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» 2007年06月01日 00時00分 公開

Signal Integrity:電源ケーブルにまつわる幻想

[Howard Johnson,EDN]

 時々メールのやりとりを行っているErnieという友人から次のような疑問を投げかけられた。

 「オシロスコープ用の電源ケーブルを長期にわたって度々踏みつけていたら、破損してしまった。新しいケーブルを買おうと思っていろいろ探したところ、OFC/超低温処理の電源ケーブルが良いらしい。でも、それは数百ドルもするそうだ。こんなにも高いケーブルでなければならないのだろうか」。

 以下は、この問題に関する筆者とErnieのやりとりである。

 Howard:その「OFC」というのは無酸素銅(oxygen-free copper)のことだね。無酸素銅は、その内部に潜在する酸素を減らすために特殊な無酸素雰囲気中で精錬される。そのため、確かに値段は高い。物理学者は、真空チャンバ(真空装置)の中での酸素放出を少なくするために、無酸素処理されたものを使うんだ。「超低温処理」というのは、おそらくケーブル用の導体が製造過程で液体窒素内で処理されるという意味だろう。この処理によって導体内の結晶性の粒が大きく成長し、均質になる場合がある。

 ところで、そんな手の込んだ電源ケーブルが要求される用途とはどのようなものなのだろうか。多分、君は「オーディオアンプには、そのような高級な電源ケーブルが必要だ」といった話をどこかで聞いたのではないかな。

 Ernie:その通り。ウェブ上でマニアの解説をチェックしたら、OFC/超低温処理の電源ケーブルを使用すると、「サウンド、映像がEMI(electromagnetic interference)やRFI(radio frequency interference)による影響を受けず、テクスチャやディテール、立体感がより良く再現されて、バックグラウンドがより深く心に染み入り、黒色が引き締まって、より豊かな音調バランスを感じることができる」と書いてあった。

 Howard:そんな幻想は置いておき、現実を見つめてみよう。通常の60Hzの電力線は、有酸素/非超低温処理の普通の銅線で構成されている。電力は、鳥の糞で汚れた電力線を通って変電所から数マイルも伝送されてくる。その後は、もっとありふれた電線で構成された変電トランスをいくつも経由し、さらに数百フィートにも及ぶ屋内配線を経由して、やっとコンセントにたどり着くわけだ。最後の6フィートだけをらせん状に巻かれた超低温処理の8番電線に替えたところで何か有意差があると考えられるだろうか。子供やペットには気を配らなければならないが、電源ケーブルはそれとは異なる。古くて錆びたハンガーをはんだ付けして長くつないだものを電線として使用しても同じようにうまくいくだろう。

 では、電源ケーブルに本当に必要なこととはいったい何だろうか。まず、絶縁は必須だ。より線にするのも好ましいね。より線は柔軟性が高く、曲げても折れにくい。いわば、これが電線としての必要事項のすべてだね。

 Ernie:シールドについてはどうだろうか。多くの高級オーディオ機器では電源ケーブルがシールドされているようだが。

 Howard:シールドすること自体は良い考えには違いないが、建物の壁の中を通っている屋内配線はまったくシールドされていないのだから、最後のわずか6フィートの電線だけをシールドしても役に立つことはないよ。

 Ernie:分かった。では、銀メッキについてはどうだろう。最良の電源コードには銀メッキが施されるものなのでは。

 Howard:銀メッキには、高周波における表皮効果をわずかに減少させる効果がある。だから、ある種の高周波用途では銀メッキが使用される。でも、60Hz用の短い電源ケーブルに対する銀メッキの効果は測定限界以下だろう。

 Ernie:EMIノイズの低減という観点ではどうか。

 Howard:君の機器がまともに設計されたものなら、電源ライン用のノイズフィルタが組み込まれているはずだ。

 Ernie:良い電源ケーブルは電子の流れを整列させて機器の性能を最良にすると聞いたことがあるが。

 Howard:そんなことはあり得ない。銅の中での電子の平均自由行程は約0.039μm。つまり、電子は常に何かと衝突しながら方向を変えている。その流れが整列することなどあるはずがない。整列するとしたら、超伝導体の中だけだ。

 OFC/超低温処理の電力ケーブルの優れた点は利益率が高いことだけだよ。君の場合は、被覆が厚く耐久性が高いケーブルを手に入れて、使用時にはゴムマットを上に敷いて保護する。これが最良の方法だ。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


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