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フェムトオーダーの電流測定に挑む事例に学ぶその要点とテクニック(2/5 ページ)

» 2007年08月01日 00時00分 公開
[Paul Rako,EDN]

【第1の事例】寄生容量を抑える

 1つ目の事例は、水晶発振器の動作電流を測定する例である。米Linear Technology社のスタッフサイエンティストで、米EDN誌に昔から寄稿してくれているJim Williams氏は、図1に示すブレッドボードを例として提供してくれた。これは、32.768kHzの水晶発振器の消費電流を測定する必要があった顧客のために設計されたものだ。Williams氏は、「水晶の動作電流は、長期間の安定性、温度係数、および信頼性に絡む非常に重要な要素だ」と述べる。


図1 水晶発振器の消費電流測定に用いるブレッドボード 図1 水晶発振器の消費電流測定に用いるブレッドボード (提供:LinearTechnology社)

 この電流測定が困難な理由の1つは、FETプローブの1pFの負荷でさえも、水晶の発振に影響を及ぼし得るということである。微小電流の測定では、寄生要素、特に容量を最小限に抑えることが必要となる。マイクロパワータイプの水晶発振器の場合は特にそうだという。実際、この例の場合の目標の1つは、水晶発振器の周辺に付加される容量をいかに低く抑えるかということだともいえる。

 この測定が困難なもう1つの理由は、32.768kHzで動作する水晶発振器の消費電流を正確かつリアルタイムに測定しなければならないからだ。この場合、コンデンサを用いた積分手法(詳細については第2の事例で示す)は使用できない。また、扱う電流はAC信号となるので測定結果を実効値(RMS値)で評価する必要がある。

 Williams氏は、図2のように高ゲイン/低ノイズのオペアンプと市販の閉コア型(closed core)の電流プローブを組み合わせることで測定を可能とした。また、AC信号を直流信号に変換するIC(RMS-DCコンバータ)により実効値が得られるようにした。ここでポイントとなるのは電流プローブである。Williams氏は米Tektronix社の「CT-1」を用いた*2)。これにより寄生容量を最小に抑えつつ、水晶発振器の消費電流を測定することが可能になったという。

 図2の点線の枠内は、水晶発振器をテストするための典型的な回路である。電流プローブの50Ω出力は、同軸ケーブルによってオペアンプA1に供給される。オペアンプA1とA2では、1120の閉ループゲインが得られる。Williams氏は、CT-1を7つ用意してゲイン誤差を確認した。また、オペアンプA3とA4により200のゲインが得られ、A1からA4までのゲインはトータルで22万4000となる。この値から、A4の出力におけるスケールファクタは1V/μAのレベルとなる。A4の出力は、Linear Technology社製のローパスフィルタ「LTC1563-2」を通る。このフィルタのカットオフ周波数は32.7kHzに設定した。その出力はRMS-DCコンバータの「LTC1968」を通り、回路の出力となるオペアンプA5に入力される。Williams氏は、この信号処理パスを「水晶の発振周波数に合わせた非常に狭帯域なアンプ構成だ」と説明する。

図2 図1のブレッドボードの回路図 図2 図1のブレッドボードの回路図 電流プローブから得た信号をA1からA4で20万以上のゲインで増幅することで、ナノオーダーの電流の測定が可能となる。

 図3に示したのは、図2の回路における各ノードの典型的な波形の例である。Williams氏によると、水晶発振器の動作により点線枠内のオペアンプの出力が得られ(a)、それによりオペアンプA4の出力として530nAの電流が生じ(b)、それがRMS-DCコンバータへの入力(c)となる。「ローパスフィルタ通過前の信号(b)に見られるピーキングは、寄生パスによって生じている」(同氏)という。

 そもそも、ナノオーダーの電流測定は非常に困難な作業である。この例の場合、リアルタイムに測定を完了しなければならないのでさらに難易度が高い。発振器の電流波形を正確に取得するためには32kHzの帯域幅が必要となる。このような状況での電流測定を可能にした要因の1つは、測定に使用した電流プローブにある。CT-1の価格は500米ドルもする。しかし、このようなプローブを用いなければ、Williams氏はノイズの中から測定したい信号を取り出すことはできなかっただろう。CT-1は感度が高いことに加え、出力インピーダンスが50Ωであり、低ノイズの信号パスを実現するのに適している。

 この例から分かるもう1つの重要な点は、信号パスの帯域幅の制限が不可欠だということである。Williams氏は、狭帯域アンプを構成することにより、帯域外のノイズの影響をすべて除去した。

 加えて、Williams氏は回路に巧みな低ノイズ設計手法を用いている。具体的には、クリティカルなノードを空中で配線することによりリークパスを削減した。また、入手可能なものの中ではおそらくノイズが最小のオペアンプ「LT1028」により50Ωインピーダンスの信号を受けている。

図3 各ノードの実測波形 図3 各ノードの実測波形 (a)は水晶発振器からの32.768kHz出力、(b)はオペアンプA4の出力(水晶発振器の電流)、(c)はRMS-DCコンバータへの入力を表す(提供:LinearTechnology社)。

脚注

※2…AC current probes"(http://www.tek.com/site/ps/0,,60-12572-INTRO_EN,00.html).


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