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DisplayPort活用の肝は「ブリッジ機能」の実現HDMI/DVIへの変換の仕組みはどうあるべきなのか(2/3 ページ)

» 2008年11月01日 00時00分 公開
[Abdullah Raouf(米Pericom Semiconductor社),EDN]

ブリッジ機能の実現方法

 ほぼ同じ用途に向けた複数の技術規格が存在する場合、その中のどれが市場で標準的な地位を占めることになるかをあらかじめ見極めるのは難しい。DisplayPortが優位性を発揮する用途は確かに存在するが、それでもHDMIとDVIの普及状況を考慮しながら導入を検討する必要がある。

 かつて、グラフィックス分野では、AGP(Accelerated Graphics Port)が標準的なグラフィックスインターフェースとして用いられていた。高速入出力インターフェース規格のPCI(Peripheral Component Interconnect) Expressが登場した当初は、AGPのインターフェースをPCI Expressのインターフェースに変換するブリッジICを使ってPCI ExpressボードとAGPグラフィックスICを接続していた。その後、PCI Expressが普及すると、今度はPCI ExpressをAGPに変換するブリッジICが市販されるようになった。これと同様のことが、DisplayPortとHDMI/DVIに関しても起こり得る。

 45nmプロセスのグラフィックスICでDisplayPortの利用が広まると、DisplayPortをHDMIおよびDVIに変換するブリッジ機能が必要になる。このブリッジ機能は、グラフィックスICとは別のブリッジICとして実現するという考え方が妥当だと言える。デジタルインターフェースは物理層と論理層で構成され、両層を分離することで効率的なインターフェース変換を実現できる。HDMIおよびDVIの物理層は比較的高い電源電圧を要するので、0.25μm程度のプロセスのトランジスタ回路で製造する。一方、論理層では電源電圧は問題にはならないので、DisplayPortとHDMI、DVIの論理層を1チップに集積することも難しくはない。

図1 効率的なブリッジ機能の実現方法 図1 効率的なブリッジ機能の実現方法

 そこでグラフィックス用途向けのチップセット(グラフィックスICとブリッジIC)では、DisplayPortの論理層および物理層、HDMIの論理層、DVIの論理層を1個のグラフィックスICに集積する(図1)。そして、グラフィックスICからの出力を受け取って、HDMIとDVIの論理層の仕様に準拠した信号に変換するブリッジICを用意する。グラフィックスICでは、内部のマルチプレクサによって所望のインターフェースの論理プロトコルを選択し、DisplayPortの物理層を介して外部に信号を送信する。外付けのブリッジICは、その出力をHDMIまたはDVIの物理層の規格に準拠した信号に変換する。論理プロトコルへの対応はすでに施されているので、変換後にはHDMI/DVIの各規格に準拠した信号が得られることになる。この構成において、DisplayPortを備えたモニターディスプレイに対しては、グラフィックスICの出力をそのまま直結する。一方、HDMIまたはDVIを備えたモニターディスプレイに対しては、ブリッジICの出力を接続する。この手法は、信号品質、回路の複雑さ、製造コストの面でバランスが良い。

 パソコン本体とモニターとの間に論理層と物理層の両方を変換するブリッジICを配置する方法も考えられる。しかし、この方法では、信号の遅延の増大、コストの増加といった問題が生じる。繰り返しになるが、45nmプロセスの集積度の高さを生かして論理層を低コストでまとめておき、45nmプロセスと整合しないHDMIおよびDVIの物理層だけを別チップ(すなわち、ブリッジIC)にするというのが最良の方法だろう。

 なお、ブリッジICが必要となるのは、モニターがDisplayPortのインターフェースを備えていない場合だけである。DisplayPortを装備したモニターが普及すれば、ブリッジICは不要になる。

 ブリッジICを実装する場所としては、システムボード、ドッキングステーション、ケーブルアダプタ、モニターディスプレイなどが考えられる。これらのうち、どれに実装するかによって、信号品質に及ぶ影響や、コストその他の面で差が生まれる。

 システムボードにブリッジICを実装する手法であれば、コネクタを省けるので信頼性が高まる。ただし、サポートできるインターフェースが1種類に限定されてしまう。必要となるすべてのインターフェースのポートを用意する方法も考えられるが、それではシステムが複雑になり、コストの増加が無視できない。

 ケーブルアダプタにブリッジICを実装する手法であれば、高い柔軟性が得られる。ドッキングステーションは最近ではノート型パソコンでもあまり用いられないので、適切とは言い難い。ドッキングステーション用に、ブリッジICを内蔵したDisplayPort対応のドングルを提供するベンダーが現れるというのが妥当なシナリオだろう。なお、モニターディスプレイの内部にブリッジICを実装する手法は、コスト増となるので現実的ではない。

信号品質の改善

図2 ブリッジICにおける信号整形の効果 図2 ブリッジICにおける信号整形の効果 ブリッジICに入力する信号は、アイが閉じてしまっている(上)。ブリッジICのジッター除去回路によって、出力信号の品質が改善され、アイが開く(下)。Pericom社のブリッジIC「PI3VDP411LS」を使った場合の例である。

 ブリッジICでは、既存のさまざまな信号整形技術によって信号品質を改善することができる。コネクタの数や、グラフィックスICとブリッジICとの間の伝送距離に応じ、ブリッジICにおいて、受信信号からのジッター要因を取り除くことが可能である。また、モニターまでの伝送経路における損失を考慮して、信号にプリエンファシスを与えることもできる。

 各種の信号整形技術を使えば、かなり高い効果が得られる。例えば図2のように、アイパターンにおいて完全にアイが閉じた状態の入力信号でも、ジッター除去回路によって出力信号の品質を大幅に改善できる。ブリッジ回路の利用によって、アプリケーションの性格に応じて信号整形の調整が行えるので、信号の伝送距離やコネクタの数などの問題は軽減される。すなわち、グラフィックスチップセットとコネクタの距離を最短にすることにとらわれずに、チップセットとコネクタを自由にレイアウトできる。このため、ボード設計の柔軟性を高められる。

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