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「プリンテッドエレクトロニクス」の可能性(1/3 ページ)

着々と応用分野を広げつつあるプリテッドエレクトロニクス。これを利用した製品の数々や、製品化を支える最新技術の動向を紹介することで、この分野の将来性を俯瞰してみたい。

» 2007年12月01日 00時00分 公開
[Warren Webb,EDN]

なぜ期待が集まるのか

 「プリンテッドエレクトロニクス」は、導電性のインクと印刷技術を利用して電子回路を形成するというものである。これを利用することにより、非常に低コストで、柔軟性を持ち、使い捨てできる回路を、カスタムインクジェットプリンタや高速プレスで製造することが可能になる。この分野で最先端にいる企業は、特殊なインク技術を用いて、薄膜トランジスタ、抵抗、インダクタ、コンデンサなどの基本的な回路部品から、電池、ディスプレイ、センサー、RFID(radio frequency identification)タグ、対話型の機能を備えた製品パッケージ、太陽電池、スピーカといったものまで製造している。プリンテッドエレクトロニクスの概念は何年も前から存在したが、導電性インクとフレキシブルプリント基板の進歩により、新しい市場や応用分野が急速に開かれることとなった。

 従来のシリコンベースの回路とは異なり、プリンテッドエレクトロニクスでは、導電性、半導電性、誘電性の材料から成る複数の層を、プラスチックフィルム、金属箔、紙などの柔軟性を備えた媒体に沈着させる添加処理を利用する。インクジェット印刷、ロールツーロール(roll to roll)のオフセット印刷、フレキソ印刷、輪転グラビア印刷、スクリーン印刷などの既存のプリント技術を用いた多層印刷を行うことで実現する。製造装置への資本投資が比較的少なくて済み、必要に応じて膨大な数のコピーを容易に製造することが可能である。この特性を生かし、シリコンベースでは非実用的で、なおかつ大量に生産され、機能が簡単な民生アプリケーションをターゲットとしている。

 調査会社やコンサルティング会社らは、プリンテッドエレクトロニクス製品の大きな成長を予測している。例えば英IDTechEx社は、プリンテッドエレクトロニクスや薄膜エレクトロニクスの市場規模が2007年には10億米ドルを超え、2011年には50億米ドル、2017年には480億米ドルに達すると予測している。

図1 対話型の電池残量チェッカ(提供:Duracell) 図1 対話型の電池残量チェッカ(提供:Duracell)  導電性インクを利用して抵抗性発熱体を形成し、温度応答性インクを用いて充電状態を表示する。

 使い捨て電池に付加される対話型残量チェッカは、広く使用されているプリンテッドエレクトロニクス製品の1つである(図1)。この種のチェッカは、導電性インクにより抵抗性発熱体(resistive heating element)を形成し、温度応答性インク(temperature responsive inks)によって表示を構成する。代表的な例であるDuracell(米Procter & Gamble社)の電池には、くさび型の抵抗が熱変色性の表示領域の直下にプリントされている。ユーザーが端子部に導線を押し当てると、電池が供給する電流が抵抗を流れ、表示領域が加熱される。十分に残量のある電池ならば、くさび型の抵抗全体を加熱するのに十分な電流が流れ、残量が「良好(good)」であることを示す表示が得られる。Duracellは、このチェッカを電池のパッケージの一部として、ほとんど追加コストなしで実現している。

 プリンテッドエレクトロニクスによって、高性能なシリコンベースの回路と同等のものを実現することはできない。しかしながら、これまでにないアプリケーションによって新しく開拓できる市場は数多く存在する。プリンテッドエレクトロニクスの潜在的な応用分野は、ヒューマンインターフェースに工夫の余地があり、大量に生産される製品の分野である。例えば、紙や柔軟性のあるポリマー基板を利用すれば、対話型の標識、衣類、ラベル、壁紙、書籍、新聞、製品パッケージなどを生産可能である。これらを人間の生活環境に組み込めば、パーベイシブコンピューティングの考え方に近づくことができる。多くの場合、プリンテッドエレクトロニクス製品は、組み立てなどのための追加コストを必要としない。それに対し、従来の電子部品では、そうしたコストがデバイスの価格を超えてしまうこともあった。

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