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ホームオートメーションを支えるネットワーク技術電力線通信とRF通信の実用性を探る(1/5 ページ)

ホームオートメーションを構築するためのネットワークシステムが、新たな展開を見せている。インテリジェント住宅の実現に向けて、新しい技術や標準の通信規格、ネットワーク機能が集約された民生電子機器が登場してきたからだ。本稿では、電力線通信とワイヤレス/RF通信に着目し、ホームオートメーションにおけるこれらの実用性を探る。

» 2007年10月01日 00時00分 公開
[Richard A Quinnell,EDN]

 インテリジェント住宅への夢は、マイクロプロセッサの登場によって、その可能性が示されたころから始まる。それは居住者の好みや利用状況に合わせて空調機器や照明器具を自動的に制御し、室温や明るさを設定できるようにするというものである。しかし、そのための高いコストと信頼性の問題、制御能力の限界、標準規格がないことなどが主な制約となり、ホームオートメーション(以下、HA)はこれまで空想の世界にとどまっていた。現在、ワイヤレス技術の進歩やホームネットワークに関する標準規格が策定され、エンターテインメントやエネルギ産業からの要求も高まり、その夢を現実のものにするための努力が再び活発になっている。一方で、業界内にはその実現方法について疑問視する意見がまだ多いことも事実である。

 HAによる初期の試みでは、照明、ファン、電気器具の電源をオン/オフするなど、基本的な機能を遠隔から制御するだけであった。スコットランドのPico Electronics社が1975年に開発した電力線通信技術「X10」は、その典型的な例である。X10の制御プロトコルにおけるデータ転送速度は1ビット/8.33msで、16コマンドしかなく、単一のネットワークで制御可能な機器数は最大256個であった。このような制約があるために適用用途は限定されたが、X10製品は長期にわたって成功を収めた。現在でも一般消費者が入手して設置することが可能である。

 1984年、EIA(Electronic Industries Alliance:米国電子工業会)は、住宅向けにより強力で包括的な制御機能を提供するために、さまざまな機器に対応する共通のコマンド言語の規格制定を始めた。現在ではCEA(Consumer Electronics Association:全米家電協会)がこれを管理している。また、ツイストペア線、赤外線、RF、電力線など多くの通信手法に向けた仕様も定義された。それによって誕生した「CEBus(consumer electronics bus)」規格は、1994年に業界標準「ANSI/EIA 600」として採用され、遠隔制御、遠隔操作、セキュリティシステム、エネルギの管理、およびエンターテインメントコンテンツの伝送などの用途に向けられた。

 残念ながらCEBusの登場は時期尚早であった。実装にかかるコストが大きく、当時はまだ民生市場にインターネットやネットワークという概念が普及する前であったため、CEBusが幅広い支持を得るまでには至らなかった。この規格をサポートした製品も徐々に消えていった。例えば、CEBus製品のベンダーであったカナダのDomosys社は、最終的にはCEBusをあきらめて同社独自の「PowerBus」ネットワーク技術へと移行した。

 ホームネットワーク向けの技術は、このほかにも登場した。最も有名なものの1つが、米Echelon社の「LonWorks」プラットフォームである。LonWorksはHA分野だけでなく、産業および自動車制御用途もターゲットにしたものだ。ネットワーク制御に関する規格「ANSI/EIA 709.1B」、欧州のビルオートメーション規格である「EN14908」、米国鉄道協会の列車ブレーキ制御用規格「IEEE 1473-L」など、いくつかの産業およびビル向け規格で、電力線やツイストペア線を用いたデータ通信の物理層にLonWorksプラットフォームが採用された。

 しかし、LonWorksなどの技術がホームネットワーク市場で普及することはなかった。その理由はいくつかある。1つは、HA分野における消費者のすべての要件を満たす技術が存在しなかったことである。もう1つは、ホームネットワークの普及を促す主要な適用分野がなかったことだ。

 ある技術がHAなどの民生市場で成功を収めるためには、以下に示すような多くの要件が必要になる。

・価格:消費者が購入したいと思うくらいの安い価格で、十分な機能を備える必要がある

・使いやすさ:一般消費者が箱から機器を取り出してすぐに使用できるほど、導入が簡単でなければならない

・信頼性:機器を導入した後、途中で止まることなく、また消費者が注意を払う必要なく、期待通りに動作せねばならない

・柔軟性:消費者は、使う場所や使い方で大きな制約を受けることなく、技術(製品)を使いこなせることを望んでいる

・耐用年数:消費者は、購入した製品が故障することなく、数カ月あるいは数年間使用できることを期待する。電池駆動の機器である場合は、電池の寿命が長いことが消費者を満足させるために不可欠である

・相互運用性:異なるメーカーの製品を購入しても、消費者はそれらが同じ環境で動作することを期待する

・性能:新しく採用された技術にはいくつかの利点や有用な機能がある。技術的な性能や特徴は時間とともに確実に進化するものだと、消費者は期待している

 現在のところ、上記のすべての項目を満たしているHA技術は存在しない。しかし、これらの問題を解決するための努力は続けられている。問題が純粋に通信手段によるものである場合もある。HAシステムでは、ワイヤー/ケーブル、電力線、ワイヤレス(通常はRF)の3つのうちの1つまたは複数の通信手段を使う。どの手法にもそれぞれ利点と欠点がある。

 HA用のワイヤーやケーブルとしては、ツイストペア線、同軸ケーブル、光ファイバなどがある。これらの通信ケーブルを用いると、データ容量が大きく、比較的ノイズの少ない送信を行えるという利点がある。逆に欠点はそのコストである。ケーブルの敷設費用は、家庭用で1フィート(30.48cm)当たり65米ドル、産業用では300米ドル弱にもなる。新築時に敷設すればコストはこれよりも安くなるが、それでも一般家庭が負担するには高すぎる。

 ワイヤーやケーブルを使ったネットワークの2つ目の欠点は、柔軟性がないことだ。敷設された配線により機器を配置する場所が限定されるため、消費者は制御装置や端末機器を自由に再配置することができない。部材コストが非常に高いため、新たに配線し直すことも容易ではない。

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