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» 2007年02月01日 00時00分 公開

市場の厳しい要求に応えるために:変容する民生機器設計 (1/4)

民生機器の設計には、市場からの非常に厳しい要求が課せられる。この状況に応じるべく、チップやシステムの設計手法に変化が訪れている。

[Ron Wilson,EDN]

民生機器設計に対する厳しい要求

 民生機器の設計に対する要求は、エレクトロニクス業界のほかの分野におけるそれとは明らかに異なる。

 「新製品は米国の感謝祭までに用意すること。できないなら、そのメーカーとはさよならだ。目標とするコストを達成できないなら、その設計は取りやめにする。チップを作り直すだって? いや、それならそのプロジェクトはもう中止にしてくれ。それから話は変わるが、ビデオ圧縮の“標準”はまだ出来上がっていないから、ソフトウエアの更新で変更に対応できるようにしておいてくれ……」と、こんな具合である。

 民生機器におけるチップ/システムの設計に対する厳しい要求について論じた文書は多い。そのほとんどが、以下の事柄をその厳しさの理由として挙げている。

・競争がグローバル化している

・新興企業が参入しやすい

・ワイヤレス/メディアの(ローカルな)規格が次々に登場する

 こうした要求はますます厳しくなる一方である。

 それに対し、設計チームがいかにそうした要求に対応しているのかということについてはあまり広く論じられていない。チップ/システムの設計では、従来の手法のままこの難題に立ち向かって苦戦しているのか。それとも民生機器市場の厳しい要求に対応可能な新しい設計手法が出現しているのだろうか。

 民生機器の設計に重くのしかかる2つの制約は「時間」と「コスト」である。これらの制約は従来から存在していたものだ。しかし、今日の民生機器市場全体を覆う短サイクル化の波により、それらに変化が生じた。ドイツInfineon Technologies社で電力管理/供給ビジネスユニット担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャを務めるArun Mittal氏によると、現在、時間に関する制約は2種類あるという。

 「まず、ベンダーがすでに市場に参入しており、自社製品の拡張によってビジネスを行っているケースがある。この場合、小売へ製品を提供するまでの総時間が問題となる。もう1つは、企業が新しく市場に参入するケースであり、この場合は、ある特定の期間のうちに製品を提供しなければならない。例えば、クリスマスのプレゼント購入シーズンがこれに当たる」(Mittal氏)。

 これら2つのケースにおける制約はまったく異なっている。拡張やコスト削減を目的とした設計では、時間に間に合わなければ、その期間の分だけ市場シェアの損失や利益の減少が生じる。一方、例えば米Microsoft社が「Xbox」でゲーム市場に新規参入したときのような場合、クリスマスシーズンに間に合わなければ、市場シェアを確実に得るには次のシーズンまで待たなければならない。前者のケースでは、例えばチップの作り直しや収入面の損失に対して合理的な判断に基づき妥協策をとることができるが、後者のケースでは時間に遅れることは決して許されない。

 コストも非常に複雑な問題である。多くの場合、民生機器のシステム設計は、BOM(bill of materials:部品表)における目標コストの設定に始まり、その価格で入手可能なハードウエアを中心として行われていく。設計サービス企業であるインドeInfochips社でCTO(最高技術責任者)を務めるUpendra Patel氏は、「顧客は予測出荷量に基づいてBOMに記載された部品全体の原価(以下、BOMコスト)を見積もり、そこから設計を開始する」と述べている。

 米Texas Instruments社のDSPマーケティングマネジャであるJohn Dixon氏は、「民生機器を開発する顧客は、固定のBOMコストを基にハードウエアを設計する。そのハードウエアを用い、システム要件を満たすために必要となるソフトウエアに関しては、時間を含めた開発コストのすべての支出を受け入れるということが多い」と述べている。同氏によれば、「実際の作業においては、サードパーティの設計企業に頼ることが多い。従って、ある意味では、設計サービスの可用性がアーキテクチャにおける重要な要素になっているといえる」という。

 しかし、コストというのは想像以上に把握しにくいものだ。民生機器のようにコストを非常に低く抑えることが求められる製品においては、複雑さとコストが比例関係ではなくなる。実は、SoC(system on chip)がかなり複雑になったとしても大きな影響はない。しかし、そのために受動部品のコストやテスト時間に変化が生じると、その影響が深刻なものとなり得る。重要なのは、「BOMコストやチップコストのみではなく、組み立てやテストのコストに着目することだ」とInfineon社のMittal氏は強調する。例えば、「システムにおいて簡単に削減可能なのは電源コストだけだというケースは多い」と同氏はいう。

 従来から存在するこれらの制約に加え、民生機器には新しい課題も降り掛かっている。そのうち最も明確な制約は電力であるが、これには2つの意味がある。AC電源を用いるシステムでは、消費電力が少ないと電源コストが低下し、発熱量も減少し、おそらく長期的な信頼性が向上する。一方、電池駆動のハンドヘルドシステムでは、大きな過渡電流に対する要求により電源コストが増大することは事実だが、その際の消費電力はそれほど大きな問題ではない。むしろ、電池寿命に直接関係するタスク当たりの総エネルギが問題となる。この指標は電力とは別のもので、まったく異なるアーキテクチャが要求されることになる。

 例えば、米Arkados社のCEO(最高経営責任者)であるOleg Logvinov氏は、「電力効率の良いハードウエアから、あえて電力効率の悪いソフトウエアへと機能を移行するのが賢明かもしれない」と指摘する(図1)。動作頻度の低い機能は、動作時の消費電力は少ないものの、ほとんどの時間は稼働していないのにリーク電流が生じてしまうハードウエアで実現するよりも、電力効率の悪いCPUで実現したほうが全体としての総消費エネルギは低くなる可能性があるという。

 もう1つ、急速に設計チームにのしかかってきている課題は、1つのシステムで必要となる技術の数が増加しているということである。米Newport Media社のCEO兼ディレクタであるMohy Abdelgany氏は次のように述べている。

 「ハンドセット向けのチップは非常に複雑になってきている。それを設計する技術者は、もはや単なる回路設計者ではなく、システム設計者でなければならない。例えば現在、われわれはデジタルテレビをハンドセットに搭載しようとしている。しかし、ハンドセットの設計者はテレビ放送技術に関する知識を持っていない。そのため、この部分についてはモジュールベンダーに頼ることになるわけだが、このままではまずいと多くのハンドセット設計者が感じている」。

 そのモジュールの機能が、音声認識、オーディオ再生、3-Dグラフィックス、デジタルテレビ、GPS(global positioning system)位置検索などのうちいずれであろうと、ハンドセットベンダーはその詳細を理解しないまま、その機能を組み込むことになる。ここではハンドセットを取り上げたが、これは決して民生機器市場における特異な例ではない。ある分野に対して人々が望む一連の機能を、それらが互いに関連しているか否かにかかわらず、1つのパッケージ、そして最終的には1つのSoCにまとめてしまおうというのが業界の傾向である。当然のことながら、この状況からIP(intellectual property)の品質、再利用の手法、検証の計画に対する要求は高まり、設計マネジャが考慮すべき問題は増大している。

図1 Arkados社製の電力線ネットワーク向けSoCのブロック図 図1 Arkados社製の電力線ネットワーク向けSoCのブロック図 Arkados社が市場に投入した初期の製品のブロック図。このSoCは、インターフェースを除くほとんどすべての機能を、安全のためにソフトウエアで実装する方法を採用している。
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