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アンチエイリアスフィルタの役割Baker's Best

» 2008年10月01日 00時00分 公開
[Bonnie Baker,EDN]

 通常、A-Dコンバータでは、折り返し(エイリアス)信号の発生を防ぐために、入力信号の帯域制限を行う。すなわち、A-Dコンバータの入力部に、サンプリング周波数の1/2(ナイキスト周波数)以上の周波数成分を急峻に減衰させるアンチエイリアスフィルタ(アナログフィルタ)を設ける。サンプリングシステムであるA-Dコンバータでは、ナイキスト周波数以上の信号が入力されると、それがナイキスト周波数以下の領域に折り返し信号として現われてしまう。これを防ぐために、フィルタによって帯域制限を行うのである。

 これに対し、オーバーサンプリング技術とΔΣ変調技術を利用したA-Dコンバータ(以下、ΔΣ型A-Dコンバータ)では、アンチエイリアスフィルタの要件が大幅に緩和され、より次数の低い簡易なもので済ますことができる。

図1 デジタルフィルタとアンチエイリアスフィルタの周波数特性 図1 デジタルフィルタとアンチエイリアスフィルタの周波数特性 

 ΔΣ型A-Dコンバータの変調器におけるオーバーサンプリング周波数をFS、出力データレート(すなわち、本来のサンプリング周波数)をFDとしよう。ΔΣ型A-Dコンバータにおいては、このFSがFDに比べてはるかに大きいところが1つのポイントである。

 ΔΣ型A-Dコンバータは、通常、帯域制限処理と間引き(デシメーション)処理を担うデジタルフィルタを内蔵する。デジタルフィルタとしてSINC(sinx/xの関数)型のものを用いた場合、通常、その周波数応答はFDのポイント(周波数)で最初にゲインがゼロになり、その後、n×FD(nは自然数)のポイントでもゲインがゼロになる櫛型形状を成す(図1)。この櫛型形状は、オーバーサンプリング周波数FSの両側にも形成される。

 Δ?弶?A-Dコンバータもそれ以外の方式のA-Dコンバータと同様にサンプリングシステムなので、オーバーサンプリング周波数FSの1/2以上の周波数成分が入力されると、1/2×FSを対称軸として折り返した位置(1/2×FS以下の領域)に折り返し信号が現われてしまう。図1に示したように、SINC型デジタルフィルタは広い周波数範囲にわたってノイズを除去するが、FS近傍の周波数帯にはフィルタの通過域が存在するため、この範囲のノイズ成分は除去できない。通常のシステムであれば、サンプリング周波数の近傍には、振幅の大きい周波数成分は存在しないはずだが、現実的に問題となってしまうレベルのノイズがFS近傍に存在してしまうケースはあり得る。例えば、高分解能/高精度のA-Dコンバータでは、そのようなノイズが出力データ下位ビットの変動として現われることになる。これを防ぐために、ΔΣ型A-Dコンバータでもアンチエイリアスフィルタを利用する。ただし、オーバーサンプリングの効果により、アンチエイリアスフィルタとしては、1/2×FDよりもはるかに高い周波数であるFS近傍において十分な減衰特性が得られていればよい。

図2 アンチエイリアスフィルタの構成例 図2 アンチエイリアスフィルタの構成例 値が同じ2個の抵抗と1個のキャパシタで構成している。

 ΔΣ型A-Dコンバータに適用するアンチエイリアスフィルタでは、例えばカットオフ周波数を出力データレートFDに等しくする。このフィルタの次数は低くてもよく、簡単なRCフィルタで構成してかまわない。ただし、デシメーション比(FS/FD)が小さい(100以下など)場合には、2次のフィルタを用いるケースもある。

 図2に、アンチエイリアスフィルタを受動部品で構成した例を示した。これは、差動入力/単一チャンネルのΔΣ型A-Dコンバータ用のものである。そのカットオフ周波数(1/2πRFLT×CFLT)がA-Dコンバータ出力のデータレートFDと等しくなるよう抵抗とキャパシタの値を選べばよい。

<筆者紹介>

Bonnie Baker

Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com


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