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ソフトリミッタ回路を利用したAM変調器Design Ideas

» 2007年12月01日 00時00分 公開
[Herminio Martinez,Encarna Garcia,Juan Gamiz(カタロニア工科大学),EDN]

 ソフトリミッタ回路は発振器出力の制御に利用される代表的な回路である(図1(a))。入力電圧VIN(t)が十分に小さく、従って出力電圧VOUT(t)も十分に小さければ、ダイオードD1、D2はオフ(非導通)になる。このとき、入力電流はVIN(t)/R1となり、この電流がすべてフィードバック抵抗R2に流れるので、出力電圧VOUT(t)は次式のようになる。



 このときのリミッタ回路の伝達特性はリニアなものとなる。図1(b)において「SLOPE=−R2/R1」と示した部分がこれに対応する。

図1 ソフトリミッタ回路 図1 ソフトリミッタ回路 フィードバック回路中のダイオードの作用により、ソフトリミッタ動作が得られる(a)。伝達特性はダイオードが導通し始める点で折れ曲がる(b)。

 次にVIN(t)が負の方向(絶対値が増大する方向)に減少し、これに対応して反転出力VOUT(t)が増大した場合には、図中のVAのポイントの電位がVOUT(t)よりさらに大きい正のレベルにあるのでD1はオフに保持される。このとき、VBのポイントの電位はVOUT(t)の増大に対応して負の値から正の値に変化する。VIN(t)がさらに負の方向に減少し、VOUT(t)がさらに増大していくと、ある点でVBが約0.7Vになり、その結果、ダイオードD2がオン(導通)になる。この条件が成り立つ出力電圧VOUT(t)を正のリミッタ電圧VL+とすると、以下の式が成り立つ。


 ここで、Vγはダイオードの順方向電圧で約0.7Vである。さらにVIN(t)の負の方向への減少が進み、VOUT(t)がVL+の値を超えると、ダイオードD2に流れる電流は増大するが、VBの電位はほぼ一定のレベルVγに維持される。その結果、抵抗R5に流れる電流はほぼ一定に保たれ、D2に流れる電流の増分はR6を経由して供給されることになる。そのため、R6が実質的にはフィードバック抵抗R2と並列接続されることになり、ゲインが低下する。このリミッタ領域におけるゲインは次式で与えられる。


 なお、この式ではダイオードの抵抗成分を無視している。この式から分かるように、このリミッタ領域における伝達特性の傾き(ゲイン)を小さくするにはR6の値を小さくすればよい。

 VIN(t)が正の場合、すなわちVOUT(t)が負になる場合の伝達特性も、同様に求めることができる。すなわち、VIN(t)が正のときは、ダイオードD1がVIN(t)が負のときのダイオードD2と同じ役割を果たす。従って、負のリミッタ電圧VL−は次式となる。


 同様に、このリミッタ領域におけるゲインは次式で表せる。


 ここで、フィードバック抵抗R2の値を大きくするとリニア領域のゲインは増大するが、VL+、VL−は変化しない。なお、R2を短絡した場合には、回路はコンパレータとして働く。

 以上が図1(a)におけるソフトリミッタ回路としての動作だが、この回路では正負のリミッタ電圧VL+とVL−とをそれぞれ独立に調節できることに注目したい。すなわち、VL+とVL−を調節するには抵抗値と基準電圧±VREFを調節すればよい。基準電圧を制御することによってリミッタ電圧を変えることが可能なのだ。この構成を利用するとAM変調器を簡単に構成できる。

 図2の回路において、RC移相型発振回路のアンプ部には図1のソフトリミッタ回路を使用している。ソフトリミッタ回路用の基準電圧である+VREF、−VREFは、変調信号VM(t)に依存して変調される。これにより発振回路出力のリミッタ電圧がダイナミックに変化することになる。リミッタ回路の抵抗比によって、出力振幅と変調指数を設定できる。

 図2の回路による実験結果として、変調信号VM(t)と発振回路からの変調出力信号VOUT(t)の波形を図3に示す。VM(t)には、片側振幅3Vの正弦波に対して抵抗R9を用いて5Vのオフセットを重畳する。この回路の動作は4象限アナログ乗算器と同様のものとなる。

図2 ソフトリミッタ回路を利用したAM変調回路 図2 ソフトリミッタ回路を利用したAM変調回路 RC移相型発振回路のフィードバックループに図1のソフトリミッタ回路を挿入することで、AM変調回路を簡単に構成できる。
図3 AM変調回路の実験結果 図3 AM変調回路の実験結果 図2の回路に対する実験結果。(a)が変調信号VM(t)、(b)が変調された出力信号VOUT(t)を表す。

脚注

※1…Sedra, Adel S, and Kenneth C Smith, Microelectronic Circuits: Fourth Edition, ISBN 0-19-511663-1, 1998, Oxford University Press, New York.


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