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» 2006年10月01日 00時00分 公開

RoHS指令施行の先にあるもの::世界で広がるグリーン化の流れ

米国およびアジア各国は、欧州のRoHS指令にならった独自の規制を導入しようとしている。地域ごとにさまざまな規制が作られると、グローバル企業は、それぞれの地域の規制に合わせて部品を製造するのではなく、最も厳しい規制に合わせて事業を進めるようになるかもしれない。本稿では、世界各国の「グリーン化」の流れが業界に与える影響について考察する。

[Margery Conner,EDN]

 エレクトロニクス業界は、3年ほど前から「2006年7月1日」に注目していた。欧州のRoHS(特定有害物質使用制限)指令がほとんどの電気電子製品に適用された日だ。土壇場まで続けられていた施行延期要請の類はどれも退けられ、数10億米ドル規模ともいわれる欧州市場向けの電気電子製品には、この指令が適用された。すなわち、鉛、水銀、カドミウム、6価クロム、PBB(ポリ臭化ビフェニル)、PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)の6物質の含有が禁止されたのだ*1)。この指令に準拠していない部品を含む電気電子製品は、欧州市場から排除され、製造者は罰金を支払わねばならない。

 RoHS指令が施行されると欧州では何が起きるのか――この問いに対する予測があちこちで聞かれる。「鉛フリー」がすべての製品で徐々に進むという意見もあれば、この指令の発効中止を要求する大規模な訴訟が起きるだろうとの予測もある。いずれにせよ、世界のエレクトロニクス業界が再びRoHS以前の状態に戻ることはないだろう。欧州のRoHS指令は、多くの国で検討されている環境保護のための規制の1つにすぎない。すなわち、エレクトロニクス業界では、世界レベルで「グリーン化」が進められているのである。

中国版RoHS指令

 中国政府は2006年2月に独自のグリーン化法案(「中国電子情報製品汚染制御管理弁法」。いわゆる「中国版RoHS指令」)を承認し、2007年3月1日に発効すると発表した*2)。この法案では欧州のRoHS指令と同じ6つの物質について規定していることに加え、「ほかの有害物質あるいは危険物質の使用は国家の定めに準じる」という独自の基準が盛り込まれている。つまり中国はほかの物質も規制できるだけでなく、それらの物質の制限量も自由に決めることができる。米Cadence社製ソフトウエアの販売会社である米EMA社のマーケティング担当副社長Greg Roberts氏は、以下のように語る。

 「中国に製品を販売している世界中の企業は、中国版RoHS指令に従わねばならない。欧州のRoHS指令では、鉛フリーとは、鉛の含有量が1000ppm未満であることだと定義されているが、中国版RoHS指令で許される鉛の許容量はもっと少ないかもしれない。つまり、欧州のRoHS指令に準拠した鉛フリー製品であっても、中国には販売できない可能性があるわけだ」。

準拠証明

 欧州は、メーカーとサプライヤがRoHS指令に準拠していることを証明するために、どのような文書が必要であるかを明確にしていない。しかし、中国版RoHS指令では準拠証明が必要になることは明らかだ。中国で製品を販売する企業は中国で試験を受け、事前に同指令に準拠していることを証明しなくてはならない可能性がある。

 現在一部のメーカーは、欧州のRoHS指令で規定されている部品の適合性を「Yes/No」でチェックする簡単なリストを作成している。果たして、これだけで同指令に準拠していることを証明できるのだろうか。「そんなことはない」とEMA社のRoberts氏はいう。同氏は、「欧州のRoHS指令では、製品に使われるあらゆる部品に関するすべての文書をそろえるまでに、30日間の猶予が与えられている。製品に組み込まれている電子部品はもちろん、梱包用の箱やそれに貼られるラベルに至るすべてのものに使用されている材料を申告しなければならない」と説明する。

 例えば、自社のシステム機器製品で、あるメーカーの電源を使用しており、そのメーカーがRoHS指令への準拠を明言していても、それだけでは意味がない。「多くの部品メーカーは、書類を見せて『準拠しています』と言うだけだ」と、米Phihong USA社マーケティング担当副社長のKeith Hopwood氏はいう。システム機器を販売する企業は、そのシステム全体のRoHS準拠に対する責任を負わなければならない。

 「Yes/No」にとどまらない、しっかりとしたチェックシステムを構築すれば、数え切れないほどの部品に含まれるすべての環境物質を追跡できる。しかし、限られた時間でその目標を達成するのは困難だ。ウェブベースのPLM(product lifecycle managemnet)プロバイダである米Arena Solutions社の最高技術責任者Eric Larkin氏は、「2006年から2007年までの短い期間で、プリント基板上のすべての部品の含有物質を追跡できるとは到底思えない。含有物質の詳細データの公表を検討している部品メーカーは、われわれの知る限り4社しかない」と語る。

 東芝のディスクリート製品部門が行った顧客調査の結果が、Larkin氏の見解を裏付けている。東芝の品質管理エンジニア、Cynthia Pham氏によれば、「多くの企業が今直面している最大の問題は、含有物質に関する情報の欠如だ」という。

各国の対応状況

 2006年7月1日のRoHS指令の発効は、十分に周知徹底されてきた。しかし、それにどれだけ備えることができているかは地域によってかなり異なる。米Avnet Logistics社のシニアバイスプレジデントでワールドワイドの販売を担当しているJim Smith氏によれば、RoHS指令に対する欧州諸国の準備は米国よりもはるかに進んでおり、アジア諸国はその米国にも遅れをとっているという。欧州諸国がそれほど早く準備できたのは、もちろんRoHS指令が自国地域の規制であるからだ。また、欧州市場で米国企業が占めるシェアは15%ほどにすぎず、さらにその半分以上を欧州のOEM企業が占めていることも理由の1つである。しかし、一番の理由は、環境規制に対する欧州各国の並々ならぬ意欲を、欧州企業が身近で見てきたからではないだろうか。

 2001年、オランダ政府はソニーの「プレイステーション」の欧州における販売を禁止した。その数は130万台にも及ぶ。システムのケーブルに含まれるカドミウムの量が欧州の環境指令に違反していたからだ*3)。この出来事は、大企業の有名ブランドでさえも規制の対象になることを世間に知らしめた。指令に違反していたケーブルはソニー製ではないが、罰金が科されて損害を被ったのはソニーだった。

 実は、欧州のRoHS指令は、環境以外の面でも効力を発揮する。RoHS指令に準拠するためにお金と時間を費やしてきた企業は、自らのコンプライアンスを武器に、指令に準拠していない競合企業に対して優位に立つことができるのだ。欧州当局に対し、競合企業のシステムを監査するよう要求することも可能なためである。指令に準拠しているベンダーは、こうした告発行為を非準拠の競合企業に対する正当な戦術だと考えている。

 先述したように、アジアのメーカーはRoHS準拠への対応に遅れをとっている。その理由の1つは、中国版RoHS指令の内容を見極めようとしているからだ。とはいえ、中国版RoHS指令が欧州のそれよりも格段に厳しいということはないだろう。中国の最終的なスタンスがどうであろうと、今後多くの企業は、重要な市場の規制ではなく、最も厳しいグリーン化規制に合わせて対応することになると考えられる。

サプライチェーンの変化

 部品メーカーには、同じ機能の部品を製造するのに複数の生産ラインを用意する余裕はない。言い換えれば、グリーン製品と非グリーン製品の両方を製造することはできない。この事実は、欧州市場には製品を販売していないから、あるいは適用を免除されているからといった理由で、欧州RoHS指令の影響は受けないと考えている企業にとって大きな意味合いを持つ。

 例えば、医療機器や軍事機器は欧州RoHS指令の適用を免除されており、鉛を含むはんだを使い続けることができる。しかし、「軍事機器ベンダーは、そう遠くないうちに部品調達の問題に直面するかもしれない。サプライヤが非準拠の部品の供給を打ち切ったり、値上げしたりするようになれば、サプライチェーンに混乱が起きるだろう」と、Avnet社のSmith氏はいう。「もしわが社が部品メーカーであるなら、1つの決断を下す必要がある。両方を作っていてはもうからないのなら、どちらかを止めるしかない」(同氏)。

 EMA社のRoberts氏も、「この業界に影響を及ぼす本当の要因はサプライチェーンであり、法律ではない」と指摘する。

グリーン化に対応した製品設計

 RoHS指令に付属するWEEE(waste electrical and electronics equipment:廃棄電気/電子機器指令)では、電気/電子製品のリサイクルを促すための表示が義務付けられている。廃棄とリサイクルに関する規制は欧州諸国以外にも広まっており、日本でも2001年に家電リサイクル法が施行された。米国カリフォルニア州でも同様の法律が施行される見通しで、ほかの州もそれに追随すると思われる。家電リサイクル法とWEEEのどちらも、メーカーに対して自社製品の回収とリサイクルを義務付けている。ただし、日本の家電リサイクル法では消費者からリサイクル費用を別途徴収することが許されているのに対し、WEEEでは機器の価格にリサイクル費用を含めるように規定されている。メーカーの負担コストが増えることから、設計者は最も効果的なリサイクル方法を考えながら製品を設計しなくてはならなくなった。Phihong社のHopgood氏は、「WEEEでは、例えばコンデンサが規定サイズを超えていたら、リサイクルする前に基板から取り外さなくてはならない。設計者はリサイクル過程で余分な作業を必要とするような部品をなるべく使わないようにするだろう」と指摘する。

 RoHS指令は何も特別変わった考え方ではない。Arena Solution社のLarkin氏は次のように述べている。

 「100年前、Upton Sinclair氏が書いた『The Jungle』により、食品と薬品の品質と製造の規制が公益につながることに世間は気付いた。その認識が生まれた結果、食品/医薬品業界で守られている規制環境が整った」。

 現在われわれは、メーカーが法規制にのっとって食品や医薬品を供給するのを当然のことだと考えている。それと同じように、電子機器メーカーが規制プロセスに組み込まれていくことには何の不思議もない。われわれにとって最良で、最も効率的な製品設計とは、こうしたグリーン化規制にうまく適合していける設計なのだ。

グリーン化が進む中で生き残るための7つのヒント

請負メーカーが製造した製品がRoHS指令に準拠していることを盲信してはならない。「請負メーカーはあなたの代わりに裁判所には行ってくれない」と、EMA社のGreg Roberts氏はいう。

たとえ規制の適用が免除されていたとしても、サプライチェーンの問題に直面する可能性がある。サプライヤは何のためらいもなく鉛フリー製品に移っていってしまうだろう。その結果、どうしても自社製品に必要な有鉛部品の価格が跳ね上がる恐れがある。

有鉛部品と鉛フリー部品を混在させることはできない。電子部品販売会社の米Newark InOne社によれば、有鉛部品と鉛フリーのグリーン部品との互換性は期待できない*)。

メーカーは徐々に有鉛部品をサプライチェーンから排除し、それらの部品の製造を中止するようになるだろう。Roberts氏は、サプライチェーンが安定するまでには4〜5年かかり、それまでは部品の需要と供給のバランスが不安定になるとの予測を示している。

RoHS指令の適用範囲は電子機器だけにとどまらない。カドミウムめっきを施したネジなど、機械的な組み立て部品などにも注意を払う必要がある。

Arena Solutions社のEric Larkin氏は、「製品を売り込む先の市場の状況についてよく知る必要がある」と語る。これは、今まで製品の販売地域にほとんど関心のなかった設計エンジニアにとっては新しい概念だ。中国市場をターゲットにするなら、中国版RoHS指令と欧州のRoHS指令とでは何がどう違うのかを理解しなくてはならない。

ベンダーがグリーン部品と以前の非グリーン部品に違う部品番号を割り当てていることを確認する必要がある。東芝のディスクリート製品部門が顧客に対して実施したRoHS関連の調査では、部品番号の混同が一番の懸念事項であるという結果が出た。「東芝のすべての鉛フリー製品には、非鉛フリー製品とは異なる部品番号が付けられている」と、同社のCynthia Pham氏はいう。「すべての企業が部品番号を区別しているわけではない。固有の番号が付いていない部品を使えば、ロジスティクスが無茶苦茶になる」と同氏はいう(図A)。

図A RoHSへの対応状況の表示例 図A RoHSへの対応状況の表示例 東芝の初期のグリーン製品には「Lead-Free」(左)と表記されているが、顧客は「RoHScompatible」あるいは「RoHScompliant」という表記を希望している。これを受けた東芝は、完成されたシステムのみがRoHSに準拠し得るとし、禁止物質を含有していない製品には「RoHSCOMPATIBLE」(右)の表記を使用している。

*)参考文献

Shafer, Jeff, "ROHS compliant doesn't necessarily mean backwardscompatible,"www.newarkinone.com/services/rohs/backward_compatible.html



脚注:

※1…Quinnell, Richard A, "ROHS compliance: It's not easy being green," EDN, March 16, 2006, 37, www.edn.com/article/CA6313379.

※2…Administrative Measure on the Control of Pollution Caused by Electronic Information Products, Grace Compliance Specialist, 2006, www.graspllc.com/China%20RoHS.php.

※3…"Sony swaps PlayStation One cables," Dec 5, 2001, Reuters,

news.com.com/2100-1040-276646.html?legacy=cnet.


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