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DisplayPort vs. HDMI2つのディスプレイI/F規格、勝者はいずれに(2/2 ページ)

» 2009年03月01日 00時00分 公開
[Ann R Thryft,EDN]
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DisplayPortとHDMIの違い

 ビデオ/オーディオのデジタルコンテンツが急増し、それらが配信されるようになったことで、コンピューティング分野、CE機器分野、さらに通信分野において、次々と新製品が開発されている。それらは、膨大な潜在需要を抱える家庭内ネットワークに接続されるので、競争はより激化している。さらに、コンテンツの保護、DRM(デジタル著作権管理)といった新たな問題も出現している。

 現在、HDMIの規格としては第4世代のものが策定されている。この規格は、主にデジタルテレビ、特にHDTVの外部接続インターフェース向けのものとして設計されている。一方、DisplayPortは、コンピューティング機器の内蔵/外部接続ディスプレイ向けの汎用インターフェースとして一から設計されたものだ。両規格ともにアナログビデオ信号をデジタル化するが、両者が採用している方式は異なる。

 HDMIは、シリアルTMDS(Transition Minimized Differential Signaling:遷移時間最短差動信号伝送方式)プロトコルをベースとしたラスタースキャンアーキテクチャを採用している。信号の伝送においては、個別のデータチャンネル上で各色の情報を送信し、クロック用にもう1つのレーンを使用する。すなわち、常に4レーンのすべてを使うことになる。オーディオ信号の伝送は、水平/垂直のディスプレイブランキング期間に行われる。またHDMIは、双方向補助制御/ステータスチャンネルと、ハイレベルデバイス制御チャンネルという2つのチャンネルも使用する。DRMについては、HDCP(High-bandwidth Digital Content Protection)方式を利用する。現時点ではHDCP 1.3が用いられている。

 一方、DisplayPortは、データネットワークのパケットのように、オーディオ、ビデオ、制御用の各データをパケットとして統合して扱う。このパケットベースのアーキテクチャでは、画面の解像度やピクセル深度、フレームレート、オーディオデータ、DRM用データなどの各種データに応じて、使用するデータチャンネルを1つ、2つ、または4つにすることができる。リンクの管理とデバイスの制御は、1メガビット/秒の双方向補助チャンネルによって行う。DisplayPortの埋め込みクロックは、余分な回路を不要とし、スケーラブルかつ合理化された設計を可能にし、将来的にデータ転送速度を上げたい場合にも容易に対応できるようになっている。埋め込みクロックは、LVDSクロックと、無線用をはじめとするその他のクロックとの間でよく発生する周波数競合を回避する役割も果たす。

 DisplayPortは、HDCP方式を採用した暗号化プロトコルであるDPCP(DisplayPort Content Protection)により、コンテンツ保護機能をサポートする。ただし、これは規格の上では必須とはなっていない。米Pericom Semiconductor社のスイッチ/インターフェースマーケティング担当 製品マーケティングマネジャであり、VESAのDisplayPortタスクグループのメンバーでもあるAbdullah Raouf氏は、「DisplayPortでは、DisplayPortのパケットとHDMI信号を1つのHDCP 1.3ブロックとして効率的に暗号化する」と述べる。VESAは、DisplayPortを採用するすべてのCE機器アプリケーションでコンテンツ保護機能が利用されると予測している。それには、DisplayPort仕様とは別の仕様とライセンス契約が必要になる。

 DisplayPortタスクグループの会長であり、米Dell社のシニア技術スタッフであるBruce Montag氏は、「DisplayPortのパケットアーキテクチャの最大の利点は、ケーブル内のワイヤーの本数が可変であることだ」と述べる。ノート型パソコンの小型化が進むに従い、ディスプレイの解像度と色深度(ビット深度)は増加した。加えて、ノート型パソコンのヒンジ部分を介してアンテナのルーティングを行う形での通信機能が搭載されるようになった。その結果、ワイヤーの本数を削減することが大きな課題となっている。LVDSをDisplayPortに置き換える場合、直接駆動方式でエンドツーエンドの構成となる。この構成では、信号はパソコンからモニターのガラスへと直接伝送される。そのため、さらに薄くて小型のモニターの実現が可能になる。またLVDSの補助チャンネルは単方向であるのに対し、DisplayPortのチャンネルは双方向である。そのため、ノート型パソコンのバックライト制御など、その他の機能も提供することができる。

 米IDT(Integrated Device Technology)社のバイスプレジデント兼デジタルディスプレイ部門担当ゼネラルマネジャを務めるJi Park氏は、「直接駆動方式のモニターでは、スカラーをなくすことにより、プリント配線板、プロセッサ、コンデンサ、抵抗などを含むモニター全体の部品コストを15〜20%削減することができる」と語る。また、ディスプレイのタイミングコントローラとDisplayPortのレシーバを統合することも可能である。IDT社は、モニター、ノート型パソコン、HDTVの液晶パネルをターゲットとするタイミングコントローラIC「PanelPort」においてこれを実現している。

 iSuppli社のLawson氏は、「DisplayPortは、外部接続のビデオインターフェースを置き換えることはないとしても、液晶パネルにおけるマルチ端子の内部LVDSインターフェースに取って代わる可能性を持つ。このことが、特にノート型パソコンや液晶テレビの市場にDisplayPortが浸透していくための鍵になるかもしれない」と述べる。同社は、2008年から2011年の間に、モバイルパソコンの出荷台数は6億台以上、液晶テレビの出荷台数は5億5000万台以上になると予測している。

DisplayPortチップの現状

 プロセスの微細化が進むに連れ、ICへの集積という観点からもHDMIよりDisplayPortのほうが有利になる。スイスSTMicroelectronics社のホームエンターテインメント/ディスプレイグループにおいてDisplayPort/テレビ/モニター部門担当R&Dディレクタを務めるAlan Kobayashi氏は、同社が買収した米Genesis Microchip社に在籍しているときにDisplayPort規格の原案を作成した。「LVDSは、すでに広範な分野で利用されている。しかし、半導体プロセスの微細化が進むに連れ、最適な技術ではなくなる」と同氏は述べる。LVDSで1920×1200ピクセル/8ビットカラーに対応するには、10本の高速差動伝送ペア、つまり20本のワイヤーが必要となる。それに対し、DisplayPortならば2本のペア、つまり4本のワイヤーで済む。LVDSでは3.3Vまたは2.5Vの電圧が必要になるため、45nm以下のプロセスでの実装は難しくなる。

 HDMIでは、DC結合で信号を引き渡す。それに対し、DisplayPortでは信号の引き渡しはAC結合で行われる。また、DisplayPortでは信号の電圧振幅が小さく、HDMIとは終端方式も異なる。Pericom社のRaouf氏は「HDMIでは、必ずレシーバにおいて3.3Vにプルアップすることで終端しなければならない」と述べる。

 プロセスの微細化が進むと、HDMIのI/O電圧の限界による制約はさらに厳しいものとなり、コストとチップサイズを増大させることになるだろう。一方、DisplayPortでは、トランスミッタとレシーバの両方で終端することができる。また、仕様に従えば電圧も2Vを超えることはないため、消費電力を低減できる。電圧振幅が小さいということは、EMI(電磁波干渉)の低減にもつながるということを意味する。

 VESAのMontag氏によると、「DisplayPortのトランスミッタは、グラフィックス機能を統合した新たなノースブリッジチップセット、グラフィックスカードの単体GPU(グラフィックスプロセッサ)のすべてに搭載されている」という。「古いGPUでは、単体のDisplayPortトランスミッタチップを使用することもできるが、その必要性は消えつつある」と同氏は語る。米Analogix Semiconductor社やSTMicroelectronics社などのベンダーは単体のDisplayPortチップも扱っているが、「市場は急速に、DisplayPortのIP(Intellectual Property)をノースブリッジまたは単体GPUに搭載する方向へと移行している」とIn-Stat社のO'Rourke氏は述べる。

 米Intel社は、「Centrino 2」向けのチップセット「Express」において、DisplayPortとHDMIの両方をサポートすると発表している。米AMD社も同社チップセット「780G」について同様の発表を行っている。米NVIDIA社の技術マーケティングマネジャであり、VESA取締役会役員であるDevang Sachdev氏は、「NVIDIA社の単体/マザーボード用次世代GPUは、HDMI、DVI、VGA、そしてもちろんDisplayPortを含む多数の接続オプションをサポートすることになるだろう。これにより、われわれのパートナーや顧客は、最大限の柔軟性を得ることになる」と述べている。

2つの規格、2つの市場

 ノート型パソコン、テレビ、その他多くのCE機器にHDMIが搭載されていることから、HDMIがこれらの機器を統合するための方法となりつつある。一般消費者は、自宅の家庭内ネットワークによってパソコンやCE機器を接続しているかもしれないが、多くのメーカーはこれらを2つの別個の市場であると見なしている。現時点では、DisplayPort支持派は、CE機器に多く採用されているHDMIと、パソコンに多く採用されるDisplayPortの共存を提唱している(別掲記事『相互運用性の確保』を参照)。しかし、DisplayPort規格の策定初期の時代には、HDMIとの関係についての論争はもっと激しいものであった。現在でも、大型デジタルテレビのメーカーなどのCE機器市場向けにHDMIチップを提供するサプライヤの中には、DisplayPortの価値を認めない企業もある。

 米Analog Devices社の先端テレビ部門担当戦略マーケティングマネジャであり、DisplayPort規格の策定に携わったDoug Bartow氏は、「新しくCE機器向け機能を追加することにより、DisplayPortはHDMIとの差異化を図ることができるだろう」と述べる。「われわれの見解としては、DisplayPortにはHDMIとの差異化を図れるようなCE機器向け機能が存在しない。私は、技術者として、DisplayPortはうまく構築された規格であり、3〜4年前に登場していれば誰もが利用していただろうと感じている。しかし、先に存在していたのはHDMIであり、それがDisplayPortが市場へ浸透することを妨げる大きな逆風となっている」と同氏は述べる。Analog Devices社は、すでにDVI、VGA、HDMI向けのチップを大手テレビメーカー20社に提供している。同社はDisplayPortのテストチップも開発済みだが、「顧客からの需要は少なく、チップを開発するための費用を捻出することができない」とBarstow氏は付け加える。

 少なくとも、CE機器分野においては、従来の家庭内ネットワークの能力を超えるほどに、デジタルコンテンツを配信するシステムやチップに対する要求が増大している。米Silicon Image社の全世界マーケティング担当バイスプレジデントを務めるDale Zimmerman氏は、「デジタルコンテンツを配信する方法に大きな変化があった」と述べる。同社は、HDMI規格を共同策定し、HDMIチップを製造している。また、同社の完全子会社である米HDMI Licensing社を通してHDMIのコアをライセンス提供している。「HDMIがこれほどまでに普及した背景には、いくつかの理由がある」と同氏は述べる。中でも、「デジタルビデオについては、コンテンツ源が複数あることと、それを配信するための配信チャンネルが拡大したことが大きい」(同氏)という。例えば、最新のコンテンツ源としては、パソコンよりも所有者がずっと多い、携帯電話機が挙げられる。

 CE機器市場の規模は、パソコン機器市場の規模よりも数倍大きい。機器の種類も所有者の数もはるかに多いからだ。CE機器にモバイル機器も加えると、市場規模はさらに2倍となる。Zimmerman氏は、「CE機器のメーカーは、新たな規格や、テレビの背面に付けるような新たなコネクタには関心がない」と述べる。Silicon Image社は、PDA端末や携帯電話機をターゲットとしたモバイル向けHDリンクチップ製品を開発することを発表している。しかし、VESAは、携帯電話機などのポータブル機器においてDisplayPort対応のディスプレイを外部接続するためのインターフェース規格をまだ確定していない。

 In-Stat社のO'Rourke氏によれば、「CE機器市場におけるDisplayPortの可能性は、パソコン市場における可能性ほど明確ではない。しかし、デジタルテレビのボードとパネルを接続するために用いられる端子数の多いコネクタに取って代わる可能性はある」という。「必ずしも、そうした用途にDisplayPortが使われるようになるとは限らない。しかし、ここにDisplayPort普及の足掛かりがあることは確かだ。デジタルテレビに搭載されるということは、リビングルームの中心に存在するための第一歩を踏み出したということを意味する」と同氏は述べる。

 In-Stat社は、「2009年までにデジタルテレビの内部機能としてDisplayPortの採用が始まる。2010年には特にハイエンドのデジタルテレビにおいて、外部接続ポートにDisplayPortが一部採用されるようになる」と予測している。そうなれば、DisplayPortは、Blu-rayプレーヤ/レコーダ、セットトップボックスなど、その他のCE機器にも採用されるようになるだろう。

相互運用性の確保

図A DisplayPortの相互運用性を表す概念図(提供:VESA) 図A DisplayPortの相互運用性を表す概念図(提供:VESA)  

 複数のディスプレイインターフェースが存在する中、市場での混乱を避けるためにはDisplayPortの外部接続インターフェースを備える機器とほかのインターフェースを備える機器との間の相互運用性を保証する必要がある。そこで、VESAは、DisplayPort規格への準拠度を確認するためのテストや認定プログラムなどを制定した。そうした活動の成果として、マルチモードのDisplayPort規格に準拠した機器を、テレビ、パソコン、CE機器などが備えるほかのディスプレイインターフェースに、アダプタまたはドングルを介して接続することが可能となった(図A)。

 VESAは、DisplayPortの相互運用性に関するガイドラインを2007年に発表した。このガイドラインは、DisplayPort‐DVI間、DisplayPort‐HDMI間のアダプタをターゲットとしたものである。VESAは、DisplayPort‐VGAなど、ほかのアダプタについても検討中だ。

 NVIDIA社のSachdev氏は、「DisplayPortは、相互運用性の確保を念頭に置いて設計されている。VGAとDVIが実装された製品がすでに多数存在しており、両インターフェースは今後も長く使われるだろう。Display Portの規格は、DisplayPort対応機器とDVI/HDMI対応機器との間の相互運用性をアダプタによって確保することを可能としている」と述べる。

 Dell社のMontag氏は、「DisplayPort‐DVI/HDMI用のアダプタには、電圧のレベルシフトを行うチップが搭載される。しかし、DisplayPortからDVIまたはHDMIへのフォーマット変換は行わない」と述べる。DVI/HDMI伝送もサポートするマルチモードのDisplayPort対応GPUは、これらのアダプタの存在を検出し、接続されたディスプレイに対してフォーマットに互換性のある信号を送信する。そのため、アダプタがフォーマット変換を行う必要はないのである。ディスプレイ用のコネクタ1個分のスペースしかないが、多種多様なディスプレイに接続する必要のある超薄型ノート型パソコンなどのシステムにおいては、この機能は重要である。

 Pericom Semiconductor社などのベンダーは、DisplayPortのコネクタが備える電源端子からの電力で動作する電圧レベルシフターを提供している。Pericom社のチップは、振幅が小さくAC結合で伝送されるDisplayPortの信号を、HDMIとDVIで用いられているDC結合のTMDS信号に変換する電気的ブリッジとして働く。同社のRaouf氏によると、「伝送速度の上昇とともに増大するジッターを除去する回路も搭載している」という。

 DisplayPortは、DVIまたはHDMI向けに提供されているものよりも長いケーブルをサポートする。DisplayPortに準拠するソースとディスプレイに対し、最大15mのケーブルを利用できるのである。デジタルプロジェクタなど、いくつかの用途においては、この仕様は重要だ。コネクタは、ケーブルが重い場合に生じがちなケーブルの脱離を防ぐために、ラッチが可能な構造になっている。DisplayPortはカテゴリ5のケーブルで動作するのに対し、HDMIはより高価なカテゴリ2のケーブルを必要とする。なお、カナダGennum社のレシーバチップ「ActiveConnect」を搭載したケーブルを利用するという選択肢もある。これであれば、HDMIまたはDisplayPortの最大帯域幅において、最大100mまで信号の伝送が可能である。

 IDT社のPark氏によると、「HDMIの短所の1つは、TMDSプロトコルが抱える欠点を引き継いでいることだ。すなわち、複数のモニターを単一のHDMIでデイジーチェーン接続することができない。従って、複数のモニターに対しては、複数のグラフィックスカードが必要になる」という。「一方、DisplayPortの拡張可能なアーキテクチャであれば、各モニターに特定のアドレスまたは特定のレーンを割り当てることができる。そのため、単一のソース機器で複数のモニターをサポートすることが可能だ」と同氏は語った。



脚注

※1…"DisplayPort 2008: The DVI Killer Arrives: Executive Summary," In-Stat, May, 2008

※2…Lawson, Randy, "Hogging the Spotlight: HDMI Growth Continues in Spite of DisplayPort," iSuppli, Q2 2008

※3…"DisplayPort Overview," VESA, http://www.displayport.org/white-papers/whitepapers/DP_Overview_English.pdf

※4…"DisplayPort Technical Overview," VESA, http://www.displayport.org/white-papers/whitepapers/DP_Tech_Overview_English.pdf


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