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ΔΣ変調応用ICの進化は止まらず、アナログICベンダーが新製品を続々投入(1/2 ページ)

» 2009年01月01日 00時00分 公開
[EDN]

 特に高精度化への要求が高いA-D/D-Aコンバータにおいて、変換方式としてΔΣ変調方式が主流になってから久しい。その歴史からすれば、同方式はすでに“枯れた技術”であるとも言えるが、その実現手段や回路構成、アプリケーションに適した工夫などの面では、現在でも進化はとどまることがない。ここでは、ΔΣ変調方式をベースとしつつ、特徴的な機能/性能を備えた製品をいくつかピックアップして紹介する。

10Msps/16ビットのADC、連続時間方式で基地局用途を狙う

 米Analog Devices社は2008年11月、入力信号帯域が最大10MHzの16ビットA-Dコンバータ(ADC)ファミリ「AD926x」を発表した。無線システムの基地局や、計測器、医療機器など、高速かつ高精度のA-Dコンバータが求められる分野を狙った製品だ。


図1 連続時間型ΔΣ変調方式の概念図 図1 連続時間型ΔΣ変調方式の概念図 

 AD926xは、オーバーサンプリング技術とΔΣ変調技術を組み合わせて実現されたA-Dコンバータである。サンプリングクロックを受け取り、チップ内部のPLL(Phase Locked Loop)でオーバーサンプリングクロックを生成して、32倍のオーバーサンプリング処理を行う。オーバーサンプリングレートは最大640メガサンプル/秒(Msps)であり、ΔΣ変調器の次数は5次である。同変調器からの出力に対し、後段のデジタルフィルタによって間引き処理を施して、16ビットのデジタルデータを得る仕組みであり、ΔΣ変調方式A-Dコンバータの典型的な構成となっている。同ファミリの最大の特徴は、ΔΣ変調部の積分器を、スイッチドキャパシタを用いて離散型で構成するのではなく、アナログ積分器を用いた連続時間(コンティニュアスタイム)型で構成している点である(図1)。

 一般に、A-Dコンバータの変換方式としては、低速/高ビットの用途ではSAR(逐次比較型)方式が用いられる。例えば、サンプリングレートが1Msps、分解能が18ビットといったクラスのものがこれに当てはまる。一方、高速/低ビットの用途ではパイプライン方式が用いられる。例えば、サンプリングレートが100Mspsで分解能が12ビットといったクラスのものである。

 それに対し、AD926xは、分解能が16ビットでサンプリングレートが10Msps程度といった仕様が求められる用途を狙っている。この仕様を満たすために、連続時間型のΔΣ変調方式を採用した。例えば、パイプライン型でこのような仕様の製品を実現するのに比べて、S/N比(信号対雑音比)は6dB程度優れ、消費電力は半分程度に抑えられるという。なお、製造プロセスは0.18μmのCMOSプロセスを採用している。電源電圧はアナログ系が1.8V、デジタル系は3.3V(以降、スペック情報としては基本的に標準値を示す)。

 連続時間型のΔΣ変調方式には、スイッチドキャパシタを用いたΔΣ変調方式と比較して、以下のようなメリットがあるという。

  • 信号の入力部が抵抗性であるため、ドライバアンプが不要
  • サンプリング周波数が高い場合でも消費電力を抑えられる
図2 AD926xを使用した場合の基地局の構成 図2 AD926xを使用した場合の基地局の構成 図中のAAF、AGC回路(アンプ、制御)が不要になり、直交復調器の出力をAD9262に直接入力することができる。

 一方、連続時間型のΔΣ変調方式で高い特性を得るには、以下のような事柄がポイントになったという。

  • 積分器を構成するオペアンプの低ノイズ化
  • PLLの低ジッター化
  • ΔΣ変調器の構成要素である量子化器とD-Aコンバータにおける高速動作時の低ノイズ化

 先述したように、AD926xがターゲットとする分野は、無線システムの基地局や、計測機器、医療機器などである。特に、基地局の用途においては、次のようなメリットが得られるとしている。

 無線システムの基地局では、直交復調器の後段に、AGC(自動ゲイン制御)回路とアンチエイリアスフィルタ(以下、AAF)が用いられる。連続時間型のΔΣ変調方式を用いることで、これらのAGC回路とAAFを使うことなく、直交復調器の出力を直接受け取ることができるという(図2)。その理由をAnalog Devices社は以下のように説明している。

表1 AD926xファミリ各製品の仕様/価格 表1 AD926xファミリ各製品の仕様/価格 

■AGC回路:通常、無線システムの基地局では、A-Dコンバータとして12ビットクラスのものが使用されるが、AD926xの分解能は16ビットであり、ダイナミックレンジが24dB(理論値)高い。従って、AGC回路によって信号を増幅することなく、そのまま受け取ることができる

■AAF:オーバーサンプリング方式を用いているため、AAFとして高次のものを使用する必要がない。それに加え、アナログ積分器が通常のアナログローパスフィルタ(すなわち、低次のAAF)としても機能するため、外付けのAAFは不要となる

 現在、無線システムの分野では、ハードウエアは固定で、各種方式間の仕様の違いをソフトウエアで吸収するSDR(Software Defined Radio)の考え方に注目が集まっている。このSDRに即した構成を実現可能な製品を提供することがAD926xファミリの狙いの1つだ。

 AD926xファミリには、1チャンネル版の「AD9261-10」、2チャンネル版の「AD9262」、デジタルフィルタを内蔵していない2チャンネル版の「AD9267」の3製品がある。AD9267ではΔΣ変調器からの4ビットのデジタルデータがそのまま出力されるので、基本的には間引き処理(ならびに16ビット化)を行うデジタルフィルタを外付けで使用することになる。それ以外の製品は、間引き処理に加えてサンプルレート変換も行えるデジタルフィルタを内蔵している。また、2チャンネル版のAD9262には、最大入力帯域が異なる3種類のバリエーションがある。いずれの製品もすでにサンプル出荷中であり、仕様の概要は表1に示したようになっている。

 なお、ナショナル セミコンダクター ジャパンも、2008年1月に連続時間型のΔΣ変調方式を採用したA-Dコンバータを発表していた。同社の8チャンネルA-Dコンバータ「ADC12EU050」がそれで、こちらは医療用超音波診断装置における画像処理用途に向けたものである。分解能が12ビットでサンプリング周波数が50MHzでありながら、消費電力を350mWに抑えたことを特徴としている。

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