技術は、潜在的な干渉に対してどれくらいの耐性があるのだろうか。ある調査結果によると、(科学的な裏付けがあるとは言えないが)干渉に弱いデバイスを実際に誤動作させてしまうものがいくつか存在するという。例えば、100Wの白熱電球を駆動する位相制御方式の調光器、400Wの電気ドリル、21インチのCRTディスプレイ、出力10dBm/433MHzのISM(産業/科学/医学用途向け)帯トランスミッタ、900MHz/1800MHz帯のGSM方式携帯電話などがそれに当たる。

 実際に、それぞれのセンサーアセンブリから10mm未満の範囲内で、モニターを消磁したうえで携帯電話端末の電源を入れると、一時的に電界/磁界が最大に達した。また、電気ドリルの場合には、もっとひどい結果となった。これは、変速式のACライン駆動モーターが影響を及ぼすためだ。さらに、低周波のRF信号も、数100kHzで動作する高感度センサーに影響を与える。

 Analog Devices社のScrollwheel-3は、トライアック調光器に近づけると指が接触したことを感知できなくなり、通常動作に復帰させるためのサイクルが必要となった。Cypress社のCY3212 CapSenseボードで同じことをすると、やはりボタン/スライダのルーチンを制御できなくなったが、ACラインのスイッチングコンダクタがパネル面の真向かいにあっても、個々のボタン/スライダのルーチンは指の存在を正しく認識した。Quantum社のQT160スライダは、約10mmで本線の配線の近接を検知した。その際、出力コードのジッターがやや大きかったものの、問題なく動作したといえる。パネルの数mm上でドリルを持ち、モーターの始動と停止を繰り返してみると、Cypress社製のボードはすぐにクラッシュしたが、Analog Devices社とQuantum社の製品は、この過酷なテストにもどうにか耐えていた。

 比較のために、QT401のボードをCRTディスプレイの前に置いてみると、ソフトウエアの再起動を要求するエラー信号が始終生成された。おそらく、基準信号の校正処理をリセットする必要があったのだと思われる。これと同じ実験で、Analog Devices社のボードは検知エリアを正しく認識せず、復帰するためのサイクルを必要とした。それに対し、Cypress社のボードは同じ実験で正常に動作し、ボタン/スライダのルーチンを実行しているときも、CRTディスプレイの前にボードを置いてモニターを消磁しても問題は発生しなかった。驚くべきことは、各社のボードが、どのRFソースに対しても誤動作しなかったことだ。

 本稿の執筆中に発売されたFreescale社の「MC34940 e-fieldセンサー」用の開発キットには、82mm×47mmのシステムボードと、透明アクリル板の約2mm下に7個の電極を備えたセンサーボード、RS-232ケーブル、そしてCD-ROMが含まれている。システムボードは、センサーIC、ホストマイクロコントローラ、電源、RS-232インターフェースを搭載している。16ピンヘッダを備えており、同社のMON08インターフェースを使用して、「68HC908」シリーズのマイクロコントローラをプログラムできるようになっている。アプリケーションソフトウエアを実行すると、各電極の信号レベルを示す水平バーが表示される。同製品も、電気ドリルを近づけても影響は出なかった。同様に、RFトランスミッタによっても問題は発生しなかった。


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