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フェムトオーダーの電流測定に挑む事例に学ぶその要点とテクニック(5/5 ページ)

» 2007年08月01日 00時00分 公開
[Paul Rako,EDN]
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投資は必須

 ここまでに説明した事柄から、微小電流の測定がいかに困難であるかということが理解できたであろう。同時に、そうした要求に応える必要のあるアプリケーションでは、本稿で紹介したNational Semiconductor社のLMC660、Keithley社の2400、別掲記事『微小電流の測定を可能にするIC』で紹介している米Texas Instruments(TI)社の「DDC114」などのほかに、米Analog Devices社の「AD549」や米Agilent Technologies社のパラメータ測定装置「4156」など、実証済みの部品や装置を使用するのがよいことも分かる。

 しかし、こうした有名な部品や機器も“魔法の箱”ではないことを覚えておく必要がある。基板やテスト装置からノイズ源やリークパスを除去できた場合のみ、これらの部品/機器を使用する意味がある。オペアンプの電圧/電流ノイズなどに関する仕様を理解することは、部品の適切な選択につながる*9)。

 もし上司に、「なぜ5米ドル〜10米ドルもするチップや、何千米ドルもする測定器が必要なのか」と尋ねられたら、本稿の内容を思い出してほしい。微小電流の測定に伴うさまざまな問題を考慮すれば、そうした高価な部品/装置は安いものだと説明することができるだろう。

微小電流の測定を可能にするIC

図A DDCシリーズの評価ボード 図A DDCシリーズの評価ボード (提供:TexasInstruments社)

 TI社は、微小入力電流を測定してデジタル値を出力するA-Dコンバータの製品ラインアップを有している。シングルチャンネルの「DDC101」や、より感度の高いデュアルチャンネルの「DDC112」があり、本編で説明した積分手法における積分コンデンサの役割を果たす部品として利用できる。また、4チャンネルの「DDC114」と8チャンネルの「DDC118」は、12pCの電荷感度を備える*10)。これらの分解能はいずれも20ビットで、最大サンプルレートはDDC101が10ksps(サンプル/秒)、DDC112が3ksps、DDC114、DDC118は3.125kspsである。

 上述したように、DDC114では12pCの電荷を測定可能である。従って、12pAの電流を測定したい場合には、積分時間をDDC114の許容最大値である1秒に設定する必要がある。この場合、3kHzという更新レートを実現することはできないが、20ビットのデジタル値が得られる。精度は幾分下がるが、フェムトオーダーの電流測定も可能である。

 同製品の入力電流は20fAだが、この値はソフトウエアを使って校正することができる。高い感度を維持するためには、工場で一度だけシステムを校正して、それをそのまま使用し続けたりしてはならない。温度が10℃上昇するごとに入力電流は2倍に増加するし、基板上ではリーク電流やセンサードリフトも生じる。フェムトオーダーの電流を正確に測定するためには、電源投入時に校正したり、運用時にも頻繁に校正したりすべきである。TI社は、高性能なハンドヘルドのデジタル電圧計でも測定できない微小電流を測ることができ、起動後に連続使用できる評価ボードを提供している(図A)。

 TI社のオーバーサンプリングコンバータ担当製品ラインマネジャで、DDCシリーズで使われている技術の特許所有者でもあるJim Todsen氏によると、DDCシリーズの製品ラインで最初に開発されたのは、電流から電圧への変換機能を提供するデュアルスイッチ積分器「ACF2101」(Burr-Brownブランド)だという。Todsen氏は、「デュアル積分器のメリットは、常に入力電流を収集している点だ」と説明する。デュアル積分器では、1つの積分器が入力電流をサンプリングしている間に、もう一方が積分値をA-Dコンバータに入力する。この処理は測定が必要な限り継続して行われる。同氏は、「DDC112は、ACF2101の電流‐電圧変換機能に、高分解能A-Dコンバータによるデジタル化機能を加えて1チップ化したものだ」と語る。これを実現できたのは、「プロセス技術が進化して高度なミックスドシグナル回路を集積することが可能になったこと。そして、必要な速度と精度で信号を測定可能な高速ΔΣ変換器のコアをTI社が開発したことによる」(同氏)という。さらに同氏は、「われわれは、この製品に必要なすべての回路素子を自社開発できるので、リーク電流の入力を最小化し、長い積分時間でも性能を安定化させることができた」と付け加えた。



脚注

※9…Brisebois, Glen, "Op Amp Selection Guide for Optimum Noise Performance," Linear Technology Design Note 355,

※10…"Quad Current Input 20-Bit Analog-to-Digital Converter," Texas Instruments Inc, June 2005.


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