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絶縁素子の選択肢豊富に、特性や使い勝手が向上電子部品 絶縁素子(1/4 ページ)

電気的に絶縁した回路の間で信号をやりとりする際に欠かせない絶縁素子。フォトカプラの独壇場が何十年にもわたって続いていた絶縁素子市場に、近年になって新型素子が相次いで登場した。これら新型素子では、いずれもフォトカプラが抱えていた課題を解決したという。一方、フォトカプラ・ベンダーも、主な用途である産業機器やOA機器、デジタル家電の市場拡大を商機とみて、新製品の投入を活発化させている。選択肢が広がる絶縁素子それぞれの利害得失を把握すれば、用途に合わせた活用が可能になる。

» 2008年05月09日 08時30分 公開
[薩川格広,EE Times Japan]

 回路間で、電気的な絶縁を確保しながらも、信号をやりとりしたい。産業機器やOA機器、医療機器から、白物家電、デジタル家電に至るまで、さまざまな電子機器でこうした絶縁が求められる。

 絶縁の狙いは1つではない(図1)。例えば、高電圧で動作する回路と低電圧で動作する回路を切り離し、低電圧回路の誤動作や故障を防ぐことだ。ほかにも、ユーザー・インターフェースにつながる回路を商用の交流電源で動作する回路から切り離して感電を防止する。さらにグラウンド・ポテンシャル(接地電位)が異なる機器に直接接続するインターフェース部から内部回路に過大な電圧が入り込まないようにしたり、コモン・モード雑音の影響を受けないようにしたりする。

図1 図1 絶縁の必要性 絶縁を施す狙いはさまざまだ。例えば、(a)高電圧で動作する回路と低電圧で動作する回路を絶縁し、低電圧回路の誤動作や故障を防いだり、(b)グラウンド・ポテンシャル(接地電位)が異なる回路同士のインターフェース部を絶縁し、グラウンド・ループを断ち切ることで、両回路を接続した際に一方の回路に過大な電圧が印加されてしまわないようにする。(クリックで画像を拡大)

 高電圧回路と低電圧回路の絶縁を例に挙げよう。数Vという低電圧で動作するマイコンを使って、数百Vの高電圧で動作するモーター駆動回路を制御する場合である。モーター駆動回路が扱う高電圧が、低電圧で動作するマイコンの入出力に印加されると、誤動作を引き起こしたり、故障につながったりする。それを防ぐために、低電圧回路と高電圧回路を絶縁する。ただし、マイコンを使ってモーターの制御量を演算するには、モーターの速度やトルク、位置といった情報を、高電圧動作の駆動回路から低電圧動作のマイコンにフィードバックしなければならない。つまり、電気的に絶縁された回路間で、信号を受け渡す必要がある。

 こうした要求に応える電子部品が絶縁素子だ。信号を受け渡す方式が、光結合や磁気結合、容量結合と異なる絶縁素子が製品化されている(表1)。

表1 表1 絶縁素子の種類と主な特性 回路間の絶縁に使うフォトカプラやアイソレータICの種類と主な特性を示した。デジタル信号の伝送に特化した新型素子は、フォトカプラに比べて経年劣化やデータ伝送速度、消費電力が改善されている。(クリックで画像を拡大)

新型素子が続々登場

 絶縁素子の代表格は、光結合方式を使うフォトカプラだ。発光素子(LED)と受光素子(フォトダイオードやフォトトランジスタ)を1つのパッケージに封止しており、各素子はパッケージ内部でそれぞれ、互いに電気的に絶縁された端子に接続されている(図2)。入力した電気信号を発光素子で光信号に変換して受光素子に渡し、その光信号を受けた受光素子で再度、電気信号に変換して出力する仕組みだ。従って、電気的に絶縁した回路の一方に発光素子側の端子、もう一方に受光素子側の端子を接続すれば、絶縁を確保しながら、発光側(1次側)から受光側(2次側)に信号を渡せる。

図2 図2 フォトカプラの原理 光結合方式を利用した絶縁素子である。2次側の受光素子として、フォトダイオードやフォトトランジスタの代わりに、これらの受光素子とともに信号処理回路を集積したフォトICを搭載した品種もあり、CMOS形式などのデジタル出力に対応する。(クリックで画像を拡大)

 フォトカプラの歴史は長い。シャープによれば、「国内では1969年に初めて、当社がフォトカプラの量産を開始した」(シャープ 電子デバイス事業本部 オプトアナログデバイス事業部 企画部長の藤田勝行氏)という。

 その後、数十年間にわたって、絶縁素子の市場はフォトカプラの独壇場が続いてきた*1)。現在、国内では、NECエレクトロニクスやシャープ、東芝、松下電器産業などが供給する。海外ベンダーとしては、米Avago Technologies社(2005年12月に米Agilent Technologies社から分社化)や米Fairchild Semiconductor社、米Vishay Intertechnology社などの米国企業のほか、台湾をはじめとしたアジアの企業もある。

*1)電気的に絶縁した回路間で信号を受け渡す用途に使える電子部品としてはこのほか、「パルス・トランス」と呼ばれる絶縁トランスも従来から供給されている。ただしパルス・トランスは、外形寸法が比較的大きいことや、そのままでは信号の直流(DC)成分を伝送できないことなどから、絶縁素子としての応用範囲は限定的である。

 ところが近年になって、米国の半導体ベンダー各社が、絶縁した端子間での信号伝送に向けて、光結合とは異なる結合方式を採用した新型の絶縁素子(アイソレータIC)を相次いで投入した。

 まず2001年に米Analog Devices社と米NVE社が、それぞれ独自の磁気結合方式を採る絶縁素子を発表した。Analog Devices社は「iCoupler」、NVE社は「IsoLoop」と呼んで製品化している。続いて2002年には、従来から高速フォトカプラを得意としていたAvago Technologies社が、NVE社からOEM供給を受けた絶縁素子を「デジタル・アイソレータ」と呼んで発売。その後2006年には、米Texas Instruments社が容量結合方式を使う絶縁素子を投入した。同社もこれを「デジタル・アイソレータ」と呼ぶ。

市場規模の拡大が呼び水に

 このように新型素子の投入が相次いだ理由は、大きく分けて2つある。

 1つ目は、絶縁素子の市場が拡大傾向にあることだ。背景には、産業機器から民生機器まで分野を問わず進む省エネルギ化によって、高電圧回路と低電圧回路を絶縁する必要があるスイッチング電源やインバータ制御の普及が進んでいることや、工場のオートメーション化が一段と加速していることを受けて、工業用バスとのインターフェース部に絶縁を施す機器が増えていることがある。

 実際にフォトカプラを手掛ける半導体ベンダー各社は、フォトカプラの市場規模の推移について次のように証言する。「汎用フォトカプラの市場規模は過去10年間、2001年の通信バブル崩壊時を除いて、携帯電話機や薄型テレビなどデジタル家電の市場の拡大に伴って、大きく成長してきた」(NECエレクトロニクス)。「フォトカプラの市場規模は2005年に対して、2009年に129%、2010年に135%まで拡大する」(シャープ)(図3)。

図3 図3 フォトカプラの市場規模予測 フォトカプラの市場規模の推移を、2005年における市場規模を100として予測した。2010年には35%増と見込まれる。出典:シャープ(クリックで画像を拡大)

 市場規模のこうした拡大は、フォトカプラを供給する既存の半導体ベンダーはもちろん、新型素子を投入する半導体ベンダー各社にとっても大きな商機になる。

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