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» 2009年06月01日 00時00分 公開

HDディスプレイにSD映像を高画質で表示(2/2 ページ)

[Frank Kearney(Analog Devices社),EDN]
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3Dコムフィルタ

 先述したように、HDディスプレイは、アナログ放送やゲーム機、ビデオレコーダなどの映像を高い画質で表示できるようになっている必要がある。チャンネル変更ボタンや外部入力ボタンを押すだけで、HD映像から従来のコンポジットビデオ信号へと表示方式を切り替えられなければならないということだ。その際、小型のブラウン管ディスプレイでは気にならなかった画像の欠陥であっても、最新の液晶/プラズマディスプレイでは見逃せないものとなる。こうしたディスプレイは、大きな画面に、高い解像度、高いコントラストを備えるので、小さな欠陥でも目についてしまうのだ。


図7 3Dコムフィルタの概念図 図7 3Dコムフィルタの概念図 3Dコムフィルタは、2Dコムフィルタにおける空間的な比較を進化させて、時間的な比較を加えたものである。

 この問題を解決するには、適応型3Dコムフィルタ技術を用いるとよい。この手法により、コンポジットビデオ映像の画質を劇的に改善することが可能になる。

 まず、通常の3Dコムフィルタについて説明する。同フィルタは、ある2本の走査線の画素(ピクセル)情報を組み合わせることにより、輝度と色差を分離する。この点は2Dコムフィルタと同様である。両者の大きな違いは、2Dコムフィルタでは近接するライン間に処理を適用するのに対し、3Dコムフィルタでは、現在のラインと過去の画像における同じ場所のラインとの間に処理を適用することだ(図7)。

図8 適応型3Dコムフィルタの適用例 図8 適応型3Dコムフィルタの適用例 (a)は3Dコムフィルタを適用した結果。2Dコムフィルタを適用した場合(b)よりも、高い画質が得られる。

 この3Dコムフィルタをビデオコーダーに実装すれば、優れた画質を実現することができる。具体的には、ドットクロール、クロスカラー、「ハンギングドット」といった画像の乱れをほぼ除去することができる。これは、3Dコムフィルタによる輝度と色差の分離方法では、いずれの信号も帯域幅を維持することができるためだ。これにより、輝度に関しては、高周波数成分が維持され、詳細な部分まで識別可能な鮮明でクリアな画像の提供が可能になる。また、色差に関しては、より明るく解像度の高い色を実現できる(図8)。

図9 3Dコムフィルタにおけるフレームの比較 図9 3Dコムフィルタにおけるフレームの比較 NTSCのフレームに3Dコムフィルタ手法を適用した様子を表している。

 先述したように、2Dコムフィルタでは、隣接するラインに対して解析/処理を行う。それに対し、3Dコムフィルタではフレームごとの情報を比較する(図9)。つまり、現在のフレームのデータと、メモリーに格納された1つ前のフレームのデータとの比較を行う。これら2つのフレームデータを加算すると、各ピクセルの色差情報は相殺され、輝度情報は2倍になる。同様に、両フレームデータの減算処理を行うと、輝度情報が相殺され、色差情報は2倍になる。


図10 3Dコムフィルタの適用例 図10 3Dコムフィルタの適用例 動きのある画像に3Dコムフィルタを適用すると、(a)のように画像に乱れが生じる。

 優れたメリットを持つ3Dコムフィルタではあるが、課題も存在する。3Dコムフィルタによって輝度と色差を完全に分離できるのは、画像が静止している場合だけである。もし、画像が動く場合、言い換えると2つの連続するフレームのピクセルデータが異なる場合には、そのフレーム間に単純な3Dコムフィルタを適用することはできない。従って、3Dコムフィルタは、現在のフレームにおける各ピクセルデータに対し、保存された過去のフレームと比較して動きがあったかどうかを判断する適応型にする必要があるのだ(図10)。つまり、動きを検出し、動いたピクセルデータに対して3Dコムフィルタを適用する。この動きを検出する処理は複雑なものとなる。

 また、現在のフレームと保存されたフレームのすべてのアクティブなピクセルデータを解析し、どの分離手法を適用するのかを決定する必要がある。動きのないピクセルデータに対しては、3Dコムフィルタを適用する。動きが複雑でない領域に対しては、2Dコムフィルタを適用する。そして動きの複雑な領域にはノッチフィルタを適用するといった具合だ。

 このように3Dコムフィルタの処理自体ではなく、複雑な動き検出と状況に応じたフィルタの切り替え処理が適応型3Dコムフィルタにおける主な課題である。逆に言えば、そこに進歩の余地が残されている。

うまく処理できない例

図11 動きのある画像の例 図11 動きのある画像の例 鳥が羽を動かす際の通常の順序を示している。羽はまず下向きとなり(a)、次に上向きになって(b)、再び下向きに戻る(c)。

 適応型3Dコムフィルタの処理性能は、動きを正しく検出する能力に依存する。動きを正しく検出することができなければ、コムフィルタはピクセルデータを誤って処理し、動いている部分に画像の乱れが生じることになる。

 図11(a)において鳥の羽は下向きになっている。図11(b)では羽は上向きに動いており、図11(c)では下向きに戻っている。これは、鳥の羽の通常の動作である。多くの適応型3Dコムフィルタでは、図11(a)と図11(c)のフレームが同一であると検出し、動きはなかったと誤って判断してしまう。その結果、3Dコムフィルタが適用される。すると、図12に示すような画像の乱れが生じる。

図12 動き検出を誤った場合の画像の乱れ 図12 動き検出を誤った場合の画像の乱れ 3Dコムフィルタが不適切に適用されることで、目に見える網目状のアーティファクトが生じている(a)。動きを補正すれば、アーティファクトは生じない(b)。

 一方、高性能な適応型3Dコムフィルタは、複数のフレームを記憶して、すべてのフレーム間の動きをより正確に検出する。つまり、3Dコムフィルタをいつどこに適用するかを適切に判断するには、多数のフレームを使用して解析する必要があるということだ。

より高度な機能

図13 薄型ディスプレイパネルとリモートボックス 図13 薄型ディスプレイパネルとリモートボックス ローエンドのディスプレイパネルでは、表示器と制御回路が別個の装置に分かれている。

 上述したように、3Dコムフィルタを正しく機能させるには、解析と処理のためにメモリーバッファに複数のフレームを保存しなければならない。例えば、Analog Devices社のSDTV/HDTVビデオコーダー「ADV7802」は、適応型3Dコムフィルタとグラフィックスデジタイザを搭載し、3Dコムフィルタ以外の処理にもメモリーバッファを利用している。これにより、現在のフレームのピクセルデータと保存しておいたデータとを比較し、フィルタリングによって画像からノイズを除去するといった処理が行える。

 また、メモリーバッファは、高度な時間軸補正に利用することもできる。具体的には、フレームベースの時間軸補正を行うことが可能であり、一定のクロックや、ラインごとに一定のサンプル数、フレームごとに一定のライン数、正しいフィールドシーケンスなどを実現できる。これらの機能は、テレビにおける一般的な要件ではない。しかし、多くのメーカーが、ディスプレイパネルを薄くするために受信機と制御回路の多くを外部のリモートボックスに配置しているため、この機能は有用である(図13)。

 このような設計では、テレビと直接接続するためのケーブルの本数にも制約があり、テレビの位置によっては配線が複雑になったり、配線が困難になったりする可能性がある。この配線を簡素化するために、リモートボックスはHDMI(High Definition Multimedia Interface)などのリンクを介して、ディスプレイに接続されることになる。このHDMIが正しく機能するには、テレビに安定したピクセルデータとクロックデータを出力する必要がある。ここで、先ほどのビデオコーダーの時間軸補正機能を用いることにより、非標準タイミングの入力を標準タイミングに変換してテレビに送信することができる。

 輝度と色差の分離以外にも、コンポジットビデオ信号の処理には、画質に直接影響を与える要素が数多く存在する。例えば、アナログ入力におけるA-Dコンバータの性能は、ディスプレイが受信する全体的なビデオ画質に大きな影響を与える。ADV7802の場合、12ビットのA-Dコンバータを備えており、62dBを超えるS/N比(信号対雑音比)を実現している。

 また、ビデオコーダーは、非標準の信号も処理できなくてはならない。テレビのユーザーやメーカーは、この要件を非常に重要視している。ハイエンドのプラズマディスプレイまたは液晶大画面テレビを購入したばかりの消費者は、古いビデオテープレコーダやアナログRFケーブルシステムを接続しようとするかもしれない。そして、HDに対応したそのディスプレイに対し、少なくとも以前のCRTテレビと同等の性能レベルを期待するだろう。従って、ビデオカセットレコーダからの一時停止や早送り/巻戻しといったモードにおける表示に対しても、画像を維持し続ける必要がある。

 また、25dBμV未満の弱いRF信号の場合にも、カラーサブキャリアと同期信号を保たなければならない。このような旧式の非標準機器からの低レベルなRF信号/ビデオ信号により、数多くの課題が存在することになる。それに呼応する形で、多くのメーカーが、このような信号源に対応することをうたい文句にしてビデオコーダーを販売している。例えば、ADV7802では、HSYNC(Horizontal Synchronized:水平同期)およびVSYNC(Vertical Synchronized:垂直同期)処理ブロックとともにPLL(Phase Locked Loop)ブロックを用いて、同期情報を正しく抽出することが可能だ。

 HD映像が普及し始めた今日であっても、SD映像を高い画質で表示するのは重要な機能である。そのことを念頭に置いて、ビデオコーダーを選択し、システムを構築すべきだろう。

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