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» 2007年02月01日 00時00分 公開

Baker's Best:「待ち時間」と「セトリング時間」

A-Dコンバータに使用される用語である待ち時間(latency)とセトリング時間(settling time)。この2つの言葉の違いは分かるだろうか。

[Bonnie Baker,EDN]

 A-Dコンバータの「待ち時間(latency)」と「セトリング時間(settling time)」という用語を混同しているユーザーがいる。もちろん、A-Dコンバータの設計者は、これらの意味の違いや、それぞれがアプリケーションにどのような影響を与えるかを明確に把握している。ユーザーも、これら2つの特性が及ぼす影響について気にはしているのだが、両者の違いについて誤解していることが多い。

 A-Dコンバータにおける待ち時間(または遅延時間)とは、A-Dコンバータがアナログ信号を取り込んでからそれに対応するデジタルデータを出力するまでの時間のことである。この時間は、SAR方式(successive approximation register:逐次比較方式)、パイプライン方式、ΔΣ変調方式といった変換方式の違いにかかわらず発生する。待ち時間には、変換時間とデジタル信号出力に要する時間が含まれる。いうまでもなく、待ち時間はゼロにはなり得ない。すべてのA-Dコンバータは、アナログ信号をデジタルデータに変換し終えるまでに一定の時間を要するのである。

 SAR方式は、一般的なA-Dコンバータの変換方式の中では待ち時間が最小である。ほとんどのSAR方式A-Dコンバータでは、アナログ入力信号をサンプリングした後の1クロックか2クロックのわずかな時間内にデジタルデータの出力が始まる。一方、パイプライン方式では、待ち時間はパイプライン内部の段数に依存する。すなわち、パイプライン方式A-Dコンバータの待ち時間は、パイプライン内部のすべての段で変換が完了するまでの時間となる。パイプライン方式の場合、待ち時間はA-Dコンバータの分解能にも依存し、典型的な例では6クロックまたは7クロック分の時間が必要になる。

 これらの方式に対し、ΔΣ変調方式A-Dコンバータの待ち時間にはやや理解しにくい面がある。同方式では、入力信号をオーバーサンプリングしつつ、並行してサンプリング結果を内部デジタルフィルタに順次送出するタイプのものが多い。内部構造は複雑だが、ΔΣ変調方式でも、待ち時間は最初のサンプリングの開始時点から、それに対応するデジタルデータを取得できるようになるまでの時間となる。

 一方、A-Dコンバータのセトリング時間とは、一般に、ステップ信号入力に対応する値にデジタルデータ出力が収束するまでの時間のことを指す。この定義におけるセトリング時間には、外付け入力フィルタ(アンチエイリアスフィルタ)やシステムのその他の部分でのセトリング時間は含まれない。

 一般に、A-Dコンバータの入力段では、サンプルホールド回路を用いてサンプリングを行う。この回路では、サンプリング時に、コンデンサに対する充電時間が発生する。サンプリングの開始時から実際の入力電圧に到達するまでのこの時間を「アクイジション時間」と呼ぶ。変換精度を確保するには、アナログ入力信号が取り込まれる際、入力電圧がA-Dコンバータの分解能の範囲内に達するまでの充電時間が確保されている必要がある。

 SAR方式A-Dコンバータでは、セトリング時間はこのアクイジション時間内に収まる。パイプライン方式A-Dコンバータのセトリング時間も、SAR方式の場合と同様にアクイジション時間内に収まる。

 ΔΣ変調方式A-Dコンバータのセトリング時間は、SAR方式、パイプライン方式のそれとは性質が異なる。例えば、ΔΣ変調方式のA-Dコンバータでは、内部デジタルフィルタの次数によりセトリング時間が異なるケースがある。同方式の場合、セトリング時間は通常、サイクル単位で評価される。ステップ入力に対する出力がそれに対応する値に収束するまでには、SAR方式、パイプライン方式の場合より多くのサイクルが必要となる。

 上記の説明から、セトリング時間の面で、SAR方式/パイプライン方式のほうがΔΣ変調方式より優れているように思えるかもしれない。しかし、これについては観点を変えて見る必要がある。A-Dコンバータ単独ではなく、システム全体について考えてみるのだ。SAR方式とパイプライン方式では、セトリング時間の大きい高次の外付けアナログフィルタが必須である。A-Dコンバータが信号を取り込むまでに、フィルタ出力が本来の値に収束している必要があるが、この種のフィルタを使った場合には、その大きなセトリング時間が追加されることになる。一方、ΔΣ変調方式のA-Dコンバータでは、オーバーサンプリング技術、変調技術、内蔵デジタルフィルタの効果により、外付けフィルタの次数を下げることができる。そのため、システム全体で見たセトリング時間は、必ずしも大きな値とはならないのだ。

<筆者紹介>

Bonnie Baker

Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com


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