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DC-DCコンバータにマージニング機能を追加Design Ideas

» 2009年01月01日 00時00分 公開
[Brian Vasquez(米Maxim Integrated Products社),EDN]

 DC-DCコンバータに対し、出力電圧の上限値/下限値をデジタル的に調整可能にする機能(マージニング機能)を付加する手法を紹介する。図1の右側がDC-DCコンバータIC1に付加する回路である。IC2として、本稿ではI2Cで制御可能な電流出力型のD-Aコンバータを使用する。例えば、Maxim Integrated Products社製の「DS4402」や「DS4404」がこれに当てはまる。これらの製品は動作開始時の出力電流が0mAなので、I2Cバス経由でコマンドが入力されるまで、付加する回路がDC-DCコンバータに影響を及ぼすことはない。本稿では、D-AコンバータIC2として、DS4404を使用するケースを例にとることにする。


図1 マージニング機能を付加したDC-DCコンバータ 図1 マージニング機能を付加したDC-DCコンバータ 図の右側の回路を付加することにより、DC-DCコンバータにマージニング機能を持たせることができる。

 DC-DCコンバータ側の条件は以下のようなものであると仮定しよう。

  • 入力電圧VIN:3V〜5.5V
  • 出力電圧VOUTの標準値:1.8V
  • フィードバック電圧VFB:0.6V

 言うまでもなく、このフィードバック電圧はDC-DCコンバータのデータシートに記載された値にするわけだが、D-AコンバータIC2の出力(OUT0端子)がシンク(吸い込み)、ソース(供給)のいずれの状態にあっても、このフィードバック電圧が許容範囲内の値であることを確認しておく必要がある。さらに、DC-DCコンバータのフィードバック端子(FB端子)の入力インピーダンスがD-Aコンバータの出力条件にマッチしていなければならない。図1の回路においては、この部分のインピーダンスが十分に高いものと仮定している。

 また、DC-DCコンバータの出力電圧のマージン(上限値/下限値)が標準値±20%であると仮定しよう。具体的には、出力電圧の標準値が1.8Vであるため、上限値が2.16V、下限値が1.44Vになるよう設定するものとする。以下、この条件で、各定数をどのように決定すればよいのかを説明する。

 まずは、IC2からの電流が0mAの場合に出力電圧が標準値になるよう抵抗R1とR2を決定する。そのベースとなる関係は以下の式で表される。

 ここで、VFBはフィードバック電圧、VOUTNOMは出力電圧VOUTの標準値である。式(1)をR1について解くと、次式が得られる。

 先に前提条件として挙げた数値をそれぞれ代入すると、次式が得られる。

 DC-DCコンバータの出力電圧の上限値は、フィードバック端子の部分に流れる電流値に対応する。この部分に流れる電流は、次の式で表せる。

 ここで、IR1はR1を流れる電流、IR2はR2を流れる電流、IDACはIC2に流れ込む電流である。出力電圧VOUTが上限値VOUTMAXになった場合のIR1およびIR2を考えると、次の2式が得られる。

 式(4)〜(6)から、以下の式が得られる。

 式(1)をR2について解き、それを式(7)に代入すると、次式が得られる。

 この式を電圧調整範囲MARGINを使って表すと、以下のようになる。

 例えば電圧調整範囲が±20%の場合、MARGINの値は0.2である。

 これらの式からR1、R2を求めるには、IC2(DS4404)のフルスケール電流値(IDAC)を決める必要がある。DS4404のデータシートによると、DS4404はフルスケール電流を0.5mA〜2mAの範囲内で使用すれば、精度と直線性が保証されることになっている。しかし、図1の回路におけるフルスケール電流値の理想的な値を求める計算式は存在しない。その値は、上限値/下限値までの調整ステップの数と幅、R1とR2の値によって異なるからだ。そのため、フルスケール電流を所要の値に設定するには、いくつかの計算を行い、それを通して最適な値を選ぶ必要がある。すなわち、フルスケール電流値として推奨範囲内の適当な値を仮定し、その値を基にR1、R2、RFS(フルスケール抵抗:フルスケール電流値の設定に用いる抵抗)および調整ステップを計算する。適切なフルスケール電流値が決まったら、所要の抵抗が容易に入手可能な一般的な値になるよう、さらに電流値や抵抗値を微調整するのである。

 DS4404では、ソース/シンクの出力電流の値を設定するために31ステップの分解能を表現するレジスタが用意されている。フルスケール電流の値を設定すると、出力電流がソース側に31ステップ、シンク側に31ステップの範囲で調整可能となる。これに対応して、DC-DCコンバータの出力電圧を、シンク電流時には標準値から上限値までの間で31ステップ、ソース電流時には標準値から下限値までの間で31ステップ刻むことができる。用途にもよるが、これだけの分解能があれば十分であろう。

 上述したように、計算はフルスケール電流値を任意の値に仮決めするところから始める。DS4404のフルスケール電流の仕様に対して中央値に当たる1.25mAとしてもよいし、両端の値である0.5mAや2mAとしてもよい。ここでは、まずフルスケール電流値を0.5mAと仮に定めて計算してみる。式(9)を変形し、変数に値を代入してR1を求めると、次のようになる。

 フルスケール電流はRFSの値によって設定する。この抵抗値は、DS4044のデータシートに記載された式を用いて以下のように計算する。

 ここで、RFSはフルスケール抵抗の値、VREFはDS4044が内蔵回路によって生成する基準電圧である。

 また、31ステップの各ステップの電流値Istepは以下のように計算できる。

 最後に、レジスタの設定値REGISTER_SETTINGとそれに対応する出力電流IDAC(REGISTER_SETTING)、ステップ数STEP_SIZEの関係を確認しておく(以下参照)。

 ここで、このレジスタ設定値REGISTER_SETTINGは電流のシンクまたはソースを区別するための符号ビットは含んでいない。符号ビットを0にすると電流はシンクとなり、DC-DCコンバータの出力電圧が上限値側に向けて増大する。符号ビットを1にすると電流はソースになり、出力電圧は下限値に向かって低下する。

 次に、フルスケール電流IDACを2mAと仮定した場合について計算してみよう(以下参照)。

 フルスケール電流が0.5mAと2mAの2条件に対するR1とR2の値を比較すると、0.5mAの場合に各抵抗値が高くなっており、より望ましいと言える。

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