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Bosch社の次期ミリ波レーダー、Infineon社のSiGeチップを採用

» 2009年04月01日 00時00分 公開
[Automotive Electronics]

 ドイツInfineon Technologies社(以下、Infineon社)は、自動車の追突を回避するプリクラッシュセーフティシステムなどに用いられるミリ波レーダーモジュールについて、その関連回路を集約し、コストの低減にも大きく貢献できるSiGe(シリコンゲルマニウム)ベースのフロントエンドチップ「RXN7740」の開発を完了した。すでに、ドイツRobert Bosch社(以下、Bosch社)が2009年5月に量産を開始する第3世代ミリ波レーダーモジュール「LRR3」への採用が決定している。

GaAs比でコストを25%削減

 プリクラッシュセーフティシステムにおいて、前方や後方にいる自動車を検知するためのセンサーとして最も利用されているのがミリ波レーダーである。使用されているミリ波の周波数帯域は主に77GHzであり、通常、そのRF(高周波)デバイスとしてはGaAs(ガリウムヒ素)ベースのチップが用いられる。

 現時点で、プリクラッシュセーフティシステムを採用している車種はほとんどが高級車であり、そのオプション価格は数十万円にもなる。しかし、エアバッグやABS(アンチロックブレーキシステム)のように、低価格の車種にも普及させるためにはシステムのコスト削減が必須である。そして、システムのコストを最も大きく左右するのが、GaAsベースのRFチップだと言われている。

図1「LRR3」のRF部の回路構成(提供:Infineon社) 図1 「LRR3」のRF部の回路構成(提供:Infineon社) 

  Infineon社が開発したRXN7740は、一般的なSi(シリコン)半導体の製造技術を適用できるSiGeベースのフロントエンドチップである。同社でSiGe技術とレーダー開発の責任者を務めるRudolf Lachner氏は「GaAsベースのRFチップを使った77GHz対応のミリ波モジュールでは、RF部とアンテナ部を個別の部品を使って構成している。それに対し、RXN7740ではRF部と4チャンネル分のアンテナ部のミキサーを1チップに集積した(図1)。Si半導体技術を適用することにより、大幅なコスト低減が実現できた」と語る。同社の調査結果によれば、GaAs技術を採用したミリ波モジュールの価格が2008年の時点で160ユーロである。それに対し、SiGe技術を採用した場合には、2010年の時点で、GaAsベースの製品より25%安い120ユーロとなる見込みだ。

 また、消費電力も低減できた。RF部の回路の消費電力を比較すると、GaAsベースの場合に5.5Wであるのに対して、SiGeベースの場合は3Wである。さらに、RXN7740を採用したLRR3は、GaAs技術を採用したBosch社のミリ波レーダーモジュールの現行製品である「LRR2」と比べて性能も向上している。検知範囲は、最大距離が150mから250m、最大角度が±8°から±15°に広がり、精度も向上している。「むろん、レーダーモジュール全体にわたるBosch社の開発努力によって得られた性能だが、RXN7740もそれに貢献できただろう」(Lachner氏)という。

 これらに加えて、Infineon社は、1チップ内にレーダーモジュールのさまざまな機能を集約できることを、SiGe技術の最大の特徴と考えている。例えば、LRR2の回路基板のサイズは62mm×68mmだが、LRR3では25mm×35mmにまで小さくなっている。Lachner氏は、「次世代のSiGe技術では、チップ内に組み込む機能をさらに増やすことで回路基板のサイズを10mm×20mmにまで縮小できる」と語る。

全周辺検知をSiGeレーダーで

 Infineon社では、SiGe技術を適用したミリ波レーダーチップを、プリクラッシュセーフティシステム以外の安全システムにも展開するために、さらなる技術開発を進めている。

 現時点では、自動車の安全システムの中で77GHz帯のミリ波レーダーを採用しているのはプリクラッシュセーフティシステムだけである。車線変更時の後方検知や駐車する際の周辺検知など短/中距離の周辺検知では、24GHz帯のミリ波レーダーや超音波センサーなどが利用されている。

 これに対して、同社は、短/中距離の周辺検知に利用できる79GHz帯のミリ波レーダーチップの開発を、RXN7740と同じSiGe技術を使って進めている。これにより、距離や角度など用途によって異なっている安全システムのセンサー技術を、SiGeベースのミリ波レーダーに統合することで、大幅なコスト低減が可能になるというのである。

 各国の電波行政もこれを後押ししている。欧州では、2013年までに、周辺検知のミリ波レーダーで用いる帯域を、24GHz帯から79GHz帯に移行する予定だ。日本でも、79GHz帯のミリ波レーダーを周辺検知の用途で利用するための取り組みが進んでいる。

 ドイツ国内では、この79GHz帯で使用するSiGeベースのミリ波レーダーの低コスト化を目標に、「ROCC(Radar on Chip for Cars)」という3年間の開発プロジェクトが2008年9月に始まった。このプロジェクトには、Daimler社、BMW社、Bosch社、Continental社など、ドイツの有力自動車メーカーとティア1サプライヤが参加しており、チップ開発はInfineon社が担当している。Lachner氏によれば、「このプロジェクトでは、24GHz帯のミリ波レーダーをコストの比較対象としている。また、低コスト化以外にも、現在200GHzの最大発振周波数を500GHzにまで高めることにより、100GHz以上の高周波帯域のレーダーを開発できるようにする。さらに、RF部の回路の消費電力も1W以下にする。表面実装部品にすることも要求されているが、これは当社独自のWLP(ウェーハレベルパッケージ)を応用することで、2012年にも実用化できる見込みだ」という。

(朴 尚洙)

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