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差動ライン間のクロストークを可視化するSignal Integrity

» 2009年04月01日 00時00分 公開
[Howard Johnson,EDN]

 1は、プリント配線板に形成した2系統の差動信号ラインを表している。すなわち、この図では、ストリップラインの断面の一部だけが見えている状態である。各差動信号ラインは、100Ωの特性インピーダンスを持つ。図の下側には、いわゆる“ベタ”の基準面があり、図示されてはいないが、もう1枚のベタ面が図の上側に存在する。


図1 2系統の差動信号ライン 図1 2系統の差動信号ライン クロストークの量は、パターンAとBの間を通過する磁力線の数から推定できる。

 薄い色を付けた細い曲線群が見えるが、これらは左側の差動ラインに流れる電流によって生じた磁界分布(磁力線)を表している。磁力線が互いに近接しているところほど磁界強度が強い。図の右端では磁力線の間隔が最も広くなっているので、この部分の磁界強度が最も弱いということだ。また、磁界発生源の差動信号ラインに近いほど、磁界強度が強いことも理解できよう。磁力線の密な場所、すなわち左側の差動信号ラインの近傍では、モアレのようなパターンが見える。これは画像表示上の制約から来ていることであり、磁界の現象そのものを表しているわけではない。実際には、磁力線はそれぞれの差動信号ラインを同心円状に取り囲んでいるはずである。

 図に示す磁界分布を利用すると、誘導を受ける側の差動信号ライン、すなわちパターンAとBから成る差動信号ラインが受けるクロストークの量が推定できる。現実には、パターンAとBが存在することにより、高周波磁界の分布が変形するので、この見積もりは完全なものでないが、基本的な原理としては有用である。すなわち、この図からパターンAとBの間を通過する磁力線の本数を数えれば、クロストークの量が推定できるのである。

 図において、左側の2本のパターンの間には96本の磁力線が通っている。この数は図からは判読できないが、実はこの図は筆者が自作のシミュレーション用ソフトウエアで作成したものなので、96本に間違いない。一方、右のパターンAとBの各中心点の間には、3本の磁力線が通過している。この96と3という数字の比として、近端クロストーク量(Near-end Crosstalk)が簡単に求められる。つまり、約3%だ。クロストーク量の推定はこれですべてである。

 電磁界解析のエキスパートならば、上述した推定には磁界効果しか含まれておらず、容量性結合の影響が無視されていることに気付くだろう。しかし、それでもこの手法には実用性がある。その理由は、ストリップライン構造では、誘導性結合と容量性結合がほぼ同等レベルの効果を持つからだ。一方を計算すれば、そこから他方の結果が容易に推定できるのである。

 ここで、図の条件を少し変更してみよう。パターンAとBのペアをそのままの間隔でパターン幅の半分だけ左に移動したとする。その結果、パターンAとBの各中心点の間を通過する磁力線は、2本増えることになる。つまり、クロストーク量は約5%まで増え、変更前に比べて2倍近くになる。このように、クロストークは妨害の発生側と被害を受ける側の距離によって大きく変化する。

 もう一度、元の状態から出発して別の条件を考えてみよう。今度は、パターンAの位置は元のとおりとし、パターンBの位置をパターン幅の1/2だけ左に移動させたとする。この場合、AとBの各中心点の間を通過する磁力線の数は3本のままで変わらない。つまり、クロストークはほとんど変化しない。図をより正確に描けば、さらに小さな影響まで評価できるのだが、このままでも、本質は理解していただけるであろう。差動信号ラインを構成するパターン(ライン)の間隔によるクロストークへの影響はわずかだということである。

 差動信号ラインでは、両方のパターンに同等に発生するノイズは除去できる。しかし、条件が非対称な場合には、差動構成の効果によるノイズの相殺は起こらない。

 プリント配線板上の差動信号ライン間のクロストークを低減するにはどうすればよいのか。これについては、図1を用いれば視覚的にも理解できるだろう。干渉によるクロストークを低減するには、隣の差動信号ラインとの間の距離にルールを設けることが不可欠だ。このことは、信号ラインがシングルエンドの場合と同様である。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


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