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プレゼンの“肝”はストーリーBaker's Best

» 2007年05月01日 00時00分 公開
[Bonnie Baker,EDN]

 技術セミナーには、毎年多くの参加者が集う。2006年度も、各地から集まった多くの技術者が、製品紹介などのプレゼンテーションに耳を傾けたはずだ。実は、そうしたセミナーで得られる情報の多くはウェブからも得られるものである。では、なぜ技術者はこうしたセミナーにあえて出席するのだろうか。筆者の場合、ワクワクするような新しいアイデアに接したり、そうしたアイデアがいつか役に立ったりすることを期待して参加している。講演者から、自らが開発した製品や技術の詳細、あるいは開発過程での経験などを1つの物語として上手に紹介してもらうことで、自分が抱えている問題の解決に役立つ新たな知見が得られることもある。

 とはいえ、これまでの経験からいって、すべてのセミナーが面白く、また役に立つというわけではない。講演者によっては、声高にスライドを読むだけであったり、あるいは「肝心なのは事実だけ」と考えたのか、得られたばかりのデータを示してそそくさと説明を行うだけだったりする。また、何でも知っているかのように装い、オモシロおかしく説明しながらも、実は気の利いた仕掛けを何も用意していない講演者に遭遇することもある。このようなセミナーから得られるものは何もなく、技術やツールに関して思い浮かべることができる知識は、会場を出るときも入ったときと変わりはないということになる。

 その場で楽しい思いができ、後になっても多くの内容を思い出すことができるようなセミナーにするには、講演者が以下の点に気を配る必要がある。

  • 何について説明しようとするのかを初めに明示する
  • そのテーマがなぜ重要なのかを要約する
  • 素材を十分に使う
  • 当初の目的が果たせていることを明確にして締めくくる

 これら4点に気を付けて筋道を立てて表現するようにすれば、プレゼンテーションをうまく構成できるだろう。すなわち、プレゼンテーションにおいては、ストーリーを組み立てることが重要なのだ。上に挙げた項目は陳腐なものに思えるかもしれないが、核心に迫るプレゼンテーションとするためのアクセントとしては不可欠なものである。このような点に気を配れば、聴講者はプレゼンテーションを五感で受け止めることになり、話の流れに沿って内容を次々と理解/吸収していくことができる。こうしたプレゼンテーションは技術者の実際の経験に裏打ちされた誠意のこもったものであり、宣伝の意図が前面に出るものではない。

 繰り返しになるが、雑誌などの記事や、ウェブ上での解説資料、ポッドキャスティングなどから誰でも情報を入手できる状況の中で、技術者がこのような講習会に参加する理由は何だろうか。

 技術者は何らかの最新情報が得られることを期待して多くのセミナーに参加する。事実、講演者が本社勤務であることから特別な情報が得られるのではないかと考え、そのプレゼンテーションを聴講しようと遠路はるばる参加しに来る人もいる。確かに、そうしたセミナーのプレゼンテーションでは、事前に公表されていない情報やヒントなどが数多く提供されるものである。

 以前、筆者は上司から、「セミナーの講演者になるための訓練は必要ない」といわれたことがある。その上司は、担当者が訓練を受けるために飛行機で出張する費用を惜しんだのだ。では、そのときの筆者の対応はどうだったか。いくらかぼうぜんとなりながらも、この優先順位の誤ったコスト削減策に応えて、次のように冷静に宣言した。

 「分かりました。おっしゃる通り、セミナーの役割はさほど重要ではありませんね。それでは、セミナーは中止して、セミナー用の資料をお客様に郵送することにしましょう。きっと、暇つぶしに読んでもらえるに違いありません。もちろん、セミナーのためのホテルの予約も講演者の航空券もキャンセルしましょう。そうすれば、費用を大いに節約できますよ」。

 筆者の嫌味が功を奏し、セミナーの講演担当者はその年の訓練を受けられることになった。

 セミナーにおいては情報の鮮度や希少性、内容はもちろんだが、ストーリーが非常に重要である。それ故、ホテルでの学会であれ、社内での会議であれ、プレゼンテーションを行うに当たっては、その部屋に入るまでに話の筋道を十分に整理しておこう。導入部、中間部分、締めくくりをどうするか、そして予想される質問への回答をどうするのかといったことを再確認しておくのだ。このような考えに基づいて準備しておけば、自信を持って話を始め、聴衆に信頼感を与えることができる。

<筆者紹介>

Bonnie Baker

Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com


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