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組み込みソフト開発にも「Eclipse」の波(1/6 ページ)

エンタープライズ分野のJava開発ではすでにデファクトスタンダードとなった「Eclipse」。ソフトウエア開発を包括的にサポートするこの開発プラットフォームは、組み込みソフトウエアにも対応すべく着々と進化を続けている。本稿では、Eclipseの組み込みソフト開発向けプロジェクト「DSDP」の現状を概観するとともに、組み込みソフト開発において同プロジェクトが果たすであろう役割について解説する。

» 2007年10月01日 00時00分 公開
[森出 茂樹(Eclipse NABプロジェクトリード/富士通),EDN]

ソフトウエア開発を包括的に支援

 Eclipseはソフトウエア開発のためのプラットフォームである。コーディング、デバッグを中心としたいわゆる統合開発環境としての機能をはじめ、必要な機能をプラグインとして追加するだけで拡張できる点を大きな特徴とする。特に、プログラミング言語としてJavaを用いるエンタープライズ系の開発では、Eclipseはほぼデファクトスタンダードになったといっても過言ではないだろう。とはいえ、Java専用のものというわけではなく、C/C++やCOBOL、PHPなどのサポートも進んでいる。こうした各種言語への対応もプラグインの追加で実現される。

 Eclipseは、「Linux」や「Apache HTTP Server」などの著名なプロダクトと同様に、オープンソースのソフトウエアである。そのライセンス形態は、当初から商用目的での改版/再利用などにおいて制限が発生しないように規定されている。そのため、現在では欧米を中心に、多くの企業が「Eclipseファウンデーション」に参加して開発を行い、その成果を自社のソフトウエア製品やサービスに取り込んで開発/販売を行っている。

 Eclipseのプロジェクトは、Eclipseファウンデーションを中心として形成された「エコシステム*1)」により運営されている。ほかの多くのオープンソースプロジェクトとは異なり、そこに集う企業群はそれぞれ独自にビジネスを展開することを目的としている。にもかかわらず、その企業群が共同で共通のプラットフォームを作っていくという運営姿勢に特徴がある。

Eclipseと組み込みソフト開発

 Eclipse自身は汎用のプラットフォームである。その用途は当初は主にソフトウエア開発(コーディング)であったが、現在ではより上流のシステム設計や、機械系も含めたシステムの要件定義/設計などにも使われている。つまり、こうした用途に用いるプラグインが続々と開発されているということだ。また、開発プロジェクトの運営を支援するツールなどもEclipseには豊富に存在している。

 このような背景から、ソフトウエア開発の枠から踏み出し、システムや機器の設計工程をEclipse上で統一して行いたいという要求が必然的に発生してきた。しかし、2005年の時点では、Eclipseコミュニティは、組み込み用途の開発をEclipseで行うにはいくつか主要な機能が不足しているとの認識を持っていた。

 通常、組み込みソフトウエアは組み込みOS上で動作するように作成され、最終的には何らかの製品の内部に組み込まれた状態で動作する。また組み込みアプリケーションは、ほとんどの場合、ターゲットとなる独自のハードウエアとは別のホスト上で開発される。加えて、組み込み機器は大抵の場合、プロセッサのタイプ、動作周波数、メモリーの容量、ハードウエアの応答性などが機器ごとに異なる。さらに、チップ上のI/Oや通信モジュール、高精度のタイマー、メモリーコントローラなどの特殊な機能が機器ごとに存在する。すなわち、組み込みソフトの開発には、エンタープライズ向けの開発とは異なる必要条件が存在するといってよい。

 こうした課題を解決すべく発足したのが、Eclipse上での組み込みソフト開発プラットフォームを構築するためのトッププロジェクト「DSDP(Device Software Development Platform)」である。DSDPは、オープンかつ拡張可能でスケーラブルな標準ベースの開発プラットフォームの構築を目的としたものだ。そのために、プラットフォーム本体である「Eclipse Platform」やC/C++開発ツールの「CDT(C/C++ Development Tools)」、Java開発ツールの「JDT(Java Development Tools)」などの各種Eclipseテクノロジに対して、追加/拡張が行われている。

 開発者/ベンダーは、DSDPを含むプラットフォームを利用して、差異化された独自のソリューションを組み込み/携帯機器市場に対して提供することができる。最終的には、Eclipseベースの製品のカスタマ/ユーザーは、より良い組み込みソフトを素早く安価に作ることが可能になる。

 CDT、JDT、あるいはテスト用のツール群「TPTP(Test&Performance Tools Platform)」といったほかのEclipseプロジェクトは、汎用的な機能を一般向けに提供する。それに対し、DSDPプロジェクトは、組み込み向け開発に特化した拡張を、DSDPとして将来にわたってEclipseに対して提供していく。

 現状、DSDPプロジェクトには、米Accelerated Technologies社(米Mentor Graphics社の組み込みシステム部門)、ACCESS、英ARM社、米Freescale Semiconductor社、富士通、米IBM社、米Motorola社、フィンランドNokia社、英Symbian社、米Texas Instruments社、米Wind River Systems社などからソフトウエア開発者(committer)が参加している。そのほかにも、米AMI Semiconductor社、米Curtiss-Wright社、米Intel社、米MontaVista Software社、カナダQNX Software Systems社、英Sony Ericsson Mobile Communications社、米Sybase社などの企業がDSDPプロジェクトに参加している。


脚注

※1…Eclipseのポリシーを表した言葉である「エコシステム」を、日本人は「エコロジーなシステム」、すなわち自然環境として理解してしまいがちだが、正しくは「エコノミーシステム」のことである。つまり、エコシステムの意味は、「経済的なつながりを持つ企業や個人による共存共栄の共同体」というイメージに近い。


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