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» 2007年08月01日 00時00分 公開

Signal Integrity:故障診断では五感も駆使

[Howard Johnson,EDN]

 30数年も昔の学生時代のことだが、夏休みにテレビの修理店で働き、とても楽しい思いをした経験がある。仕事に出た初日に、お客が持ち込んだ修理品にどのように対応するか、店主から次のように教えられた。


試験のプロは、システムのすべての面に対し、幅広い観点から細部にわたって観察を行う。 試験のプロは、システムのすべての面に対し、幅広い観点から細部にわたって観察を行う。 

 「重要なのは鼻を利かすことだ。もし抵抗やコンデンサが焼けたような匂いがするなら、修理費用は高くつくだろう。牛乳の焦げたような匂いがしたら私に連絡してくれ。その客には新品を買うよう勧めるから。そのご婦人は赤ん坊がミルクをこぼしたためにテレビが壊れたと責任を感じているはずだ。亭主の帰宅前に新しいテレビを据え付けておくべきだろう」

 この店主からは、短期間のうちに多くのことを学んだ。彼は故障品を診断するためにまさに五感を駆使していた。トランスから出る60Hzのハムを肌で感じ取り、壊れた真空管に青く光る放電光を見つけ、15kHzの発振器がきしむ音を聞き分け、コンデンサが破裂したときや抵抗が焼けたときの匂いを嗅ぎ分けたのだ。さらには味覚も動員し、9Vの電池の電極を舐めて良否を判断したこともあった。

 今日では、このような感覚が機器の診断に果たす役割は小さくなった。しかし、基本的な観点の重要性は変わらない。つまり、故障の診断のためには五感を含めたあらゆるツールを総動員する必要があるということだ。例えば、筐体に手を当てて冷却ファンからの風の流れを感じてみる、プロセッサに触って熱くなりすぎていないかどうかを確かめる、ディスクの振動音を聞いてみる――このようにして、可能な限り多くの情報を集めるのだ。

 それに対し、適合性試験にはまったく異なる観点が必要となる。適合性試験では、検証すべき機能および性能の規定値が書かれたリストが出発点となる。それを基に、対象とする装置が規格を満足するか否かを判定するのだ。規格を満足していない装置は、修理に回すか廃棄するかのいずれかになる。適合性試験では、実際に試験を開始するまでの準備段階の面で故障診断の場合との大きな違いがある。いくつかの機器から成る試験用のシステムが正常に動作し、必要となる種々の計測が可能であることを検証しなければならない。つまり、試験の準備段階に考えるべき事柄が多いといえる。

 一方、故障診断のプロセスでは幅広い対応が必要となる。システムのあらゆる面に対して鋭い感覚を持って対応しなければならない。試験の間は十分に目配りをし、装置が示すわずかな手掛かりも見逃さないよう注意することが肝要だ。

 日常的な試験では、オシロスコープや各種アナライザ、EMI(electro magnetic interference)試験機などを台車に載せて動き回るのは煩雑すぎる。実験が順調に進んでいるなら、詳細な記録をとる必要はなく、事前に考えるべき事柄も少ない。原因が明確な問題点に対してならば、回路上で手直しすべき個所とその方法を直感的に判断でき、即座に処置できる。

 診断を簡単にするには、装置をいくつかの細かいブロックに区切って行うとよい。もし各ブロックに含まれる故障原因が1つしかないとしたら、故障の症状から原因が明確になるだろう。そうすればデバッグは非常にたやすい。

 故障が複雑に見える場合には、高度なデバッグ技術を適用することになる。多くの原因が絡んだ不良は、説明が困難な、あるいはほとんどあり得ないような再現性のない症状を示すこともある。このような状況では、先に紹介した修理店主の手法の出番となる。五感を働かせながら、症状を注意深く記録するとともに、装置の動作の履歴と状況を把握し、次の試験でどのようなデータを採るかを十分に時間をかけて考えて計画することだ。

 なお、故障診断に関しては、David Agans氏が著書『Debugging(デバッギング)』*1)の中で示している9つのデバッグ戦略が参考になるだろう。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。



脚注

※1…Agans, David, Debugging, Amacom, September 2006, ISBN 978-0814474570.


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