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DSLシステムの保護回路各種保護素子の使いどころを知る(1/2 ページ)

DSLでは、電話回線などの既存の回線を利用してデジタルデータ通信を行うことができる。このDSLのシステムには、雷サージなどの外部ノイズからの保護を実現する回路が必須だ。そして、その回路は、信号品質に影響を及ぼさないよう設計しなければならない。本稿では、ヒューズやTSPD、GDTなどの素子を用いて各種DSLシステムを保護する手法を紹介する。

» 2009年04月01日 00時00分 公開
[Philip Havens(米Littelfuse社),EDN]

“適材適所”の保護回路

 DSL(Digital Subscriber Line:デジタル加入者線)を利用すれば、既存の電話回線や構内配線を流用して高速なデータ通信を実現できる。この特徴から、ADSL(Asymmetric DSL)をはじめとする各種DSLシステムが広く普及している。

 DSLのシステムには、雷サージなどからの保護を目的とした回路が必要になる。そして、どのような保護回路が適切であるかは、回線の種類によって異なる。回線によって電圧の条件や、信号品質の劣化の度合いが異なるからだ。すなわち、あるアプリケーションで有効な保護回路が、ほかのアプリケーションでは適切でないということが起こり得る。

 例えば、HDSL(High Bit Rate DSL)では信号振幅は2.5Vだが、システム全体として見た場合、専用電話回線などにこの信号が重畳され、回線の電圧は260Vにも達する。回路設計と保護素子の選択においては、そうした回線の規格の違いや実情を考慮に入れなければならない。また、電圧の変化の影響を受けて動的に変化する容量値についても考慮して設計を行う必要がある。

それぞれに異なる回線の規格

 DSLでは、電圧の条件が回線接続中に変化する可能性がある。利用する回線がPOTS(Plain Old Telephone Service:基本電話サービス)と共用になっている場合にその症状が現れる。これは、POTSの電池電圧とリンギング電圧が関与するためだ。

 例えば、POTSの公称電池電圧は48VDCだが、最大56.6VDCまで許容している。また、着信時の公称リンギング周波数は米国では20Hz、欧州では25Hz、リンギング電圧は90Vrmsとなっている。だが、実際の信号は、周波数が16Hz〜40Hzで、電圧が150Vrmsに達するケースもある。そのため、通常の条件下での最大予測電圧は、最大リンギング電圧のピーク値150Vrmsに、電話局における電池電圧を加えた値となる。その値は、最悪の場合では約269Vにも達する。

 一方、HDSLは、帯域幅がT1/E1リンクの半分だが、伝送速度が1.544メガビット/秒でT1と同等である。最大信号レベルは±2.5Vで、リジェネレータ用の回線電源は通常190V未満となっている。

 ADSLの伝送速度は、ADSLセンター装置(ATU-C:ADSL Transceiver Unit Central Office)からADSLリモート端末(ATU-R:ADSL Transceiver Unit Remote)までの下りが最大6.144メガビット/秒、同リモート端末から同センター装置までの上りが最大640キロビット/秒と非対称である。VDSL2では、短距離の回線に上り/下りとも100メガビット/秒の伝送速度を採用している。

 電話では、チップとリングの間の過電圧はノーマルモード、チップとグラウンド間またはリングとグラウンド間の過電圧はコモンモードと定義される。過電圧は、近隣での落雷やAC電源ラインの誘導接触/直接接触などにより生じ、2.5kVを超える場合もある。また、サージ電流は500Aに達することもある。このコモンモードに対する過電圧が、ノーマルモードに対する過電圧より高い頻度で発生する。

基本的な保護回路

過電圧に対する保護には、GDT(Gas Discharge Tube:ガス放電管)やTSPD(Thyristor Surge Protection Devices:サージ防護用サイリスタ)、MOV(Metal Oxide Varistor:金属酸化物バリスタ)、TVS(Transient Voltage Suppressors:過渡電圧抑制)ダイオードなどの素子が用いられる。一方、過電流に対する保護素子としては、ヒューズやPTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)サーミスタ素子などが挙げられる。このように設計者にとっての選択肢は多数存在するが、回路の動作に過度な影響を与えないよう効果的にこれらの素子を使用することが重要である。

 ここでは、HDSLとADSLに対する基本的な保護回路を紹介する。保護素子としては、主にヒューズやTSPD、GDTを用いることとする。

図1 HDSLの保護回路例 図1 HDSLの保護回路例 2個のTSPDと2個のヒューズにより、過電圧/過電流に対する保護が行える。

■HDSLでの対策

 まず、HDSLについてだが、HDSLセンター装置(HTU-C)とHDSLリモート端末(HTU-R)のいずれにおいても、コモンモードに対する保護回路が必要になる。これは、HDSLが回線の電源としてグラウンドを利用するためである。

 保護回路は、図1のようなものとなる。チップ(tip)からグラウンド、リング(ring)からグラウンドのそれぞれに1個ずつTSPDを配置して過電圧に対する保護を行う。そして、チップとリングに1つずつヒューズを配置して過電流に対する保護を実現する。また、カップリングトランスのトランシーバ側に、もう1つTSPDを配置することで過電圧保護を行う。


図2 ADSLの保護回路例 図2 ADSLの保護回路例 GDTとヒューズを使用することでADSLのノーマルモードの保護が行える(a)。同様にGDTをTSPDに置き換えてもノーマルモードに対応できる(b)。(c)のように、GDTをデルタ構成に接続することで、コモンモードとノーマルモードのいずれに対しても保護を実現できる。

■ADSLでの対策

 次に、ADSLに対する保護回路を紹介する。ADSLセンター装置とADSLリモート端末のインターフェースにもコモンモードに対する保護が必要となる。ただし、ADSLリモート端末であるADSLモデムには、一般的にグラウンドへの接続が存在しないことが多い。その場合、コモンモードに対する保護回路は用いない。具体的には、図2(a)のように、過電流保護のために定格電流が0.5A程度のヒューズを配置し、過電圧保護としてはGDTを検討するのがよいだろう。また、図2(b)のように、TSPDとヒューズを用いた構成でも、ノーマルモードの保護回路として機能する。

 コモンモードに対する保護も考慮したい場合には、図2(c)のようにGDTを“デルタ型”に配置することで、チップからグラウンドとリングからグラウンドのコモンモードに対する保護と、チップからリングへのノーマルモードの保護を実現できる。

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