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メカトロニクス設計の「今」を俯瞰する(1/3 ページ)

多くの組み込み技術者が「メカトロニクス」に注目している。機械工学と電子工学を融合することにより、従来にない利便性を顧客に提供できるからだ。本稿では、まずメカトロニクスとはどのようなものなのかを説明した上で、その設計/開発に利用可能な各種ツールを紹介する。

» 2008年02月01日 00時00分 公開
[Warren Webb,EDN]

「メカトロニクス」の浸透

 今日では、対話型の機能を備える製品が当たり前のものとなった。そのような機能を実現することを1つの目的とし、メカニカル制御回路(機械部品を電気的に制御する回路)が組み込みシステム設計における重要な要素になりつつある。

 エレクトロニクス機器では、初期のころから、モーター、リレー、ソレノイド、スピーカなどに電磁気制御回路が用いられてきた。しかし、より高度な動き制御を伴う今日の機器では、従来からのメカニカルな部品がマイクロコントローラをベースとした回路に置き換えられ、高い精度で動作の調整が行われるようになってきている。それに伴い、組み込みシステムの設計は、機械、電気、制御システム、組み込みソフトウエアを組み合わせたものに変貌してきた。こうした新たな枠組みを「メカトロニクス(Mechatronics)」と呼ぶ。

 メカトロニクスという言葉は、安川電機の技術者らが40年近く前に発表したものである。これが一般的に使われるようになったのは最近のことだ。現在では、簡単な電気機械回路がメカトロニクスの範囲に含まれることもある。しかし、メカトロニクスの普及を後押ししている人々が対象としているのはそうした単純なものではない。そうではなく、電子回路設計、コンピュータによる支援を活用した機械設計、デジタル制御システム、リアルタイムソフトウエアなどの手法を組み合わせたより高度な機器を対象としている。

 多くの大学がメカトロニクスの教育課程を用意しており、学位も存在する。例えば、ノースカロライナ州立大学とノースカロライナ大学が提供する共同カリキュラムでは、メカトロニクスを専門とした工学学士号を取得することができる。

何が変わるのか?

 メカトロニクスでは、システム設計において、シミュレーション、CAD(computer aided design)、仮想プロトタイピング、統合された設計ツールなど、開発期間の短縮とリスクの軽減を実現するためのシステムレベルの手法を活用する。このような手法により、設計の初期段階でシステムの動作を正確にシミュレーションすることができ、システムが要件を満たしており、顧客の期待に応じるものとなっているか否かを確認することができる。

 また、従来の電気機械システム開発とは異なり、メカトロニクス向けの各種ツールを用いた仮想シミュレーションによって、機械、電気、ソフトウエアの各要素を並行開発することが可能となる。今後出現するであろう自動化ツールにより、現時点ではほとんど試行錯誤を繰り返すしかない制御システムの設計に、シミュレーションによる最適化という新たな技法がもたらされるだろう。

 メカトロニクスでは、「システムのモデル化」ということに対してかなりの学習と時間の投資が必要となる。従来の組み込み動き制御の開発では、ほとんどの場合、この作業が必要になることはない。この点が明らかな違いである。

 正確な動き制御を行うシステムでは、複数のモーターやアクチュエータを協調させる必要がある。そうした複雑な設計にも、高度なメカトロニクス手法を利用することができる。とはいえ、動き制御の基本的な原理が変化するということではない。

 例えば、回転速度/トルクのサーボ制御を必要とする分野ではDCモーターが広く利用されている。そこで用いられている基本的な原理は、モーターの速度は印加電圧に比例し、出力トルクは電流に比例するということである。つまり、設計者の仕事は、動作速度を決定し、必要な負荷トルクを得るために十分な駆動電流を流すようにすることだ。ここで、動作中のDCモーターの速度を制御しなければならないとしたら、やや複雑な処理が必要になる。DCモーターを効率良く動作させる手法としては、所望の速度に対応するデューティ比のPWM(pulse width modulation:パルス幅変調)信号を印加する方法が最もよく使われる。モーターはローパスフィルタとして機能し、PWM信号を有効なDCレベルに変換する。PWM信号は、マイクロプロセッサをベースとしたコントローラにより容易に生成可能である。

メカトロニクスの実例

 従来は完全に電気的なものとして設計されていた組み込みシステムの多くに、メカニカルなアドオン部品が利用され始めている。例えば、タッチスクリーンの操作には、触覚によるフィードバックがない。そのため、ユーザーの中には物理的なボタンよりも操作が困難だという不満を口にする人もいる。そこで音声や視覚による補助機能を備えたタッチスクリーンが登場したが、それでも機械的なプッシュボタンを押したときの感触には匹敵しない。

 米Immersion社のディスプレイシステム技術「TouchSense」は、タッチスクリーンを押したときと放したときの感触がプッシュボタンに近い、グラフィカルなボタンを持つシステムである。同システムは、タッチスクリーンの性能を下げることなく、音とグラフィックスの変化に同期した、触覚を伴う応答を提供する。具体的には、触覚効果をもたらすソフトウエアライブラリが、携帯電話機のバイブレータのように、小さな電気機械式のアクチュエータを制御して物理的な動きを生成する。静電容量方式、抵抗膜方式、表面弾性波方式、赤外線方式など、ほとんどの方式のタッチスクリーンに対応し、対角長が最大6インチ(約15.2cm)の平らなタッチスクリーンに付加することが可能である。

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